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ざまぁフラグが立ってる王子様に転生した  作者:
王子様の学園生活(二年生)
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57 貴族的な考え方と、平民の価値観

 女子の追いかけっこを目撃した翌日の放課後、ヒルトには恨みがましい目を向けられながら、事の詳細を伝えられた。

 追いかけっこになった元の話は、イヴの進路に関することだったようだ。

 僕との話をした後、ブルーメ嬢は一気に覚醒状態と言うのだろうか? 今までの自分の態度やら行いを反省し、身だしなみを整え、遅まきながらも態度が悪かったことをクラスメイト……、特に声を掛けてくれていた女子に頭を下げ、やり直しをしていたそうだ。

 遅まきながらも伯爵家の次期当主として覚醒したブルーメ嬢は、異母妹であるイヴのこともちゃんと向き合うことにしたそうだ。

 僕が聞いた限りでは、イヴの言ってることは間違っていないし、その行動だっていつだって正しいものだった。まぁ言い方がきついところはあるけれど、きつくなってしまうのは相手の態度が悪かったりするんだろうなと思う。

 理不尽にきつく当たっているわけではないんだよね。大抵は相手の態度の悪さに苛立ってきつくなると言ったものだ。

 なんだかんだ言って、イヴはブルーメ嬢の現状を寄親であるヘンカー家に直談判したし、その行動はすべてブルーメ嬢の為のものである。

 そこはブルーメ嬢もわかっていたのだろう。

 父親とイヴの母親のことは、まぁ色々と蟠りがあるが、イヴには助けてもらった恩がある。次期当主権限で、イヴを自分の異母妹としてブルーメ家の籍にいれ、伯爵令嬢として生きてもらいたいと思ったようだ。

 そこでイヴに淑女科に進んでもらって、貴族令嬢として生きてもらおうと話をしたのだという。

 が、イヴはそれに反発し怒りだして逃げ出し、追いかけっこが始まった。


「考え方の違いだよね」

 事のあらましを聞いた僕がそう言うと、ヒルトは複雑そうな顔をする。

「なんだかんだ言って、ブルーメ嬢は伯爵令嬢なんだよね。貴族として生まれ貴族として育った。だから貴族の価値を理解して、平民として生きるよりも貴族として生きたほうが、イヴは幸せになれると思っているんだよ」

「それは、違うんですか?」

 あらまぁ、ヒルトもちょっと規格外ではあるけれど、侯爵家のご令嬢だったねぇ。

「だから考え方の違い。イヴはね、平民として生まれて平民として生きてきた。一応貴族ともいえる父親に引き取られ、その入口に立って貴族社会を覗き見た。そこで彼女は、貴族であることの凄さと同時に、恐ろしさも知ったと思うよ? そして平民の自分とは価値観が違うとも理解した」

「価値観」

「そう、価値観。ブルーメ嬢のイヴを貴族令嬢にしたいという考えは、まぁ、わかる。貴族令嬢として生きたほうが、衣食住の為にあくせく働く苦労を負うことなく、平民よりも豊かな生活に囲まれて幸せになれるからね。ブルーメ嬢は単に恩返しがしたいって気持ちがまず先にあって、そして平民のような苦労もしなくて済むというメリットがあることにも気が付いた。それから、彼女はイヴなら貴族令嬢としても生きていけると直感的に見抜いたんじゃないかな?」

「それは……」

「ヒルトも潜在的にそう思ってたでしょう?」

 僕がそう訊ねると、躊躇しながらもヒルトは頷く。

「イヴは夢見がちなお嬢さんじゃない。普通、平民の子供が貴族の父親に引き取られたとわかったら浮かれるものだけど、彼女はそうならなかった。何故か? 頭がいいんだよねぇ、イヴは。これは勉学ができるという意味での、頭がいいではなく、生きていくための、世渡りするにあたっての、世間知の頭がいい、になる。イヴの家族に対しての言動を思い出してごらん?」

 イヴは爵位の継承は、何らかの事情がない限りは、親から子へ引き継がれていくものだと知っている。

 これは平民の家業の引継ぎと同じだからだ。

「伯爵はブルーメ嬢の母親だった。次の伯爵は、その娘であるブルーメ嬢であって、伴侶であった自分の父親ではない。これをちゃんと理解してるんだよ」

 どこかの物語に出てくる強奪異母妹とイヴの違いはここだ。

「だから親に虐げられていたブルーメ嬢を保護させるにはどうしたらいいか、考えて、その手立てを見つけ、それをするための準備までして、実行に移した。これはね、平民から貴族になれたと浮かれている子にはできない所業だよ? でもイヴはできた。つまりイヴはね、貴族としての生き方、そのやり方を知っているし、実践できているということ。だからブルーメ嬢は、イヴは貴族令嬢になれる。貴族として生きていけると踏んだんだろうね。ヒルトもそう思うでしょう?」

 僕の言葉にヒルトは頷く。

「さてここで、イヴの気持ちの問題になる。イヴは貴族令嬢として生きていくには充分の素養はあるけれど、じゃぁそんなふうに生きたい? と問われたら、嫌だというだろうね」

「どうして、ですか?」

「んー、わかってるから、かな? 頭のいいイヴは、貴族社会の面倒なところや恐ろしさもわかっているんだよ。ちょっとのミスが致命傷になることも知っているし、一見優しく褒めているように見えて、その裏には嫉妬があって貶めている意味が含まれていることもわかっている。イヴの性格からいえば、『そんなくそ面倒なところで、生きたくねーわ』て言いそうじゃない? そしてイヴは、貴族にならなくたって、自分の幸せを見つけることができる」

 イヴが言いそうな言葉を容易に想像できたのか、ヒルトは一瞬だけ目を見開き、それから目を伏せて苦笑いをする。

「そう、ですね」

 そう呟いてから、ヒルトはじーっと僕の顔を見つめる。

「どうしたの?」

「いいえ、なんでもないです。イヴの考えは、わかりました」

 ヒルトはうんうんと、何度か頷きながら、何か考えている様子だ。

 随分と、イヴと仲良くなったものだと思う。

 ヒルトの周囲にいる女子は、ヒルトに理想の男性を投影して騒ぐ女子ばかりだし、親身になって仲が良いのは、あのクセだらけなヘッダだったからなぁ。

 イヴも個性は強いけど、ヘッダほどヒルトを振り回すわけじゃなく、ヒルトを理想の男子扱いしていた様子もなかったし、楽しいのだろうな、一緒にいるのが。

 僕だって同じだもの。



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