37 二人に告白をする
その日はギュヴィッヒ領の宿屋で一泊するつもりだったんだけど、ヒルトのご実家であるヴュルテンベルク家の持ち家の一つである館で宿泊することにした。
ヒルトが言うには、突然の訪問者や、友人知人が来た時に宿泊してもらうためだけに使用している館とのこと。
規模もちょっといいところの宿屋を少し大きくした程度で、部屋数もそれほどない。週に一度清掃に入るが、人手を常設している館ではないそうだ。
僕が前もって接待はなしでと言っていたので、ヒルトもできるだけその意向に沿うようにしたかったそうなんだけれど、防犯のことを考えると、やはり一般の宿屋に泊まらせたくなかったそうだ。
「アルベルト様のお立場を考えれば、他領で滞在することは、ただ宿泊するだけとはいかず、夜会をひらくことが避けられないとおもいます。アルベルト様は、そういった大仰なことをしたくないのですよね?」
「うん」
「この館はヴュルテンベルク家の持ち物ですが、現在使用できるのは、当主である祖父と跡継ぎである父、その家族である私たちだけになります。今回アルベルト様の訪問についても、アルベルト様の意向を汲むことを大前提として、訪問は公表せず夜会等は一切行わないようにと厳命しています。ですので気兼ねなく利用してください」
「ありがとう」
ギュヴィッヒ侯爵とヒルトの父君にはちゃんとお手紙出しているし、ヒルトが言ってるのだから、ヒルトの家族も分家筋の人間も干渉してこないだろう。
後日お礼を送らないとな。
そんなわけで、ヒルトに案内された館で滞在することになった。
去年ヴォータンの主神殿に訪れた時同様、シュヴェルの主神殿にも聖霊祭典がある。
聖霊祭典って夏に行われるから、感覚的には前世のお盆に似てるかなーっと思うんだけど、ちょっと違うか。
こっちの世界は、聖霊祭典で浄化した魂は、二度と下界には戻ってこないってことになってる。
未練とか負の感情とか悪い思い出とか、そういったモノを祀ってもらって浄化して、最果ての門を潜り天上に行く。そして天上に行った魂は、すべてをまっさらになって神の采配で新しく肉体を得て生まれるのだ。
戻ってきた魂を家族が出迎えるのではなく、旅立つ魂をみんなで楽しい気持ちにさせて見送るのがシュッツ神道の聖霊祭典。
聖霊祭典は領ごとによって開催期間がまちまちで、平均日数はだいたい三日。でも場所によっては一週間行われるところもある。
テオの実家であるメッケル領方は、北部で冬ごもりが長い土地だから、一週間の開催だったが、ヒルトの実家であるギュヴィッヒ領は三日間の開催らしい。
ちなみにフルフトバールも三日間だ。フルフトバールは聖霊祭典後に収穫祭もあるから、一つの行事を長々と行わないのである。
僕らがギュヴィッヒ領にやってきた日はちょうど聖霊祭典の初日だったので、ヒルトにいろいろ案内をしてもらうことにした。
屋台もあるけれど、国外からやってきた輸入品の露店市場もある。
あっちこっちと案内してもらって、広場の休憩スペースで屋台で、購入した串焼きやドリンクでちょっと遅いお昼をとる。
「三人だけって久しぶりですね」
「昔は、三人だけだったのにな」
笑いながらそういうヒルトに、ネーベルがしみじみとした口調で答える。
そんな二人を見ながら、僕は切り出す。
「あのさ、去年の学園祭に、僕が二人に心の整理が付いたら話すって言ったこと覚えてる?」
ネーベルとヒルトはお互いの顔を見合わせた後、僕の方を見る。
「あぁ、そんなこともあったな」
覚えてるくせに、そういうこと言うんだもんなぁ。これは僕が話しやすいように、そんなふうに言ったんだろう。
「あのね……、好きな子、できたよ」
本人に告白しているわけじゃないのに、緊張した。
「相手を聞いても大丈夫か?」
「うん、でも、まだ本人には何も言ってないんだ」
「俺たちが知ってる子か?」
ネーベルの問いかけに頷く。
「イヴだよ。僕の好きな子」
僕がそう告げると、ネーベルもヒルトも茶化すことはせず、黙って見詰めてくる。
「な……なんか言ってほしいな~」
「難易度高めな相手だな」
うぐっ! それは、そう。僕もそう思う。
「でも、まぁ……。どう言ったらいいかわからんけど、違和感は、ない。っていうか、俺とヒルトが知る人物でと考えれば、だろうなって思うし、それ以外は無理だろうなとも思う」
「無理?」
「あぁ。まず、ヘッダ様。イグナーツ様の婚約者だからってだけじゃなくって、アルはヘッダ様には恋はしねーなとは思ってた」
「そうだけど、なんでそう思った?」
「こう言っちゃなんだけど、ヘッダ様はアルに近いって言うか……、たぶん女だったアルだと思う」
「女の僕?」
「そう、アルが女で生まれていたら、ヘッダ様のようだったと思う」
否定できんな。確かにそうだったかも。
「だから、アルがヘッダ様に恋をするって言うのは、ねーなとは思ってた」
「うん」
「次にオティーリエ様」
「うん」
「一番ねーだろ?」
全く迷いなく、確信している物言いだった。
「俺から見るとアルは最初から、ふわふわしてるオティーリエ様を教育してるように見えた。イグナーツ様への対応と似ているようでちょっと違う。言葉に出してはいないけれど、オティーリエ様の迂闊な言動に、『それがどういうことになるのか、ちゃんと考えろ』って感じ。目が離せない生徒を見守ってるようだったな」
それは……、う~んどうなんだろう? 悪役令嬢に転生したヒロインあるある状態なオティーリエが危なっかしく見えたのは確かだ。
あと思い込みが激しくって、立場としてできるところがあったのに、『悪役令嬢ヒロインに転生したー』って浮かれて目が曇っていたところがなぁ。放っておくと利用されそうな気がしたんだよね。誰に利用されるとは言わないけれどさ。
お知らせ。
ネット小説大賞12 小説部門にて『ざまぁフラグが立ってる王子様に転生した』は金賞を頂きました。
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