15 彷徨うデュラハンの正体と密談
自己紹介が終わった後、図書館近くの休憩スペースに移動して話をすることにした。
「ヘッダの話を先に聞く?」
「いいえ、アルベルト様のお話から先にどうぞ」
ヘッダはにっこり笑って、僕の用件を優先してくれる。
なんか引っかかるけど、後になると忘れちゃいそうだから、まぁいいか。
「七不思議関係の話だよ」
「あぁ、テオ様がイジー様と一緒に探ってるアレですわね」
「ヘッダは全部のネタわかってるの?」
「まぁ、おおよそ?」
「珍しいなぁ。そんな曖昧な回答するなんて」
いつものヘッダなら、わからなかったら徹底的に調べつくすのに。
「さすがに目に見えないモノの解明は……、無粋だと思いましたのよ」
目に見えないモノって……、幻とか幽霊とか? 七不思議の幽霊に分類するものは、確か、講堂と時計塔の七不思議だったよな。
「え……、ホンモノなの?」
僕の問いかけにヘッダは笑顔を見せるも答えない。あ、はい、無粋でしたね。
僕が知りたいのはそっちじゃないから、ホンモノだろうと嘘だろうとどっちでもいいや。
「僕が知りたいのは、地下迷宮とデュラハン。これ、ネタ元連動してるよね?」
ルイーザ先輩たちもヒント出してくれていたしね。
「回答をお出ししますか?」
「んー、イジーたちが一生懸命探してるのに、僕だけ先に回答を知っちゃうのもね」
「あらあら。そのご様子では、もうすでにわかっていらしてますのね?」
まぁ……、地下迷宮の正体は宮殿に暮らしてたら、見当がつくはず。
「イジーもすぐに気づくと思ったんだけど」
テオも……メッケル辺境地の城住まいだったし、もう少ししたら気が付くかな?
「まぁ、今の学園都市と要塞だった頃とは、地図が変わってるだろうからね」
僕の言葉にヘッダはにっこりとほほ笑む。
その笑顔を見て、僕の予想はほぼ正解だと確信する。
テオたちには学園都市になる前の要塞の地図を渡しておこう。
「確認したいのは、ヘッダのご先祖様がここを学園都市にするとき、要塞だった頃に使われていたモノを、魔術師によって停止させているか。停止は一定条件が揃えば、すぐに起動させることができるかってこと」
「どちらも『はい』とお答えいたしますわ」
あー、なるほどね。
デュラハンの正体は要塞時代に、警備として使っていた、甲冑姿のゴーレムなのだろう。
地下迷宮と言われているところの入口に、誰かが入っていかないように、期間を空けて今でも巡回させているのか。
動かしているのは、事情を知っている学園の教師か、それとも警邏している騎士か、どちらにしろ関係者によって、起動されているはずだ。
ただ、何故入り口を塞がなかったのか……。なにか使い道でもあったのか?
まぁ、そこらへんは、管理者の領分だな。
「ありがとう、僕が聞きたかったことはそれだけだよ」
僕の返事にヘッダは残念だと言わんばかりの表情を見せる。
僕はテオやヘッダのように、不思議に夢中になる人間じゃないんだよ。
「それで、ヘレーネ嬢を僕に紹介した理由は?」
「少し気になることがありまして」
そう言ってヘッダはヘレーネ嬢を見る。
「アルベルト殿下、わたくしが実母の実家であるヘンカー家に養子に出された理由はお知りですか?」
いきなりぶっこんでくるなぁ。
「お家の都合じゃないの?」
「家、ではなく、実母の都合です」
生まれてすぐに養子に出されて、産みの母親に対して『お母様』呼びではなく『実母』呼びしてるってことは、産みの母親とは交流してないって事なんだろうな。
「わたくしの実母の髪の色は王妃殿下と同じく黄金色で、瞳の色は藍色です。実父はブルーグレーの髪に、瞳の色は空色です」
ヘレーネ嬢はダークブラウンの髪に、バーミリオンの瞳だ。
そして家の都合ではなく実母の都合で、母親の実家に養子に出されたってことは……、間違いなく母親の不貞を疑われ、疑われた母親からは疎んじられた。
「君の実のご両親は、先祖返りとか、隔世遺伝とかを知らないの?」
「話すどころか、対面したこともありませんので、アルベルト殿下が仰ったことを、本人たちが知っているかどうか、わたくしには知りようもありません」
どこの家も、一つや二つ外に出せないことがあると思うんだけど、なんか……、あんまり聞きたくない話だよなぁ。
でもこれをヘッダが僕に聞かせるってことは、何かあるってことだよな。
「ヘレーネ様とは、以前から顔見知りではありましたのよ? ただこの方、オリー様とは違った困ったさんでしたので、大変手を焼かされましたわ」
「ヘッダ様にはいろいろお手を煩わせたと思っておりますわ」
「……もしかして引きこもりさんだった?」
僕の問いかけに、ヘッダはまぁッと顔を輝かせ、ヘレーネ嬢は苦笑いを浮かべる。
思い返せば、この学園都市に来るまで、ヘレーネ嬢とは顔を合わせたことがない。
いくら養女であると言っても、何処とも知れない子供というわけではなく、むしろ血統としては、伯父姪関係なのだから、外に出せないというわけではない。
母に疎まれた姪をただ引き取るだけではなく、自分たちの籍に入れたほどなのだから、伯父夫婦との関係が悪いというわけではないはずだ。
でも、王妃様に言われて開いた僕らのお茶会にも、僕らが出席したお茶会にも、彼女はいなかった。
「一応事情はあるのですよ。聞いていただけますか?」
ヘレーネ嬢の話は込み入った事情があるらしい。
「前提として、わたくしの今の両親は母の兄、伯父夫婦です。しかし、引き取られた子供だからと言って、兄と差別されたわけでも、不仲と言うわけでもありません。むしろ家族関係は良好です。お父様やお兄様の話によると、お母様は常々娘が欲しかったそうで、私の引き取りには積極的だったそうです」
おぉう、円満ならそれに越したことはないか。
「わたくしが幼少期のお茶会等に一切出席していなかったのは、ヘンカー家が担っていることが関係しています。アルベルト殿下は、ヘンカー家のことはご存知ですよね」
ベシュッツァー侯爵は外交に特化している家門だ。そしてそのベシュッツァー侯爵位を預かっているヘンカー家は収集した情報管理のスペシャリストだ。
情報は収集するだけでは意味がない。適切に管理してこそ意味がある。
「わたくしは、いずれ当主となるお兄様を支える人員になると、思っていたのです。だから、わたくしが表に出る必要はないと思い、貴族令嬢には必要なお茶会には一切出ていませんでした」
「それは……大丈夫だったの?」
「えぇ、かわりに寄子の家のご令嬢やご子息とは繋がりを得てましたので」
つまり、子飼いに情報収集させているのか。
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