14 地下迷宮とデュラハン
テオの説得が利いたのか、なぜかベソベソ泣いてるシューレ先輩には、僕らのシュタム会入りは諦めてもらった。
ついでに他のブラトやヴルツェルにも僕らが言ったことを伝えてもらって、しつこく勧誘してこないようにお願いしておく。
「そうだ、シューレ先輩、学園都市の七不思議にまつわる噂話、知ってたら教えてください。あ、ネタバレなしで」
泣きながらお弁当を食べてもらっているシューレ先輩にそう声を掛けると、なんでいまさらと言ったような顔をされる。
「僕がクラスメイトたちから聞いた噂と、被ってないものをお願いします」
そう言って噂話をまとめた紙をシューレ先輩に見せた。
「……これ、七不思議の項目別に分けたほうがいい、ですよ」
「言われてみれば」
聞いた話を片っ端から書き連ねていったからな。あとで、項目別に分けよう。
「七不思議を探ってるんですか?」
「とりあえずは、この学園都市の地下にある地下迷宮と、デュラハンの謎は解明したいですよね」
っていうかテオとイジーが知りたいのはこの二つぐらいだと思う。あとの五つはついでって感じかな?
「ざっと見た感じ、七不思議にまつわる話は全部書かれてると思います。俺は七不思議に興味なかったから、何とも言えませんけど」
あ、そうね。中には七不思議に興味ない人だっているもんね。
「ありがとうございます。じゃぁ、テオ。これあげるから、テオたちが集めた噂話と一緒に各七不思議ごとに分けて」
シューレ先輩から返された紙をテオに渡す。
「え?」
「これも捜査の下準備だよ? まず、この紙に書いてある噂を各七不思議ごとに分類すること。テオが知りたいのは地下迷宮とデュラハンの七不思議だから、その噂をピックアップして、検証していくんだよ。わかった?」
「う、うん」
「イジー、引き続き見張りよろしく」
「はい。お任せください」
僕らのやり取りを、クルトとリュディガーは、もの言いたげな表情で見ていたけどスルーさせてもらった。
どうせ変なこと考えてるんでしょ?
昼休みが終わる鐘の音が聞こえてきて、シューレ先輩とお別れした。
放課後はみんなで集めた噂話を各七不思議ごとに仕分けし、お目当ての地下迷宮に関係していそうな噂話と、デュラハンに関係していそうな噂話をピックアップ。
地下迷宮に関する噂話は中央公園に集中していて、地下迷宮の入口は中央公園にあるとか、夜中に中央公園から魔獣の鳴き声が聞こえたとか。
次にデュラハンの話は、そこかしこで、デュラハン(らしき影)を見たという、目撃証言っぽいもの。ぽい、なのは、実際見たと言うのではなく、兄姉の先輩が~とか、何年前にどこどこで当時その付近にお店をやってた人が~とか、本当に見たかどうかも怪しい報告だからだ。
僕も本当にデュラハンがいたとは思ってない。
甲冑姿の人を見てデュラハンと思い込んだというのが正解なんじゃないか? と、思っている。
けれど、この学園都市内で、甲冑姿で闊歩する状況とは?
ガチ戦場の前線にいる騎士なら、甲冑姿でもわかるけど、ここは戦場ではないし、未成年が多くいる学園都市だ。
考えられることとしたら、近づけたくない場所にお化け騒ぎを起こすって事なんだけど……、この手の方法を考える人間は、子供の思考をいまいち理解してない人だと思う。
お化けが出るから怖い、怖いから近づかないと考えるのはごくごく少数で、王立学園に通う年頃の子供ってぇのは、好奇心の塊だからさ。
ダメです。やってはいけません。危険なところなので近づいてはいけません。
これを言われれば言われるほど、逆のことをやらかすんだよ。
近づかせたくないなら、交代制の見張りを置いておくほうが堅実なのになぁ。やらないのは、そこに人手を割くことができないのか。
でも近づけたくないなら、対策しとかないと……。あ、そのために七不思議を利用したのか?
う~ん、わからんなぁ。ヘッダに聞いてみるか?
テオとイジーにはネタばらししないように、こっそり聞くしかねーな。
明日ヒルト経由でヘッダと連絡取るか。
噂話をまとめたテオとイジーたちは、さっそく明日から捜査開始すると言っていたけど、僕は用事があると言ってパスすることにした。
翌日ヒルトに理由を話して、ヘッダと放課後待ち合わせすることにした。
待ち合わせ場所は学園の図書館前で、そこにいたのはヘッダだけではなく、もう一人女生徒が一緒にいた。
ダークブラウンの髪にバーミリオンの瞳、それから眼鏡をかけたその女生徒は、いつぞやオティーリエとドアマットヒロイン姉妹と一緒にいた女生徒だった。
「今までご挨拶しなかったことをお詫び申し上げます。わたくし、ヘレーネ・デルテ・ヘンカーと申します」
カーテシーで挨拶をする彼女は、ベシュッツァー侯爵家のご令嬢だ。
「初めまして、ヘンカー嬢」
「わたくしのことは、どうぞヘレーネとお呼びください」
昔、母上とマティルデ様の他に、もう一人国王陛下の婚約者候補だったご令嬢がいた。
病弱で子供を作れるかわからないということで、国王陛下とは血が近いマティルデ様同様に、早々に国王陛下の婚約者候補から外されたそのご令嬢は、国王陛下が留学した時期に、ハント゠エアフォルク家の分家に嫁いだ。
ヘレーネ嬢の母親である。
ヘレーネ嬢は生まれてすぐに、母君の兄である現ベシュッツァー侯爵夫妻の養子に入れられた。
理由は不明だけど、母君に何かがあったという話は聞かなかったので、母君とヘンカー家の事情なのだろう。
ここにきて、ヘッダがヘレーネ嬢を連れてきて僕に紹介してきたということは、きっと何かあるんだろうな。
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モチベ上がりますのでよろしくお願いします。