16 ヒロインの友人は裁定者
ヘレーネ嬢はヘンカー家の令嬢として生きることに重きを置いてはいなかったようだ。
「ヘッダ様にどんなに情報を集めたとしても、人と関わらないのであれば、それには意味がないと言われました。特に令嬢や貴婦人たちのお茶会は情報収集の場ですが、侯爵家の人間であるわたくしがいるからこそ、出てくる情報もあると」
それは、あるだろうなぁ……。
う~ん、これは聞いてもいいのかなぁ? いいや、聞いちゃえ。
「あのさ、ヘレーネ嬢はブルーメ嬢とどういう知り合いなの?」
「アンジェリカ、ですか?」
「うん。先に言っておくけど、僕がブルーメ嬢に特別な感情を持っているってことはないからね。前に……、ブルーメ姉妹が言い争ってるのを目撃したことがあるんだよ。その時オティーリエと君が一緒にいて、君はブルーメ嬢と親しい雰囲気だったから、気になっただけ」
「前……」
「去年、学園祭の準備期間に、ブルーメ嬢の婚約者が、教室に乗り込んで騒ぎ起こしたことがあったでしょ?」
「あぁ、あれですか」
そう、それ。
僕の話に、ヘレーネ嬢は少し考え込んでから口を開いた。
「ブルーメ家は、ヘンカー家の寄子です。あと、お母様と前伯爵が友人同士で、その繋がりで、アンジェリカとは知り合いになりました」
「じゃぁヘンカー家はブルーメ家の後援的な立場って事でいいの?」
「はい」
その割には、情報収集のための手としては、使っていないような気がする。
ヘッダが言ってたイジーの最初のお茶会の様子から察するに、アンジェリカ・ブルーメ嬢は元から大人しめの性格のようだし、あの性格じゃぁ、ヘレーネ嬢の手足となる調査員としての役割は無理だろうしな。
「んー、突っ込んで聞いちゃうけど、伯爵代理の跡継ぎに対する虐待の件について」
「耳の痛い話です。ヘンカー家がブルーメ家の実情を知ったのは、四年前でした。我が家がブルーメ家の実情を知ったのは、お恥ずかしながら、アンジェリカの義妹となったイヴからの密告です」
既定の、欲しい欲しいずるいずるい強奪妹像から、ことごとくズレているなぁ。
でもオティーリエが言うには、転生者ではないって事なんだよね。
ブルーメ嬢や、ブルーメ嬢の父親や後妻は原作通りらしいのに、なんで異母妹だけこんなにも違ってるんだろう?
「ヘンカー家はブルーメ家に介入できたの?」
「はい、寄親であることと、ブルーメ伯爵の正式な後継者であるアンジェリカをわたくしの傍に置くという口実で、ブルーメ家の家政と経営介入はできました」
ヘンカー家が介入したことで、定期的にヘンカー家から監査が入ることになったためブルーメ嬢にされていた身体への暴行や食事をさせないと言う直接的な虐待は鳴りを潜めたそうだ。
しかしながら伯爵代理はブルーメ嬢の実父で、一応保護者という立場だ。彼とその後妻をブルーメ家の屋敷から追い出すということは、さすがにできなかった。
ついでに異母妹の扱いも、どうしていいのかということで、親子関係については保留。
ただし、伯爵代理や後妻の尻馬に乗って、本来の後継者であるブルーメ嬢に対して無礼な態度をとっていた使用人は一人残らず解雇し、新しい使用人はヘンカー家を通して雇用されたそうだ。
暴行や劣悪な環境に置く虐待はなくなったものの、伯爵代理と後妻によるパワハラモラハラな虐待までは抑え込むことはできず、そこは古参の使用人たちに、本来の主をちゃんと守るようにと、ヘンカー家から注意されたため、ブルーメ嬢が学園都市に来るまで、伯爵代理夫妻と古参の使用人たちとの攻防状態が続いたらしい。
「なんだかおかしな話だね」
「なにが、でしょうか?」
「僕がおかしいと思ってるのは、ヘンカー家でも伯爵代理夫妻でも、ブルーメ嬢でもないよ」
異母妹さんは、今のところよくわからないから保留。
ブルーメ家の一連の出来事において、一番おかしいと思うのは……。
「前ブルーメ女伯だよ。亡くなった方のことをいまさらとやかく言うのはどうかと思うんだけど、何から何までおかしいことしてるなぁと、君らは思わない?」
僕の言葉にヘッダは笑顔を崩さず、ヘレーネ嬢は苦々しい表情を見せる。
「アルベルト殿下の仰る通りです。ですが、これはブルーメ家の後継者であるアンジェリカの領分でもあります。なにとぞ、黙して見守っていただきたく思います」
あー、なるほどねー。
前ブルーメ女伯はヘンカー家に、ご息女であり次期後継者であるアンジェリカ・ブルーメ嬢のことで、後継についての何らかの頼み事をしている。
そして亡くなってなお、母である女伯は、獅子の子落とし的な試練を後継者の娘にしているわけね。
こういったところは、女性のほうがシビアだ。
ヘレーネ嬢はご両親に言われて、当主としてのブルーメ嬢の裁定者をしているわけか。
「了解。わかりました。もとよりブルーメ家の後継問題に首を突っ込む気はないよ。でもヘッダ、この話を聞かせるためだけに、ヘレーネ嬢を僕に紹介したわけではないよね?」
「当然ですわ。ヘレーネ様は、もっともアンジェリカ様のお傍にいるご令嬢。ご協力いただこうと思いまして」
「……ねぇヘッダ。僕は破滅願望なんてないし、イジーにだってそんな目に遭わせる気はない。でもね、闇雲に無関係のご令嬢を巻き込むのは良しとしてないよ?」
「わたくしだって、同じ思いでしてよ?」
「お待ちください、アルベルト様。今回協力を言い出したのは、わたくしなのです」
嘘くさい。
いや、ヘレーネ嬢が嘘を言ってると思ってるんじゃなくって、ヘレーネ嬢が自ら協力を言い出すように、ヘッダが誘導した可能性が高い。
どうもヘレーネ嬢はヘッダに恩を感じてるようだしね。
面白かったら、いいねとブックマーク、★評価もぽちりしてください。
モチベ上がりますのでよろしくお願いします。





