18 不審な尾行者
ヘッダの話を聞いた後、僕は早速おじい様に手紙を書いて、母上がいつ頃から国王陛下に執着するようになったのか訊ねた。
手紙だから返事が来るには時間がかかったけれど、王家主催の国王陛下の婚約者と側近を見定めるお茶会のあとからで、それまでは、興味を持つどころか、話題に出したこともなかったようだ。
母上がお茶会に出席したのも、友人であるマティルデ様に誘われたから、だったらしい。
マティルデ様ってさぁ……、アインホルン公爵よりも、国王陛下に似てる。
母上が国王陛下に執着したのは、確かに女神の介入があったからかもしれないけれど、惹かれたきっかけは、友人であるマティルデ様と同じ顔だったからじゃないか?
友人と同じ顔だから親近感を持ったとか、警戒心がなくなったとか、そこに女神の介入があって、すんなりと執着に変化したのかも。
なんで女神はキャスティング変更したんだよ。
シルバードラゴンとの盟約があるマルコシアス家の人間をわざわざ舞台に上げなくったって、高位の貴族は他にあったわけじゃん。
宰相閣下だって侯爵位だし、ヒルトとヘレーネ嬢の家も侯爵位だ。
王家に近い侯爵家からキャスティングすればいいものを、なんでわざわざシルバードラゴンとのつながりがあるマルコシアス家に目を付けた?
この辺のこと、シルバードラゴンなら知ってるのかなぁ?
夢渡りができるのはシルバードラゴンからで、僕のほうから会いたいなぁっと思っても、夢の中で会いに行くことはできない。
まぁ、人ならざるモノの介入に、僕らがどうやって止めればいいのかってことにもなるし、母上とヘレーネ嬢の実母のことは、もう終わったことだしなぁ。今更、何かできるはずもない。
注視しなければいけないブルーメ嬢にはヘレーネ嬢が目を光らせているから、接触者を待つだけだ。
イジーの乳兄弟も、イジーを意識している割には、直接接触してくるようなことはない。ただし、イジーとテオが七不思議探偵団をしていると知ったのか、同じ様なことをやっているらしい。まねっこか。
僕は要塞時代だった昔の地図と、今の学園都市の地図をテオとイジーに渡した。
もうここまでくれば出血大サービスでしょう。あとは、イジーたちが地下迷宮の正体を発見するだけだ。
そして僕も、今の学園都市の地図を片手にネーベルと都市内探索をしている。
「ここにもあると」
絵画の下絵に使う木炭スティックで、地図に丸印を付けて、そこから矢印も書き記す。
丸印が付いているところは、甲冑の銅像が設置してある場所である。
この銅像がまた、上手いこと建築物とマッチしているから、見落としそうになるんだけど、一つ二つじゃないんだよね。
学園都市内を彷徨うデュラハンの正体は、この甲冑姿の銅像であるのは間違いないだろう。
おそらくこの銅像には、魔導回路が仕込んであって、魔力を注入させれば動き出し、学園都市内を巡回パトロールするはずだ。
これを起動させるのは、きっと怪しげな人間が入り込んだという情報が入った場合だと思う。
でも元は地下迷宮の入口とされている場所を撹乱させるためと、要塞時代だったこの場所の巡回警備のためのゴーレムのはずだろうから、不審者を見つけて後を追いかけるなんてことはしないはず。
あくまで不審者の抑止のために起動させているはずだ。
「アル、そろそろ休憩にしようぜ」
僕の銅像チェックに付き合ってくれるネーベルが、適度に休憩の声を掛けてくれる。
「うん、何処に行く?」
「このあたりだと飲食街のほうが近いかもしれないな」
「そー言えば、そっちのほうはあんまり開拓してなかったね?」
僕らがいつも寄り道したり、お茶をするのはショッピング街のほうのカフェで、飲食街にはあまり足を延ばしてなかった。最初のころに学園都市内を散策したとき以来かもしれない。
だって、ご飯は寮館で食べるほうがおいしいし安全だしねぇ。
「この際、飲食街にもお気に入りのお店を開拓する?」
「そうだな。だけど、あんまりこっちのほうには来ないしな」
「どうせお茶やスイーツを飲み食いするなら美味しいところがいいよ」
「それもそうか」
僕とネーベルは他愛ない会話をしているけれど、明らかに後を付けられている。僕に付いてる護衛の影が動いてないから、外部からやってきた不審者ではないと思う。
ここ最近、誰かに尾行されているのは、僕もネーベルも気づいていた。ただ尾行されてるだけで、こっちに近づいてくる気配はない。
怪しい相手であったなら、問答無用で尾行してる相手を拉致監禁して、僕の後を付けてた理由を尋問しているだろうし、その報告もしてくるだろうけど、それがないということは、相手は学園に通っている生徒なのだろう。
飲食街にやってきて、何処に入ろうかとキョロキョロと周囲を見回す。
「なんか、ピンとくるお店がない」
「表通りよりも裏通りのほうに穴場がありそうな気がする」
そもそもこっちの飲食街、カフェ的なお店よりも、ちゃんとしたレストランのほうが多い。
迷いに迷って、表通りから一本裏のほうの道に足を向けてみると、小さなお店が点在していた。
「ネーベル、ここ、入ってみようか?」
僕が指さしたのは、メニュー看板は出ているが、店名がどこにも書いていない、小さなカフェ。
メニュー看板に書かれてる物は、軽食と飲み物、後はスイーツのセット。僕らのお小遣いでも懐が痛まない、お手頃なお値段。
ガラス窓から見える店内は、ウナギの寝床のような細長い間取りで、カウンター席のみのお店だった。
ネーベルも気になったようで、小さく頷くと、店の扉を引いて入店することにした。
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