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ざまぁフラグが立ってる王子様に転生した  作者:
王子様の学園生活(三年生)

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82 君に好きだと言った

 誰もが賛美する絶景の場所とか、朝焼けや夕焼けの奇麗な時間帯とか、そんなロマンチックな雰囲気で告白するのは、確かに理想的だけど。

 そんな風に告白される女の子は嬉しいかもしれないけれど。

 でも、僕はそんな奇麗な記憶に残る告白はできない。


「イヴ。ここにはない、遠い世界の話を聞いてくれる?」

「ここにはない世界?」

「うん、きっと誰も行けない場所。行けるとしたら最果ての門を潜った人だけかな?」

「生きてる人は行けないってこと?」

「まぁそんな感じ。その世界にはね、僕らの世界と同じように、場所によって言語が異なるたくさんの国があるんだ」

 僕の話にイヴは耳を傾ける。

「その世界の共通言語に『アイ・ラブ・ユー』って言葉がある。アイは私、ラブは愛、ユーは貴方。ストレートに訳すと『私は貴方を愛してます』になるんだけど、東にある小さな島国のとある文豪が、『アイ・ラブ・ユー』を『貴方が好きです』と訳した教え子に『月が奇麗ですね』と訳せと言ったんだ。我が国の人々はそんな直情的に愛する気持ちを伝えたりしないってね」

「月が、奇麗……」

 実際のところ漱石さんが言ったのは、『日本語で『アイ・ラブ・ユー』は訳せねーよ。難しいんだわ』だったそうなんだけど、まぁ、漱石さんの逸話と広まってるのでね。

「同じ東の島国の違う文豪は、他の国の物語を訳すときに、男性からのアプローチを受け入れる女性の科白を『死んでもいいわ』って訳した」

「愛してるじゃなくって、死んでもいい、なの?」

「うん。愛しい人と結ばれるなら『死んでもいい』ってことだね」

「情熱的だわ」

 確かに情熱的。かなりドロドロした恋愛事が書かれた半自伝的なものだからなぁ。

「奥ゆかしい言葉を使って愛を表現するのね。矛盾しているように思えるけれど、きっとそこがいいんだわ」

「この二つの話を知っている後世の人たちは、『月が奇麗ですね』と告白したら『貴方となら死んでもいいわ』と返すようになったらしいよ」

「……素敵な話」

 うっとりとするイヴ。女の子はやっぱりこういう話が好きなんだな。

 こうやって改めて考えると、昔の文豪たちのように、気の利いた言葉を使っての告白は、僕にはできそうにない。

 でも前振りとしてはいい題材になったかも。漱石さん、四迷さん。ありがとうございます。


「あのね、イヴ。僕、君のことが好きだよ」


 唐突の告白に、イヴは何を言われたのかわかってないって顔をする。

「え?」

「友達としての好きじゃないからね。恋の意味での好きだから」

「あ、あの、え? え?」

 驚いてる顔のイヴも可愛いなぁ。

「いきなり言われて驚くと思うけど、冗談じゃなく本気だよ」

 言葉なく、ただ茫然と僕を見つめるイヴに、僕は話を続ける。

「イヴはきっと、そういう気持ちを僕には持っていなかったと思うし、ひょんなことから知り合って一緒にランチをする友達って認識だと思うんだ」

 最初は遠慮してたし警戒心もあったけど、今はちゃんと友人としての枠組みで見てくれていると思う。

 そうなったのは、イヴに寄り添ってくれているヒルトのおかげでもある。

「僕はイヴと恋人になってお付き合いしたいし、その先のこともちゃんとしたい。そこは揺るがないし、そういう気持ちで、好きだと言いました。その場限りの感情とか、浮ついた気持ちでないことは信じてほしいな」

 イヴはしっかりしている子だから、今は驚きが先行して、何も考えられない状態だと思う。

 でも時間が経てば冷静になるし、その時、王子である僕からこんなこと言われたって思い返したら疑うだろうな。

 本当に好きなのか? 学生時分の遊び相手としてじゃないのか?ってね。

「僕のことを意識してほしいし、好きになってほしい。だからね、週一、最低でも月一で、こんな風に一緒に出掛けてほしいんだ。僕と二人っきりってわけじゃなく、ネーベルとヒルトも一緒だから安心して」

「ヒルトとネーベル様も?」

「二人っきりで出かけられないのかヘタレ、なんて言わないでね? 僕だってできればイヴと二人でお出かけしたい。けど、これでも王子殿下だからね。イヴと二人でお出かけっていうのは無理なんだよ。常に誰かを傍に置いて行動しなくちゃいけない」

 お忍びデート? できることならやりたいよ? だけど本当にお忍びというわけにはいかない。

 警備をする騎士たち全員に、前もって通達しなくちゃいけないし、デートコースもあらかじめ決めておかないといけないし、もちろんコース以外のところに行くのもダメ。

 結局のところは『お忍びごっこ』なんだよね。

 僕は自分がまだ王子という立場にいると自覚している。だから、デート中に護衛をまいたら、周囲にどれだけの迷惑と、後始末の手間をかけさせるのか理解してる。

 あと、両想いじゃないのに二人っきりデートはねぇ? なんか違うかなーと思うんだ。


「返事は聞かないの?」


 少ししてからぽつりと呟くイヴに、僕は頷く。

「今のイヴの返事は、お断りだってわかってるもん」

「……」

「でも、それはイヴが僕を恋愛の対象っていう意識ではなく、仲のいい友人だと思ってるから、でしょう? ここでイヴがお断りの返事をしても、僕は諦めないよ? だってイヴは僕のことを恋の相手として意識してないから断ったって思うから。だから、しばらく僕とデートをして考えてほしいんだ。僕がイヴに恋をしたように、イヴが僕と恋をできるか。恋が芽生えるか。好きになれるか」

「そんなの……、私ばっかり都合がいい話じゃない」

「そうだよ。選ぶのはイヴだからね。今日、僕はイヴに告白したから、こうやって一緒にお出かけするときは、君が好きだって気持ちを伝え続けるよ」

 どうか、少しでもいいから、イヴが僕のことを意識してくれるように、願いを込めて告げる。

「イヴの答えが出るまで、僕はずっと待ってるよ」



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