99 側近がご褒美を用意してくれた
クラス長にシュッツ神道の神の宣託は絶対!と念を押されてしまっただけではなく、クラスメイト達も口々に演武やってくださいと言ってきてしまったため、結局、僕だけ個別に奉納演武を舞うことになってしまった。
くっそー、仕方があるめー! こーなったらやけだ! やったるわー!
クラスの展示作品の自分の持ち分の制作をやりつつ、一日一時間ほど、演武の練習をする。
去年はみんなで一緒に練習してたから、人目に触れてもなんとも思わなかったけど、今年は僕一人で、しかも練習を見られるのはなんか……、いやん!な感じなので、人のいない場所でこそこそやっている。
どうせ本番見られるんだからとか言わないで! わかってる! それはわかってるんだけど、練習してるところを見られるのはまた違うんだよぉ!!
学園祭の準備期間は、お昼以降は帰宅と決まってるけれど、僕はお昼が終わってから、使われていない空き教室を借りて、一時間だけ練習して帰ることにした。
イジーとオティーリエたちには、付き合わせるのも申し訳ないので、先に帰ってもらう。
これは実験も兼ねているのだ。
学園祭の準備期間中、オティーリエたちの寮への送りは、イジーだけしかいないと言うことを伝えている。
イジーにも話を通しているから、オティーリエたちに声をかける隙があれば声をかけるように言ってあるのだ。
今までは僕とイジーの二人だったけど、イジーだけの場合、ソーニョが動くかどうか確認したい。
もしこれでソーニョが接近してくるとしたら、あいつは僕を警戒してオティーリエに声をかけなかったということがわかる。
ただなー、今ちょっとイジーとヘレーネ嬢の関係がねぇ。
気のせいにしておきたい。いや、今、イジーたちのことを考えるのはやめておこう。ごちゃごちゃっとして、僕の思考がパンクする。
今は、演武の練習に集中!!
ここで、くるッと回って。
「アルー」
ノックとともに聞こえてきたネーベルの声に、バランスを崩してばたんと床の上に倒れる。
「迎えに来たぞー。って、何やってるんだ?」
「今日は、うまく踊れない」
床の上に寝そべったまま、ブーブーと文句を言う。
「嫌々踊ると、ヴィント神がへそを曲げるぞ?」
「僕が曲げたいよー」
傍までやってきたネーベルが、しゃがみ込んで上から僕の顔を覗き込む。
「夏はちゃんとやってたじゃないか」
「主神殿のほうでね。もうそこで一回踊ってるんだからさぁ、わざわざ学園祭で踊らなくたっていいじゃん」
「ヤダヤダ状態か」
僕だってそんな時だってあるよー。
「ご褒美が欲しい」
「言うと思った。ヒルト、イヴ」
え?
ネーベルが入り口に向かって声をかけると、そこにはヒルトとイヴが顔を出してた。
「えー?! イヴ?! どうしてー? うれしー!」
お昼一緒に食べてるから、毎日顔は合わせてるけど、それでも嬉しいよー。
「ネーベル様が、アルベルト様のご機嫌を取ってほしいって」
うぐっ。さすがネーベル。側近だけあって、よく僕のことをわかってる。
「だってお前、基本的に強要されて何かをやるの、嫌だろう? 話を聞いて納得したらそうじゃないけど、自分の中で納得できないと、ヤダヤダ状態になるじゃないか」
「だってー、だってー」
「はいはい、わかってるって。そんな情けない顔すんなよ。せっかくイヴを呼んだんだからさ。今日はもう帰ろうぜ。神事は嫌々やるもんじゃないんだろう?」
「うん」
ネーベルに促されて、身体を起こす。
「フフッ。アルベルト様も、床の上に寝っ転がったりするのね」
寝っ転がってぼさぼさになった髪をイヴが手櫛で整えてくれた。
優しい。わ~、やっぱりイヴ、好きー。
「するよー。昔はフェアヴァルターって僕のお師匠様に、身体の動かし方とかいろいろ教わっててね。あの頃、僕は基礎体力がなかったから、すぐにへばっちゃって、地面から起き上がれなかったこともあったんだよ」
「なんか……想像できない。アルベルト様って、なんでもできそうな感じがした」
「ないない。勉強だってそこそこだよ。テストで一番とってないでしょ?」
「そうだけど……」
「アルベルト様、イヴ。その辺にしてそろそろ帰りましょう」
ヒルトに上着のケープを渡される。
「あまり遅くなると、シルトとランツェに心配されますよ」
一応、シルトとランツェには演武の練習をしてから帰るから、みんなよりも帰りが遅くなることは伝えている。
けど、遅すぎたら、やっぱり心配するか。
「うん」
ネーベルとヒルトに身支度を手伝ってもらいながら、帰り支度をする。
借りていた教室の鍵を教員室に返却して、帰寮することにした。
「アルベルト様。どうして学園祭で奉納演武したくないの?」
帰り道、イヴが訊いてくる。
「去年のオスマンサスの出し物は、カメリアでも話題になってたのよ」
「うん……」
それはね、ルイーザ先輩も言ってたし、評判良かったってんだなってわかる。
「目立つのが嫌って言うのでもないんでしょう?」
「うん」
王子だもん。人目を集めちゃうのは慣れっこだよ。
「何が嫌なの?」
こうやって話を訊きだしてくれるイヴに、僕の胸がキューってなる。優しいなぁ。嬉しいなぁって思う。
「やらされてる感が、なんか、いやだ」
「やらされてる感?」
「去年はクラスのみんなで踊ったでしょう? クラスの出し物として奉納演武に決まったし、だから、嫌だって気持ちにはならなかった」
「そうね。じゃぁ今年はなんで嫌だって気持ちになっちゃったの?」
「今年はさ、ヴィント神が他の神様に自慢したいからやれって、神官に宣託出した。それが、なんか、僕の中でむかーっとしてるんだと思う」
言葉に出してみると、たいしたことじゃないな。結局、僕の気持ちの問題なんだ。
子供っぽいって、イヴは呆れてしまっただろうか?





