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ざまぁフラグが立ってる王子様に転生した  作者:
王子様の学園生活(三年生)
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73 タイミングが悪い

 イヴの話によれば、例の幼馴染みはフィッシャー以外の男子生徒にも粉をかけて侍らせていたようだし、いつまでもそんな相手を放置しておくほど貴族はお優しくないよね。

「出荷されちゃったかぁ。意外と早かったね」

 僕の発言にネーベルの報告を聞いていたテオは首をかしげる。

「出荷?」

「ブルーメ嬢の後見人であるベシュッツァー侯爵から、フィッシャー伯爵に連絡したんじゃないの? さすがにずっと婚約者を無視して、領地の平民娘に熱を上げてたら、そりゃー、放置しておくわけにはいかんでしょうよ」

 もう有無を言わさず出荷だよ。

「出荷って?」

「娼館に売りに出したってことですよ」

 クルトの補足にテオはうげっと顔をしかめる。

 でもクルトの表現は結構マイルドな方だと思うよ? 娼館だったらまだましで、実際のところは足取りがつかめない相手に売られた可能性もある。使用方法はさまざまで、何かの人体実験に使うとか、若い奇麗な女性を痛めつける見世物ショーをやってるところに売る場合もあるからね。

「ブルーメ嬢の後見人からのクレーム。しかもその後見人は、ベシュッツァー侯爵だ。ベシュッツァー侯爵が指示しなくたって、フィッシャー伯爵が愚か者でも甘ちゃんでもなかったなら、さっさと出荷しちゃってるよ。例の幼馴染みの親には、いい奉公先があると打診して、何年かは働かなくてもいいぐらいの金額を支払ってるだろうね」

 このやり方を汚いだとか非人道的だとか非難するのは、この時代に生きていない人間の戯言だ。

 貴族から話をされた時点で、親はある程度のことを把握しているだろうし、金を受け取ったなら、それはその話を了承したということだ。

 近隣の付き合いのある家には、遠いところに嫁に行ったとか、貴族に見初められて妾になったと言って、本当のことは話さない。渡されたお金はそういった口止め料も含まれているんだ。

 平民の方だって貴族の恐ろしさをわかってるんだよ。領主を慕う一方で、分不相応な望みを抱くなと子供を躾ける。どれほど寛容で領民思いの領主でも、一定のラインを超えたら、平民の処分に容赦などしない。

 貴族との線引きができていないところは痛い目を見るし、痛い目を見た家の近くに住んでいる領民は『あぁ~、あそこの家やっちまったなぁ~』って思っていても、口には出さずに黙殺するだろう。そして我が子にはあれを見て貴族の恐ろしさを学べと教えるのだ。

 フィッシャーの幼馴染みはどうだったんだろうなぁ。

 リスク覚悟で貴族の令息たちに粉をかけていたのか、ちやほやされて調子に乗ってしまったのか。

 どちらにしろ学園を辞めたのなら、もう二度とフィッシャーの前に姿を見せることはないだろう。現れたとしても、十年後か二十年後かだね。

「問題はフィッシャーの方か。ブルーメ嬢に八つ当たりをしてくるか。それとも日和ってくるか。どっちだろう?」

「八つ当たりってどういうことだよ」

「フィッシャーみたいな奴はさ、何か悪いことが起きたとき、それが自分のせいになるのが嫌なんだ。この場合は例の幼馴染みが出荷されたことね」

「んー、その幼馴染みが学園を辞めたのは、ブルーメが手をまわしたからって考えるだろうけれど、出荷されたことまで気が付くか?」

「潜在的に気が付いてるんじゃない? 親から『婚約者であるブルーメ嬢を蔑ろにするな』と注意されてるはずだもの。それを無視し続けたから、親が動いて大好きな幼馴染みを出荷しちゃった。そうなったのは、言うことを聞かなかったフィッシャーのせいなんだけど、この事実に向き合いたくないから、『幼馴染みが学園を辞めたのは、自分たちの仲を嫉妬したブルーメ嬢が手をまわしたからだ!』って変換するわけだ。裏事情に気が付かないふりをして、ブルーメ嬢を責めて、自分の中にあるやましい気持ちを隠すんだよ」

 幼馴染みが出荷されたのは、自分のせいじゃない。自分は悪くない。婚約者が嫉妬してやったって、言いわけできる。

「わかったよ、ネーベル。ブルーメ嬢にも伝えておく。僕の方もフィッシャーのことは警戒しておくけど、タイミングが悪いねぇ」

 本当は今日、ヴァッハを使った釣りの話をオティーリエたちにしようと思っていたのに、カンニングしただろうってアインホルン学長に難癖付けられちゃったんだよなぁ。

「俺も思った。もっと早く気が付けばよかったんだけどな」

 休み明けはすぐ学力テストがあったし、ネーベルもフィッシャーの幼馴染みが学園を辞めたことに気が付いたのは今日だったようだ。

 フィッシャーを含め一部の男子集団が暗い顔をしていて、何事かと思って他の生徒に聞いたら、例の幼馴染みがいなかったということである。

「平民の生徒が言ってたことだから間違いはないと思う。もともと授業についていけてなかった様子だし、いつ辞めてもおかしくはなかったんだ」

 授業態度もよろしくなかったようだ。

 下学部まではそれほどまで、貴族と平民の生徒に差はないから、自分が貴族令嬢と同じだと勘違いしたのかもしれない。

 いや勘違いというか、このまま金持ちの貴族子息に見初められて、お嫁さんになれると思ったのかも。

 平民の娘が貴族の奥さんになるなんて、身分制度がしっかりと定められている現状でできるわけないのにねぇ。

 平民の少女が貴族の男性と結ばれる場合は、奥様じゃなくお妾さんだよ。

 あとはよっぽど優秀で、貴族の養子に入るか。それだって貴族の令嬢として扱われるんじゃなく、使用人の一人としての扱いだよ? 名目上娘としているだけで、実際は、中級使用人として重宝するぐらい。あとは新興の下位貴族と結婚させるぐらいかな?

 やっぱり下から上に這い上がる場合は、顔がいいだけじゃダメなんだよ。頭も良くって必要なことをちゃんと覚える努力ができなきゃ、底辺から下克上は無理無理。

 フィッシャーの幼馴染みはそこのところがわかってなかったんだろうなぁ。



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