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ざまぁフラグが立ってる王子様に転生した  作者:
王子様の学園生活(二年生)
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35 大切にしてくれる祖父には弱い

 イヴたち母娘の経歴を知っていたら、誰だってうらやましがるものだ。

 特にブルーメ家に仕えている使用人ならなおのこと、イヴと母親の待遇に不満を持つ者だっていたに違いない。

 イヴは嫌そうな顔をしながらも、自分の身に起きたことを振り返ってみたのだろう。

「そうね、アルベルト様の言う通りかも。特にアンジェリカの傍にいた侍女には、そう思われていたかもしれないわ」

 平民から貴族になったということは、そういった義務や苦労を知らない者から見れば、辛い労働をすることなく、綺麗なドレスを着て、美味しいものを食べて、贅沢三昧できる。ついこの間まで平民、それも娼館にいた母娘のくせに、って妬ましく思うよね。


「侍女……、あぁ、アンジェリカ様のお世話をしなかった、例の?」

 お世話はしてたんじゃないかな? 身だしなみを整えていなかっただけで。

「ヘレーネ様が、あの侍女はアンジェリカから外して新しい侍女を手配したって教えてくれたわ。今度の人はまともだといいんだけど……。あの女もたいがいおかしな考え方してたから」

「おかしい?」

「説明するのが難しいんだけど、自分だけがアンジェリカのことを理解してるみたいな」

「狂信者ですか?」

 ずばっと言ってしまうヒルトに、イヴは何度か瞬きをした後、ププッと笑いを噴き出した。

「確かに! 良い表現だわ。その通りよ」

 きゃらきゃら笑うイヴに、どことなくヒルトも楽しそうだ。


「あのさ、まったく関係ない話なんだけど、ヒルトとイヴは、今日は一緒にお出掛けしてたの?」

 僕がそう問いかけると、ヒルトとイヴはお互い顔を見合わせ、それから二人同時に頷く。

「アルベルト様たちに匿ってもらった日に、寮まで送ってもらったじゃない? そうしたら友達にヒルトのことあれこれ聞かれたのよ」

 イヴは貴族専用の女子寮ではなく、平民用の女子寮に入っているそうだ。

「あれこれ?」

「紹介してほしいって。ヒルトは女子から見ると、そこらの男よりもカッコいいから、お近づきになりたいっていう女子が多いの」

 ますます某歌劇団の男性役みたいだ。

「今日はイヴのご友人たちと一緒に都市内散策していたんです」

 ヒルトはにこにこ笑っていて、楽しかったんだろうなっていうのがわかる。

「今はもう解散したの?」

「長時間ヒルトを拘束して迷惑かけたくないって」

 躾が行き届いたお嬢さん方だ。

「ただねー、貴族のお嬢様たちには目を付けられちゃったかも」

「でもイヴの父親は貴族でしょう?」

「あの父親を貴族と呼べるか不明じゃない? 貴族って呼べるの、爵位持ってる人とその子供でしょう? あの人、伯爵代理で伯爵じゃないわ」

「それはそうだけど、父親の実家も貴族なんだし」

「でも私の母は平民なのよ。しかも娼館にいた平民」


 それがちょっと不思議なんだよね。

 イヴの母親は確かに平民なんだろうけど、祖父は男爵家の次男で騎士爵を持っていたわけでしょう? なんでそこで、娘が娼館に行くことになったのかってことだよ。

 騎士爵を得られたってことは、そこそこの功績があったってことだし、一般騎士よりは給料良かったんじゃないだろうか?

 イヴの両親は学園で恋人同士だったと聞くし、だとすれば、学園に通わせてもらえるだけのお金はあったはず。


「お母さん、どうして娼館にいたか聞いても大丈夫?」

 僕がそう訊ねるとイヴは気さくに頷く。

「うちの母親のほうの祖父って騎士だったのよ。だからまぁ、普通の一般家庭だったと思うんだけど、うちの母親バカだから、商家ほど裕福な家じゃないって言うのに散財しまくって、あげくに奥さんがいる男の子供身ごもったわけじゃない? それで祖父が、私が産まれるまで家に置くけど、産んだら子供は置いて出ていけって言ったそうなの」

「意外と真っ当」

「子育て失敗してるけどね。で、うちのバカ母は、私を産んだ後、一度は出ていったんだけど、今まで働いたことがない金食い虫の女が、真っ当に働けるわけないじゃない? あっちこっちふらふらしてたけど、結局、行きつくところは娼館よ」


 とは言ってもイヴたち母娘がいたのは、メインはキャバクラのような場所だったそうだ。オプションで売春行為があって、それをすれば給料が増えると。

「そこで落ち着いたのか、祖父が留守中に家に来て私を連れ去ったわけ。言っておくけど、あのバカ母は母性があって私を連れ出したんじゃないわよ? クズ親父を繋ぎとめるために、私を連れ出したのよ」

 あんなのの何処がいいんだかわかんないと、イヴは漏らしながら、コップに口を付ける。

「クズ親父は、入り婿だったし、自由にできるお金なんてたかが知れてる。一軒家を購入して、そこでバカ母を囲うほどの気概もなかったわけだしね」

 イヴがそのことを知っているのは、神殿で祖父に会っていたからだそうだ。

 イヴの祖父は連れ去られたイヴを探していて、噂を頼りにイヴの母親がいた店にたどり着き、何度か店の近くまで来て、遠目で店に出入りしている人たちを探っていたそうだ。

 そうして、読み書きを教わるために神殿に通っていたイヴに接触してきて、いろいろ教えてくれたのだと言う。


「あのバカ母のせいで、おばあちゃん、心労がたたって死んじゃったのよ。おじいちゃんだって辛かったのに、私が心配だからって、おばあちゃんを偲ぶ時間もなかったの」

「おじい様は今どうしてるの?」

「今は王都から離れて、地方の田舎町で羊飼いをしているわ」

 イヴが父親に引き取られると決まったあと、イヴは神殿で祖父に引き取られる経緯を話し、王都から離れるようにお願いしたそうだ。

「イヴが父親に引き取られて浮かれなかったのは、おじい様のおかげだったんだね」

「それもあるけど、店にいた姐さんたちにもいろいろ教えてもらってたからね」

 ウインクをしてそう言うイヴは、自分の生い立ちを恥じる様子はない。

 強い子だなぁ。



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