21 全肯定するだけが本当の友情ではない
白けた空気というか、グラーフ嬢の発言のまずさに気がついただろうベックが、慌てて口を挟んできた。
「あの、リーリエはフランツと特に仲が良くって」
へー、婚約者がいるご令嬢なのに、他の男と仲が良いとか。
「あ、あの、その、リーリエから見ると、フランツのことは『弟』のような存在なので、頼りなく見えて……」
モラハラする人間が、頼りないとか。
「……も、申し訳ありません! 自分で言っててなんだけど、全部言い訳っぽい! いえ、『ぽい』ではなく、間違いなく言い訳です!」
ベックは自分の両手で顔を覆って、心情を吐露する。
「そもそも、リューゲン殿下がフランツに言ったことは、全部本当のことだし、反省しなきゃいけないのはフランツです。庇える要素なんて何一つない。素直になれないのも、照れ隠しも、ウリケルさんにやったことに対しての弁解にはならない。それはちゃんと、俺もわかってます」
おぉう、ぶっちゃけたなぁ。
「グラーフ嬢は、そう思ってないみたいだよ」
そう言ってグラーフ嬢を見ると、彼女はさっと顔を青くさせて、ぶんぶんと首を横に振る。
「ちが、わ、私もラヴェンデルと、同じく思ってます!」
「じゃぁなんで、庇ったの?」
「フ、フランツのことを庇ったのは、好きだからとか、そう言うのではなくって。ウリケルさんへの気持ちとかずっと聞いていたし、フランツの彼女への想いは本当のことで、友達だし……」
え~、どう判断すればいいんだろう?
本当に友情? 姉弟感覚しかない?
僕はてっきり、グラーフ嬢はゾマーのことが好きで、ゾマーから暴言言われてるユング嬢とは裏腹に、自分はこんなにもゾマーと仲が良いんだぞと、仲が良いところを見せつけて、優越感に浸ってるものとばかり思ってたわ。
「あの、本当に、フランツのことは弟みたいにしか思ってないんです! 私ちゃんと婚約者がいますし! だから……」
グラーフ嬢は一生懸命、誤解だと言い募っている。
「僕が、グラーフ嬢がゾマーに恋心を持ってるんじゃないかって思ったのはさ、君がゾマーがやったことに憤るのではなく、好きだからやってしまったっていうのを肯定したからなんだよね」
「え……?」
「学園に来る前から親しい付き合いをしていて、弟みたいに思ってる相手なら、ゾマーの家がユング嬢の家に不義理なことしたのは知ってるよね?」
僕の話に、グラーフ嬢だけではなくベックも気まずそうな顔をする。
なるほど、そのあたりのことはゾマーと付き合いのある人は知ってるわけか。
「恩があるだろう家のご令嬢、しかも好きな相手に対して、素直になれないからって理由で暴言を吐いてる友人に、なんて最低なことをしてるんだって、思わなかった? ゾマーにも似たようなこと言った覚えがあるんだけど、君たち二人は他人にバカにされたり、暴言を吐きかけられて、嬉しくなっちゃう性癖をお持ちなのかな?」
「「持っていません!!」」
僕の話を聞いていくうちに、二人の顔は青くなったり赤くなったりして、ついには声を揃えて思いっきり否定された。
「持ってないのに、ゾマーがユング嬢に言ってることを諫めなかったの?」
するとベックは痛いところをつかれたという顔をし、グラーフ嬢は俯いてしまう。
「お、俺は……、ウリケルさんの気持ちを考えてなかったです」
ベックはあくまでゾマーの友人だからね。
「フランツの想いを成就させてやりたいってばかりで、肝心の相手であるウリケルさんのことは……」
途中で一度言葉を区切って、ベックは沈痛な面持ちで続けた。
「フランツはいいやつなんです。それは本当なんですよ。困ってる相手が居たら、誰かに言われなくても自分から助けに行くし、それで相手に恩を着せるなんてこともしない。仲間の誰かが何かに行き詰まってたり、窮してたりしてる時だって何も言わずに、黙って手を貸してくれるんです。友達想いのやつなんです。ただ……、好きな相手に対してだけは、素直になれなくって。あいつ、ウリケルさんを怒らせて、なんであんな言い方しかできないんだろうって、いつも後悔してたから……」
後悔しても、反省なく同じことをやらかしてるってことは、もう充分心の病気のような気がするけど、それを言っちゃぁおしまいか。
「俺たちも、軽く考えすぎてました。フランツがウリケルさんに酷いことを言ってても、それはフランツの本心じゃないって知ってたし、本当は好きなのに素直じゃないなぁって、好きな相手に対しては不器用だから、仕方がない。そんなふうに思って……。わざとじゃないから、悪気はないから、素直じゃないから、フランツのウリケルさんに対しての態度を好意的に見てたんです」
仲の良いゾマーの心情は理解できても、相手の気持ちまで慮ることはできなかったってところか。
「あと、フランツは思いやりのあるいいやつだから、ウリケルさんだって、あいつに好かれてるって知ったら、喜んで付き合ってくれるはずだって思いました」
「それ以前に婚約者がいるんだけどなぁ……」
「あ、はい。それは、その……、政略だって聞いてたので」
それは一応表向きの話なんだけどねぇ。
メイヤーやユング嬢の事情を他人にペラペラ喋るわけにはいかないから、二人には話さないけどね。
「政略なら、なおさら相手に誠実にならなきゃだめでしょうよ。それに、ユング嬢は婚約者と好意的に良いお付き合いをしているよ。政略だろうけど、お互い歩み寄ってるし、あの様子なら結婚までにはちゃんと愛情が育つと思う」
僕の言葉にベックは頭を抱えて、深いため息を吐き出した。
「見込み、ないかぁ……」
見込み以前の話だよ。
モラハラしてくる相手に、憎しみ以外の感情持てるわけないじゃないか。
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モチベ上がりますのでよろしくお願いします。