33 お次はギュヴィッヒ領にゴー
ループレヒト男爵とした競馬の話は、実は前もって王妃様と宰相閣下には相談していたのだ。
国営にした理由は、この競馬で得た利益を走れなくなった馬たちの支援だけではなく、災害が起きた地域への支援にも使いたいからだ。
そのために法も必要だ。
そしてこれは僕一人で進めるには無理があると、最初からわかっていたので、思いついた時点で王妃様と宰相閣下に相談していた。
意外にも王妃様は馬レースに乗り気で、そしてその利益が災害が起きた時の支援に回すというのも良かったのだろう。『是非、実現させるべきです』と言ってくださった。
それは宰相閣下も同じなんだけど、王妃様と一緒にこの話を聞いた宰相閣下は、ぎりぎりと歯ぎしりをしながら、『だから私は、アルベルト殿下の王位継承権の放棄を反対したのです』と吐き出した。
文句は国王陛下にお願いね。
ナハトとツァールトは僕のものになったけれど、ナハトが最後の仔馬を産むまでは、ループレヒト男爵の牧場で預かってもらうことになった。
面倒は引き続きツァールトの担当だ。もちろん、ナハトが仔馬を産んだらナハトの仔も面倒見てもらうことになる。
それからループレヒト男爵は、ナハトを欲しがった貴族たちに、ナハトは僕に献上したことを通達したそうだ。これで勝手にナハトを競り落とそうとしていた連中も大人しくなるはずだ。でも、僕はそこで油断はしないので、おじい様にお願いしてナハトとツァールトの護衛を派遣してもらった。
これである程度の抑止になるだろう。
ナハトと競馬のことは一段落だ。
お次はヒルトのご実家訪問……ではなく、ギュヴィッヒ領にあるシュヴェル神の主神殿訪問。
ヒルトのおじい様であるギュヴィッヒ侯爵には、テオの時と同じように、シュヴェル神の主神殿に用があるのでお構いなくと先に連絡してある。
社交辞令ではなく、王家とは全く関係ない用事で、ギュヴィッヒ侯爵家とシュヴェル主神殿に行くので、お出迎えとか歓迎とかはしないでくださいお願いしますと書いた手紙を出しているので、テオの兄君のようなことはしないはず。
そして今回は、ヒルトが僕たちを迎えに来たのだ。
わざわざ迎えに来なくてもいいのに、とは言わなかった。
ヒルトが迎えに来たのは、自分の家族や親族が余計な気をまわして、僕を接待するようなことをしないためだ。
持て成しはしなくていいと通達していても、話を聞かない人間は一定数いる。
この辺は、いうて相手は王子殿下じゃん? 接待いらないって言われて、そのまま受け取れねーわ。その通りにして、出迎えなかったって難癖付けられるかもしれねーじゃんと、思う人もいる。
ヒルトが一緒なのは、そういった懸念をなくすためだ。
まぁ僕としては、久しぶりにネーベルとヒルトが一緒で、ちょっと楽しい。それから二人も婚約してるのに、やることが増えてきたから、なかなか一緒にいることができなくて申し訳ないって感じではあったから、今回は恋人成分を存分に吸収してほしい。
くっそ、僕も会いたいなー。
いや、きっと、僕の気持ちを知ったらネーベルとヒルトは、何やってるんだって呆れると思う。
僕らしくない。もっと押せ押せでやれって。
でもさー、ちょっと今は、懸念事項が多すぎる。
オティーリエとブルーメ嬢に近づくヴァッハとか、正体不明のソーニョとギーア嬢。
こいつらを片付けないと、僕は安心できない。
それに下手に僕があの子を囲い込むようなことをしたら、いろんなところから目を付けられそうな気がするんだよ。
変な奴らに付け込まれたくないっていうのもあるし、あの子を攻撃するようなことがあってほしくない。
今回ヒルトのご実家の領に行く機会に、ネーベルとヒルトに話を聞いてもらおうとは思っているのだ。
前に二人に、話ができるようになるまで待って欲しいって、そうお願いしてからずいぶん経った。もう僕ははっきりと自覚してるし、ネーベルとヒルトだけではなく、他のみんなに知られることにも抵抗はない。
だけど、こういう話を最初に聞いてもらいたいのは、やっぱりネーベルとヒルトなんだよね。
話をするのは少し照れるけど、でも二人は茶化したりしないで、真剣に聞いてくれるだろうし、相談にだって乗ってくれるはずだからね。
それから、ギュヴィッヒ領に行く道中、ヒルトには競馬の話を少しだけした。するとヒルトも馬のレースに興味津々で、これはヘッダも興味を持つだろうと、お墨付きをもらう。
ゴール判定は魔導具が必要になるし、あと競馬中継みたいに、走ってる馬の映像とかも残したい。ゲートの開発とかも頼むことになるはずだ。
忙しくなるけど、わくわくもしてる。
競馬の件は僕が王籍を離れるまでには、なんとか一レースぐらいはできるようになればいいなぁ。
あと、来年の夏の長期休暇に、イジーをフルフトバールに連れていきたい。
自由にできる最後の機会ってわけじゃないけれど、最終学年だといろいろやることも増えるだろうし、だから、僕らが子供らしく自由にできるのは来年までだと、思っているのだ。
だから、以前ヘッダが言ったように、イジーとリュディガー、それからヘッダとテオとクルト、オティーリエはどうかな? 魔獣狩りに忌避がなければ一緒に。
みんなで過ごす時間を作りたい。
あと……、もし叶うなら避暑という名目で、王妃様もフルフトバールに招待できればいいと思う。
母上とは文通を交わしてずいぶん経つみたいだし、もうそろそろ直接会って話してもいいと思う。
王妃様、今でも母上のことを気にしてるからね。
フルフトバールでクリーガー父様とラブラブだってわかったら、王妃様の胸のつかえも取れると思うんだよ。
でも王妃様の避暑となったら、あれも一緒に来そうな気がするからなぁ。
宰相閣下には悪いんだけど、なんとかいい知恵を出してもらおう。





