76 見合い斡旋じゃなく治療の一環
僕とイジーが女子の受けがいい容姿をしていることには、『そんなことないぞ!』なんて、どっかの鈍感ヒーローみたいなことは言わない。
っていうか、むしろ、当然だろうねと。思う。
自意識過剰? ナルシスト? いいえ、純然たる事実です。
だってほら、僕は国王陛下とは色違いの同じ顔だから。あの人、顔だけはめちゃくちゃいいからね!!
そしてイジーは言わずもがなですよ! 輝く黄金色の髪と高貴なバイオレットサファイアのような瞳。そして王妃様似の美しい顔!
うちの弟が女子にもてないわけがないじゃないですか~!!
内心イジーの自慢をしてたら、ブルーメ嬢の方はしきりに恐縮していた。
「アルベルト様の好みの女子とはどんなタイプなのだろうと、こ、好奇心に負けてしまいました。すみません」
い、言えない。僕の好きな人は、君の異母妹ですとは言えない。
いや、いつかは言うことになるとは思うんだよ?! だって中途半端な気持ちで好きだと言っているわけではないし、将来を一緒に歩んでほしいって真剣に思ってるからね。
結婚を見据えてお付き合いを僕は希望してる!
けど、まだ告白してないし、告白したところで、振られる可能性だってあるから!
イヴの異母姉のブルーメ嬢には、ちゃんとイヴに告白してから伝えたい。
「えーっとね、相手が誰かは言えないけど、好きな人はいるよ」
「「「「え?!」」」」
照れながらそう言うと、全員が驚いた声を上げる。イジーまで驚くことないじゃんか。
「あ、兄上、好きな人いたんですか?」
「いたっていうか、できた?」
「知らなかったです」
ごめーん。言ってないからそりゃわからんよねぇ?! でも、僕がイヴに告白するまで待ってー!!
ここで仲良くしてるみんなに話したら、なんだかイヴが断りにくい状況に持っていきそうな感じがするんだもん。
まぁ周囲に何言われようと、イヴが自分の気持ちを偽るなんてことは、しないと思うけどね。その気がないなら、ごめんなさいっていうと思う。
ただ今の段階で僕がイヴのことを好きだってみんなが知ったら『告白を受けるよな?!』って空気になりそうで、それでイヴが断ったりしたら、『なんで断ったんだ?』って感じになりそうなんだもん。
そうなるのって、第一王子っていう僕の立場も関係あると思うんだ。『王子殿下からの申し出なのになんで断るんだ』って空気になるよ。
そういうのが嫌だ。あとイヴに失礼でしょう? 選ぶ権利はイヴにあるんだからさぁ。
まぁ僕だって、一度断られたぐらいで簡単に諦める気はないけどね!!
「僕の好きな人の話よりも、オティーリエの話だよ」
話がずれていきそうだから軌道修正をかける。
「え? あ、はい」
僕に話を向けられて、オティーリエが動揺を隠せない様子で返事をする。
「一生結婚しないで、後継者は血縁からとるっていうなら、無理に異性と仲良くしろというつもりはないよ? ただオティーリエの弟君の婚約は、現在難航しているから、それだけを当てにするのはよくない。次の代案も考えるなら、やっぱりオティーリエの結婚ってことになる。それはわかってるよね?」
「……はい」
「オティーリエに必要なのは、『異性から恋愛的な好意を向けられるのが嫌』で完結させるんじゃなく、その先をどうするかを考えることだよ」
オティーリエの男性嫌悪症は、異性から好意を向けられることだ。原因がはっきりしているし、そしてそれによって体調が悪くなることも、今のところはない。
恋愛感情を持っていない相手となら、普通に会話をするし、そばにいても問題ない。
恋愛感情を持っている相手の場合も、嫌悪感は激しく出てくるだろうけれど、めまいや動悸、蕁麻疹が発症するという、体調不調もない。気持ち悪さはあるかもしれないかな?
異性のエスコートもちゃんと受けれるから、それほどひどい症状が出るわけはないけれど、ただこれは『今のところは』という注釈が付く。
心の問題だから、異性との交流を続けて、どっちに振り切るかは不明なんだよ。
「オティーリエは、今お昼を一緒に取ってる男子メンバーは、昔からの付き合いの人もいるし、完全に安全パイだから警戒していない。だから、ここでヴァッハを練習台にしてみないかと思ったんだ」
「練習ですか?」
「うん、ヴァッハとは下学部のときに何度か接触があったから、全く知らないという間柄ではないよね? それにヴァッハがオティーリエに近づいてきた理由は、実は養子だったから実子の妹に家を継いでもらいたい。そのためには長子で長男になってるし、自分の存在が邪魔になるから、どこかに婿入りしたいっていう理由だったでしょう? 一応確認したんだけど、オティーリエには恋愛的な感情がないのに、そう思っているようなそぶりで近づいて悪かったと言っていたんだよね」
ヴァッハとはあらかじめ打ち合わせをして、誰かにヴァッハの話をするときは、『実子ではなく養子だったから家を出たかった』と説明すると決めている。
口外できないのは、『ヴァッハがリトス王国の先王陛下の末子』ってところだからね。
伯爵家を継ぐのはヴァッハの妹に変更になったし、それなら、養子だったというところは隠さないほうがいいのではないかと、話し合ったのだ。
ヴァッハの方も、自分の出生のことさえ隠し通せるなら、養子であることを公表してもいいと同意している。
「先に言っておくけど、これ見合いの斡旋じゃないからね?」
「え? はい?」
暗い顔をしていたオティーリエは顔を上げ、僕を見る。
「ヴァッハに慣れてオティーリエの婚約者にしてはどうかって話じゃなくって、純粋に、ソーニョを釣り上げるついでに、オティーリエが僕ら以外の男子に慣れる練習にヴァッハはどうかっていう話だよ。そこは間違えないでね? ヴァッハにもその辺のところはきつく言い含めてあるから、変な気は起こさないって約束してる」
万が一オティーリエにそういった感情を持った場合は、隠さず伝えてくれと言ってある。
これがきっかけで、二人がお互いそういう気持ちになっても、継承権を持ってるオティーリエと、リトスの先王陛下の末子であるヴァッハとの婚姻って、そうそう簡単に認められないと思うんだよ。
まぁ、だからこそ、オティーリエの男性嫌悪症克服の練習台に推薦したわけなんだけどね。





