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ざまぁフラグが立ってる王子様に転生した  作者:
王子様の学園生活(三年生)
231/362

35 シュヴェル神

 シュヴェル神の石像の前には、神事を行う感じの祭壇が設置されていて、神事長のお手伝いをする神官が数人、あれこれと準備していた。

「アルベルト様、祝福をかける武器をお出しください」

 神事長に言われて、アイテムボックスになっているバッグから、二振りのバルディッシュ、『夜明』と『宵闇』を取り出す。

「お預かりします」

 二人の神官に、『夜明』と『宵闇』を一振りずつ渡す。受け取った神官たちは『夜明』と『宵闇』を祭壇の前にある長方形の台座の上に置いた。

「アルベルト様はこちらに」

 神事長に促されて、祭壇と台座から離れた場所へ案内される。

「アルベルト様は……ヴィントの加護をお持ちですね?」

「あ、はい。僕というかマルコシアス家の直系は、ヴィントの加護を必ず授かっているんです。そういう約束? みたいなものがあったらしくって」

 初代がもともとヴィントのお気に入りで、シルバードラゴンとガチンコしたときに仲裁に入ったっていうのは、話したほうがいいのかな?

「ヴィントの加護持ちの人間が、シュヴェルの祝福を貰うのは駄目ですか?」

「いいえ、その様なことはありません。祝福は場合によっては、重ね掛けができるものです。それに祝福を給うのは、アルベルト様ではなく、アルベルト様の持ち物でありましょう?」

「はい」

「ただ、シュッツ神道の神の加護を持っているということは、祝福と感応しやすくなります。その場合、アルベルト様はご自分が祝福を給うのと同等の還しが出ることでしょう」

「感応?」

「神の気配です。祝福が終わった後、体調を崩す場合もありますので、その時は仰ってください」

「わかりました」

 台の上に『夜明』と『宵闇』を置いた神官たちは左右に分かれ、祭壇の左右に分かれて佇んでいる神官たちと一緒に並ぶ。

「福音シュヴェル章第三歌」

 僕から離れ、僕の『夜明』と『宵闇』が置かれた台座の前に移動した神事長が、シュヴェル神の石像を見上げる。


「戦いの祝福を」


 息を吸い込んだ神事長がアカペラで歌いだす。

 聞いたことのない言語。僕らの国のラーヴェ語でも共通語のディオラシ語でもない。一度も聞いたことのない不思議な言語だ。

 神事長のメゾソプラノの伸びのある歌声に、神官たちの歌声がハモる。不思議な音程。民謡のようでいて、少し違う。

 もしかして、これって神歌か?!

 神歌だって気が付いた途端に、心臓がきゅっとなる。耳の奥がどくどくいってる。体中の血が活性してる。なんで? 歌を聴いてるだけなのに。

 だんだん目の前がぼやけてくる。頭も……。


(コレ)は誰ぞ?】 


 声が、聞こえる。

【是は誰ぞ?】

 誰? いや……誰、じゃ、ない。そんなの、シュヴェル神のほかにない。

【是は誰ぞ?】

 僕への呼びかけ?

【是は誰ぞ?】

 アルベルト、です。

【何用か】

 ぼく、の、『夜明』と『宵闇』に、あなたのしゅくふくを。

【是はヴィントの()。ヴィントに(ユダ)ねよ】

 ヴィント。そうせいしゃ、の、おきにいりなのはわかってるけど、ぼく、そのぶきで、めがみ、を、屠りたい、から……。

【誰ぞ?】

 ウイステリア。

【未熟な女童か】

 ぼくとぼくのたいせつなものを、まもるために、めがみをころしたい。

【女童を屠るに()の力を(ヨウ)するか】

 ひとは、かみをころせない。だから、あなたの力をかりたい。

【神な。吾らをそう示すなら、あれな女童は吾らと等しくない】

 しるばーどらごんもいっていた。

【ヴィントの隷下よな。是と(エニシ)が結ばれておる】

 めいやく、かわしてる。

(リョウ)。然し是はヴィントの児。ヴィントの児の(ワズラ)いを吾に強いるは(ダク)せぬ】

 かぜはきまま。

【然様か。なれば、是。吾の児となるか?】

 おと……。なんの、おと?

【かましい。なれば、疾く、()が己が児の憂いを払えばよかろう】

 わからない。

【是は(カイ)せずとも良い。嗚呼、かましい。なれば、是。吾が愛し児と(ツガ)わんか?】

 シュヴェル神の、いとしこ。ひると? ひるとは、だめ。おねーちゃん。ぼくの、うんめいきょうどうたいの、たいせつな、こいびと。

 ぼく、すきなこ、いる。

【已む無し。是は吾が愛し児の(ヌシ)。是の隷下に吾が(イワイ)(サズ)く】

 ありがとうございます。


 威圧が消えた。

 頭、痛い。耳の奥、わんわんいってる。だるい。息、ちゃんとできてる。

 気が付いたら、神歌が終わってる。

 さっきのとは違う、生きてる人の気配、騒めきが聞こえる。

 もう駄目だ、我慢できない。立ってられない。

「アル!」

「アルベルト様!」

 ネーベルとヒルトの声が聞こえたけれど、僕の意識はそこで途切れてしまった。


 次に目覚めた時、真っ先に視界に入ったのは、ネーベルとヒルトの顔で、僕と目が合った途端、二人に抱き着かれた。

「僕、どうしたの?」

「シュヴェル神の祝福にあてられたのです」

 答えたのはシュヴェルの神事長だった。居たのか。気が付かなかった。

「気分はいかがですか?」

「どうかな? わからない」

「頭痛や耳鳴りは?」

「ない」

「しかし、もうしばらく横になっていたほうがいいでしょう。用がありましたらそちらの鈴を鳴らしてください」

 寝台の横にある台の上に銅製の鈴が置かれていた。

 シュヴェルの神事長はそう言って部屋を出ていく。

「心配掛けたね」

「いきなり倒れたのは、どうしたのかと思ったけど」

「うん……、ヒルトの神様と話したんだよ」

 僕がそう言うとヒルトは何度か瞬きをする。

「私の、神ですか?」

「うん、シュヴェル神。もう起きる」

「まだ横になっていたほうが……」

「やだ、起きる」

 止めるヒルトに僕がそう言うと、ネーベルが苦笑いを浮かべる。

「言うこと聞きゃしねぇ。顔色悪くなったら横になってもらうからな」

 ネーベルとヒルトに支えられながら、僕は身体を起こした。

 


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