100 三年目の学園祭!
僕の話を聞いて、イヴだけではなくネーベルもヒルトも、仕方がねーなーって顔をする。
そして誰が言い出したのか、僕のモチベを上げるために、学園祭の準備期間中は放課後練習をする僕をイヴたちが迎えに来て一緒に帰ることになった。
やったー。
現金かもしれないけど、放課後イヴと一緒に帰れるなら、僕、頑張るー!!
イヴと一緒に帰寮という餌につられ、演武の練習も頑張って、あっという間に学園祭当日。
領地経営科の三年生は展示物だから、見張りや展示の案内、受付のローテを決めて、時間になったらそれぞれの担当に就くことにした。
今までは、オティーリエたちと一緒に行動することが多かったけれど、ソーニョを釣る餌役をやってくれると言ったし、ヴァッハも僕の協力者になっていると知ったから、僕と一緒の行動はいったん取りやめている。
それでもオティーリエは公女だからね。ヘレーネ嬢やブルーメ嬢。それから寄子家の令嬢たちと一緒に行動しているし、一人にはならないようにしている。
公爵や侯爵クラスになると令嬢一人での行動は、絶対に許可されないんだよ。たとえ学園内でも、何かあったらの『何か』を保護者である親は警戒してるんだよね。
この『何か』っていうのは、例えば家門の敵派閥の襲撃であるとか、婚約者持ちだった場合は、異性と二人っきりにさせないとかだね。
ヒルトもオティーリエもヘレーネ嬢も、視界に入る場所に必ず傍に寄子の令嬢がいるから、絶対に一人になるってことがないのだ。
ヘッダも僕らやヒルトたちと一緒にいないときは、あのクラウディウスがくっついてるしね。
っていうか、基本的に令嬢が単独で行動することは殆どない。
集団で行動するって言うのは騎士科にいる女生徒もで、まぁ騎士科にいる女生徒はほとんど平民なんだけど、中には変わり種の貴族のご令嬢もいないこともない。
それでも女生徒は、決められているわけではないのに、基本的に集団で行動でしていて一人でいるってことはないのだ。
ないはずなんだけどなー……。
僕がこんなことを気にするようになったのは、例の女生徒が発端だった。
そう、オクタヴィア・ギーア嬢である。
オティーリエたちに突っかかって以来、オクタヴィア・ギーア嬢は頻繁に僕らに接触してくるようになったのだ。
準備期間中、僕らのクラスにやってきて、お手伝いしますと言って騒ぎだして大変だったんだよ。みんなさっさと追い返してくれたんだけどね。
オティーリエとの騒ぎが起きる前までは、遠巻きにちらちらとしてた程度だったのに、急に路線変更してきた。
もー、ソーニョのことがあるから、オクタヴィア・ギーア嬢のことは後回しにしたかったのになぁ。
学園祭の準備期間中に、何度も教室にやってくるオクタヴィア・ギーア嬢に対して、クラスメイト達も目当てが僕らだと見抜いているのか警戒してくれているのだ。
展示の見張りや受付のローテも、僕らの担当の時にオクタヴィア・ギーア嬢の姿を見つけたら、すぐに交代して僕らをその場から移動させることになっている。
悪いなぁと思うんだけど、僕らが留まっている方が、周囲に迷惑をかけてしまうのだ。
僕の奉納演武は最終日の終了間際にやることになっている。おじい様にもその旨伝えているから、おじい様たちが来るのは、最終日だと思っていたんだけど、なんと初日にも来てくれたのだ。もちろんおばあ様も一緒に。
初日はゆっくり展示物を見て、最終日に僕の奉納演武を見てからフルフトバールに帰るらしい。
おじい様とおばあ様に展示の案内と説明をした後、クラスメイトにそのまま休憩に入っていいと言われたので、お言葉に甘えることにした。
おじい様とおばあ様と一緒に、ヒルトたちのクラスの展示物や、テオのクラスのビックリハウスを回って、最後にネーベルの屋台ものぞかせてもらう。
ネーベルたちの屋台は、飲食街のお店と提携しているので、しっかり運営されていた。
腸詰……まぁフランクフルトなんだけど、腸詰に刺さっている木串は必ず屋台前のゴミ箱に捨ててるようにとか。飲料のゴブレットは、返却してくださいとかね。
木串や油紙をその辺に捨てたり、飲料のゴブレットを置きっぱなしにして返却されないと、来年の屋台は出店数が減りますので、ゴミ回収のご協力してくださいって、品物を渡すときに必ず言ってるんだよね。
これが意外と効果があって、ちゃんとゴミ箱に捨ててくれるし、ゴブレットの返却もされている。
屋台もいいよなーって思っちゃった。
僕とおじい様とおばあ様の三人で、あっちこっち見て回ったあと、休憩スペースで少し話をすることにした。
「おじい様。前にも聞いたんですけど、僕の結婚相手は自由に選べるって言ってましたよね? それは今も変わりありませんか?」
僕からの言葉におじい様は面食らった顔をする。
「あぁ、それは変わりないぞ。しかし……、アルベルトがそんなことを聞いてくるなんて、何かあったのか?」
本来なら僕の婚姻相手は、この段階で決まっていてもおかしくない。
母上を側妃にするにあたって、フルフトバール侯であるおじい様は、王家に対して条件を出している。
きっとそこには僕の婚約に関しても取り決めがあったはずだけど、国王陛下がおじい様からの条件を反故にした挙句、僕が王位継承権を手放すことにしちゃったから、その婚約の取り決めもなくなってるはずだ。
僕の婚約や結婚は、王籍を抜けてからになると思うんだけど、おそらくその頃には、つり合いの取れるご令嬢は、残ってないだろうなぁ。もうほとんどお相手がいる状態のはずだ。
だからヒルトも言っていたけれど、マルコシアス家の家門、もしくはフルフトバール侯爵の派閥から、僕より年下の相手を見繕うって算段になってるはずだ。
「まさか、また陛下が……」
心配そうな顔でそう漏らすおばあ様に、おじい様の表情が険しくなってしまう。
あー、おばあ様は母上のことがあるから、国王陛下に対しての不信感が山盛りになってる。そしてそれはおじい様も同じく思ってる。
まー、国王陛下のマルコシアス家に対してのやらかしは、一度や二度のことじゃないから、警戒するのも仕方がない。
でも、今回は濡れ衣!
「ないない、ないです! 違います!」
国王陛下を庇うわけじゃないけれど、関係ないのは事実だし、おばあ様の危惧は、慌てて否定させてもらった。