19 女神殺しを企ててみる
「いらっしゃい、奥の席へどうぞ」
白髪のマスターって感じの初老の男性が、カウンターの中から声を掛けてきた。
言われた通り奥の席に座って、手元のメニュー表をネーベルと一緒に覗き込む。
「あ、プディングがある。かたいやつかな? それとも柔らかいやつかな?」
「アル、バナナのパウンドケーキもある」
「え?! バナナのパウンドケーキ? うわ、アップルパイもあるよ」
どれも捨てがたい!!
ネーベルと一緒に迷いに迷って、バナナのパウンドケーキとクルミのパウンドケーキ、それからレモネードを注文した。
「それで、心当たりあるか?」
「う~ん、メイヤーの婚約者に『僕が先に好きだったのに』をやったゾマーか、幼馴染みファーストしてるフィッシャーぐらいじゃない?」
「逆恨みされたってことか。その割には何か仕掛けてくる様子が見られないけどな」
それな。
「あとは、オティーリエのお兄さん関係」
「あぁ、それもあったか。なんだかめんどくさくなってきた」
「そうだねぇ。何もかも放り出して、フルフトバールに帰ってしまいたいよ」
無理だろうけどね。
女神は、何が何でもラーヴェ王国の王族の王子を、自分の思い描いているシナリオに組み込みたいのだ。
てっぺんにいる人間を地に落としたいのか。
ざまぁモノにありがちな、主人公はイケメンでハイスペックな権力者と結ばれて、主人公を貶めた王族がいる国は滅んで、ハッピーエンドと言う流れにしたいのか。
「上学部に進級する前に留学するという手もあるんじゃないか?」
「留学するならイジーも連れていかないと駄目だ。イジーもざまぁ見ろって言われちゃうフラグ立ってるからね」
王子二人を同時期に他国に出すのは、無理っぽいよなぁ。
僕だけなら、将来フルフトバールの地に根を下ろすことになるし、世間を知るためっていう名目で、許可は出そうな気がするけど、でもイジーの立太子の儀が行われなければ、長期は無理かもしれない。
「アル。女神の介入は、俺たちがこの学園を卒業したら終わるのか?」
「絶対とは言い切れないけど、僕としては、そこが区切りだと思う」
ざまぁ舞台が大勢の人前で行われてるのは、王族の無様さを国内に広めることにあるんだと思う。
でも、僕には今現在、婚約者はいないから、卒業式もしくはその後のプロムで、婚約解消宣言なんかしない。
イジーはヘッダと婚約しているけど、ヘッダの要望で箝口令が敷かれている。そのことはイジーだってちゃんと理解してるから、人前でバカなことをやらかしたりしない。
っていうか、万が一にもイジーがバカやらかしそうな雰囲気を感じ取ったら、宣言する前に問答無用で気絶させて、その場から連れ出すよ。
でも僕はイジーのこと信じてるからね。
婚約のことで、何か蟠りが出たなら、やらかす前に相談してくれる。
だから、卒業式が僕らにとってのXデーだ。
そこさえ乗り切れば、僕の女神に対しての憤りの決着はともかくとして、ひとまず僕とイジーひいてはラーヴェ王家の滅亡は免れる。
「……ネーベル」
「なんだ?」
「女神って殺せるのかな?」
瞬間、ネーベルはごふっとレモネードを吹き出し、ゴホゴホと咳き込み始める。
「マスターすいません、お手拭きありますか?」
「どうぞ」
お手拭きを貰って、ネーベルに手渡し、背中をさする。
「大丈夫?」
「お前……、いきなりさぁ」
「だって、腹立たしいじゃないか。好き勝手介入して、自分は高みの見物してるんだもん。僕らの生活を脅かすなら、害獣とか魔獣とおんなじじゃないか」
「そ……れも、そうか? 言われてみれば、アルの言う通りかも」
「でもさぁ、女神って現身がない存在でしょう? それから超常的な存在でしょう? 神を殺す道具とか武器とか存在するのか? 手に入れたとしてそれで女神をズシャァーできるか? 神殺しの道具はどこまで有効? 存在そのものを殺せる?」
指を折りながらつらつらと語っていく。
「最後に、これが一番重要で、どうやって女神を僕の前に引き摺り出せるのか? ってところかな?」
張本人っていうか神が、目の前に現れてくれなきゃ、ヤるにもヤれない。
「カギを握ってるのは、やっぱりシルバードラゴンだと、俺は思う」
シルバードラゴン、こっちからの連絡が取れないからなぁ。
やっぱりもう一度、不帰の樹海に行ってシルバードラゴンに会いに行ってこなきゃだめかなぁ?
それ以外の手を考えるとしたら……、創生者たちだよね。
「創生者は、現世の世界の出来事に干渉する気はない。だから、マルコシアス家の直系に加護を与えている風神・ヴィントの加勢はないだろうね」
「すでに『加護』っていう支援をしてもらってるもんな」
「……ダメもとで、全能神・ヴォータンの神殿に行って、『夜明』と『宵闇』に祝詞を掛けてもらおうかな」
なんもしないよりも何かしたほうがいいわ。
「ヴォータンの主神殿ってどこにあるっけ?」
「メッケル地方」
「……テオのご実家があるところ?」
「だな」
やっぱりテオは、主要人物なんじゃないか?
「メッケル地方にあるヴォータンの神殿、一度行ってみたほうがいいかなぁ?」
「北部は遠いぞ?」
うぐぐっ。
王族には長期休暇がない。
厳密には、夏冬の学園の長期休暇に、王族としての公務をやってるから、遠出や他の領地に避暑や避寒に行く暇がない。
でもさぁ~、お休みしたいじゃん。遊びたいじゃん。
一回ぐらい、ネーベルとそれからヒルトも一緒に、どこかに旅行したいよねぇ。
宰相閣下にお願いして、公務の方、調整したら、なんとかできないかな?
善は急げだ。
寮に戻ったら、宰相閣下に手紙を書いて、今年の夏の公務を調整してもらおう!
驚かせたいから、ネーベルには内緒だ。
よし! 頑張るぞ!!
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モチベ上がりますのでよろしくお願いします。





