22 大事なのは友達。友達の好きな人は範囲外
「俺たち、食堂でリューゲン殿下たちの話を聞くまで、ゾマーがウリケルさんに失礼なことをしてるなんて、微塵も思ってなかったんです」
「モラハラ野郎の友人だけあるな」
低く唸るように、吐き捨てるネーベルの口を咄嗟に手を当てて塞ぐ。
「ごめんねぇ? ネーベルの婚約者も、ユング嬢と似たようなことされたんだ。だから、ベックやグラーフ嬢にとってゾマーは素晴らしい友人だけど、ネーベルからすると、好きになった相手に嫌がらせする非常識な人扱いになっちゃうんだよ」
「なっ」
「でも、ネーベルは、いつだって僕を助けてくれるかけがえのない親友なんだ。すごくいい人なんだよ。素晴らしい人なんだ。悪気はないんだよ? か弱い女性に攻撃的なことを言う人が、許せないだけなんだ」
ネーベルに非難の視線を向けようとしていたグラーフ嬢は、僕とネーベルをかわるがわる見比べる。
「あ、あの……」
「ゾマーもユング嬢に対してそうだったみたいだし、二人も許してくれるよね?」
我ながら性格わりーなーと思うし、厭味ったらしい意地の悪い言い方だ。
こんなこと言われたら、許せない、とは言えないだろう。
そして僕が何を言わんとしているのか、ベックもグラーフ嬢も気が付いたに違いない。
「わざとじゃない。悪気はない。言われてどう思った?」
問いかけるとベックは深呼吸を一つしてから、答える。
「ムカつきました」
そうだよね。わかってて言った。
ゾマーもなかなかに最低なことを仕出かしてたけど、そのゾマーのやったことに、誰一人疑問も持たず、注意もしないっていうのもおかしな話だと思ったんだ。
「……リューゲン殿下」
「なにかな?」
「俺たちも、間違ってたんですね」
「気が付くのがおせー」
「やめてあげて。もう充分わかってると思うから」
僕の手を外して、またもやキツイ一言を漏らすネーベルに、今度は口頭で止める。
ネーベルも僕と同じで、ゾマーだけがおかしいのではなく、ゾマーの周囲にいる人が何も注意しないのは、おかしいと気が付いていた。
そして、自分たちはゾマーのしたことには関係ないと言わんばかりの態度にも腹立たしく思っていたのだろう。
ここまでくると、ユング嬢のことで、ゾマーを煽っていた奴だっていたんじゃないか? という疑いだって出てきてしまう。
強引なほうが女は喜ぶとか、こんなふうに言えば頼りがいがあると思われるとか。
純粋に応援していた奴もいれば、わざと見当違いなアドバイスをしていた奴もいたかもしれない。
意を決したようにベックは顔を上げて、僕を見つめながら言った。
「今日、リューゲン殿下にお願いしたかったのは、あれからずっと落ち込んで元気がないフランツに、お声を掛けてもらいたかったんです」
「おや、落ち込ませて元気をなくさせた張本人に、そんなこと頼むの?」
「だから、です。リューゲン殿下のお言葉なら、フランツも元通り……、いえ、前を向けるんじゃないかって、思ったんです。それに、食堂でのリューゲン殿下たちの話を聞いてから、数人の友人たちが、フランツから離れていったんです」
ますます、わざと見当違いなアドバイスをしていた奴がいた説が浮上してきたぞ。
「離れていった奴らは、ウリケルさんのことでフランツを揶揄ったり、もっとこうしたほうがいいって言ったりしていた奴らでした」
「だから?」
ネーベルは冷めた目でベックと、それから隣にいるグラーフ嬢を見て口を開いた。
「あいつがバカやったのは、煽ってたやつがいたから。だから、そいつらが悪いとか言うなよ? どんな事情があるにしろ、ゾマーがユングさんに嫌がらせ行為をしていたのは、間違いのない事実だ。ゾマーの気持ちがどうとか、悪気がなかったからとか、周囲に唆されたからとか、そんなの関係ねーんだよ。されたユングさんの気持ちを考えろって話だろう」
「わ、わかってるよ! でもっ、あいつらが余計なことフランツに言わなかったら、ウリケルさんへの態度だって、エスカレートしなかったんじゃないか?! なのにリューゲン殿下の話を聞いて、自分たちは関係ないってフランツから離れていって、そんなの酷いじゃないか!」
う~ん、確かにそれもあるだろうけれど、元はと言えばゾマーの身から出た錆だもんなぁ。
「自分たちを棚上げしてるんじゃねーよ。酷いのはお前らだって一緒だろう? バカやってたゾマーに対して、お前らは何やってた? そいつらの煽りを黙って見てたんだろう? ユングさんに見当違いなフォローを一緒にやってたんじゃねーのか?」
ネーベルの言葉に、びくりとしたのはベックではなくグラーフ嬢の方だった。
へー、やってたのか。
「わ、私、そ、そんなつもりじゃなかったのよっ」
泣き出しそうな顔をして、グラーフ嬢は言い募る。
「ウリケルさんに、フランツの気持ちをわかってもらいたかったのっ。フランツのことも誤解してほしくなくって、だから……」
口出ししたって事か。
グラーフ嬢のお節介は、ゾマーにとっては、有り難いサポートだったかもしれないけどユング嬢にしてみれば、余計なお世話だ。
「ユング嬢にはメイヤーという両家で決められた婚約者がいるのに、他の男との仲を取り持とうとされたわけだし……。本当に、ゾマーのこと好きじゃないの?」
「違います! 私には婚約者がいるんですよ!」
「ユング嬢にもさ、婚約者いるよ?」
「あ……」
「まぁ、もうやっちゃったことは取り消せないし、ユング嬢とメイヤーに悪いことをしたと思うなら、もうゾマーのことで関わらないことだね」
っていうか、ユング嬢にしてみれば、ゾマーもゾマーの友人たちも、全員まとめて同じ穴の狢だろうから、個人的な付き合いだってしたくないだろう。
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