87 沙汰を言い渡す
結局のところ、アインホルン学長とザルツ秘書は、自分は悪くないと自己弁護を繰り返した。
二人の主張をまとめると、アインホルン学長は、第一王子が不正をしたと言ったのは秘書。ザルツ秘書は、学生の言葉をそのまま告げただけで、採点調整という不正があったのではとは言ったけれど、第一王子殿下が不正をしたとは言っていない。
言った言わないという水掛け論が、アインホルン学長とザルツ秘書の間で行われたのだが、注目すべきところはそこではない。
ちゃんとした調査をせずに、僕が学力テストでカンニングという不正をしたと決めつけたことだ。
「してない不正をしたと決めつけたのは、アインホルン学長ですもの。たとえ自分から言い出したことではないとしても、その件でアルベルト様を呼び出し糾弾しようとしたのは事実。そのままでというわけにはいきませんでしょう?」
満面の笑みで、だけどその眼光は鋭く、ヘッダは沙汰を言い渡す。
「理事会での話し合いの結果を伝えますわね。ローレンツ・ヨハン・アインホルン卿は、王立学園上学部の学長を懲戒免職とさせていただきますわ。このことは、他の保護者の方にも通達させていただきます」
その通達がどういった内容になるのか、わざわざ言わないのはアインホルン学長……いや、ローレンツ・ヨハン・アインホルン公子への嫌がらせだな。
「では、次はわたくしの方から、アインホルンの次期後継者として、当主であるジークフリート・カイル・アインホルン公爵のお言葉をお伝えします。ローレンツ・ヨハン・アインホルン公子、即日領地への蟄居を命じるとのことです」
「オ、オリー! なぜ?!」
淡々とした口調でオティーリエはアインホルン公子へ、家長の言葉を伝える。
「なぜ、とはどういった意味でしょうか?」
「わ、私はお前のために……」
「アルベルト殿下への不当が、なぜわたくしのためなのでしょう?」
オティーリエの態度にアインホルン公子は怯んだ。
自分の味方になってくれると思ったのに、そんなことはなく、むしろ僕に対しての仕打ちに怒っているようなオティーリエの様子に、混乱しているのかもしれない。
「だ、だってお前……、リューゲン殿下のこと嫌がっていただろう?」
「いつの話をなさってるのですか」
オティーリエはキッと鋭い視線で、アインホルン公子を睨みつける。
「確かに、わたくしは幼少期、会ったこともないアルベルト殿下を警戒しておりました。それは、国王陛下の側近であった方々が流布した悪い話を真に受けてしまったからです」
実際は自分が愛読していた小説のキャラクターに転生して、悪役回避をしたかったんだけど、オティーリエはその件に関しては、親兄弟にも話していない。
以前オティーリエに、どうして家族に話さないのかと訊いたら、父親と公子たちにはなぜか話したくないと言ったのだ。おそらく魅了の影響下にある相手は信用できないと、オティーリエは無意識に思っているからだろう。
ちなみに母親である公爵夫人には話そうとしたらしい。だけど、公爵夫人に中身が実の娘じゃないと知られるのが怖くてできなかったそうだ。
それはねー、あるだろうね。
親に嫌われたら、さすがにへこむよ。
え? 僕はどうなのかって? 僕の父親はクリーガー父様ですが、なにか?
僕の思考とは裏腹に、オティーリエとアインホルン公子の話は続いていた。
「だけどリューゲン殿下のせいで怖い目に遭っただろう?! それでお前は部屋から出てこなくなったじゃないか」
「あの事件の被害者はアルベルト殿下もです。部屋から出てこなかったのは、自分の甘さ故の話です。公爵家の人間に生まれていながら、継承権を持ちながら、自分の身に降りかかる危険に備えるどころか、そんなことが起こるのだと、その知識さえもなかった。自分の覚悟のなさに、自己嫌悪していただけです。アルベルト殿下のせいというのは暴論ですよ。わたくしは、そんなこと一度も思ったことはありません」
はっきりとそう告げたオティーリエは、鋭くアインホルン公子を睨み続けている。
「わたくしは、そうやってローレンツお兄様が、アルベルト殿下を目の敵にすることにこそ、嫌悪します」
「なっ!」
「何を警戒しているのかはわかりませんが、アルベルト様のことを『たいした相手ではない』とか『もっと相応しい相手がいる』とか仰って、何の話をしているのかさっぱり理解できません。そもそも、わたくしとアルベルト様は血が近いのですから、婚約や婚姻などできるはずもないでしょう」
それな。
そうなんだよ。近すぎるんだよ。僕の子供とか孫辺りなら、一考に値するけれど、今の僕らでは近すぎるから、もう少し薄めないと無理なんだって。
それこそ競走馬じゃあるめーし、インブリードして生まれる子供に何を期待するのかって話よ。
魔力量? そんなん、上位貴族は平民に比べれば『あ、多いですね?』程度の話だ。そして僕の場合は、平均的な量だし、ネーベルとそう変わらん程度よ。
「だ、だけど、仲がいい……」
「当たり前です。お兄様はフルフトバールの重要性をお学びではないのですか? わたくしは、アルベルト様に自分の無知を指摘されて、しっかり学びました。フルフトバールと敵対して、アインホルンに何の利益があるのです。魔獣狩りというエキスパートを育成しているフルフトバールとは友好関係を結ぶべきでしょう。敵対する意味があるならどこに、何のためにあるのでしょうか。お知りになってるなら仰ってくださいませ」
ガンガンと突っ込むオティーリエに、アインホルン公子は言葉が出ない様子で、せわしなく視線を動かす。
だけどさっきのこともあるから側近は、フォローの手を出さない。
先にザルツ秘書を切ったのアインホルン公子だからね。
これって因果応報って言うのかな?





