11 ほんの少しだけキナ臭い話
テオたちは七不思議の噂を集めることにしたようだ。
まぁ噂集めだけなら僕もできるから、クラスメイトに七不思議の噂話で何か知ってることがあったら教えてといったら、まぁ、出てくるわ出てくるわ。
聞いた話を一つ一つ紙に書いていき、お昼になったらテオに渡すことにした。
「意外と多い」
「上に兄姉がいる場合は、そこから聞いてくる人もいるんだろうな」
「上に……、そう言えばネーベルのお兄さん。居るんだよね?」
「あー、居たなそんなやつ」
ネーベルは、今思い出しましたと言わんばかりだ。
「上学部には進級してねーと思うわ」
「そうなの?」
「俺はアルの従者だし、アルへの危険は排除しておきてーから、確認しておこうと思って、上学部に進級してるかどうか先生に訊いたんだよ」
僕の側近、仕事できる!
「進級してないって?」
「それどころか進級試験自体を受けてなかった」
あらぁ~、それはまた……。
「進級試験があるって知らなかったのか、それともバカで受けれなかったか、家が金払えねーって言ったか。どれかだな」
上学部からはとにかくお金がかかるけど、でもお金がない家や、神殿・教会の後見を受けている子供には、奨学金制度が導入される。
この制度を受ければ、かかった学費は就職後に少しずつ返済すればいいってことになってるのだ。
ついでに学費以外にかかるお金は、下学部の時と同じで、引き続き補助金で賄われるけど、この補助金は、無事に卒業できれば返さなくでもいいのだ。
その代わり、中退になったら、やっぱり返済することになってしまうんだけどね。
「進級試験を知らなかったってことは、ないんじゃないかなぁ?」
「わかんねーよ。あいつらマジで頭悪ぃから」
「んー、お家でお金払えなくても、奨学金申請はできたと思うんだよね」
「奨学金の意味も分かってなかったと思うぞ? もし分かってたとしても、返済義務があるなら、進級試験受けねーだろう?」
そうだね。
進級試験自体を受けなかったってことはそれもあるか。
「まぁ、いないならよかったよ。ネーベルが煩わされることがないのが一番だ」
「そーいや、イグナーツ様の乳兄弟」
ドキッとした。やっぱりネーベルに黙ってるのは無理かぁ。
「見た?」
僕の問いかけに、ネーベルは頷く。
イジーの乳兄弟は、簡潔に説明すると、誰かから故意に誤った情報を与えられて、変な方向に性格というか思考をゆがめられていた。
だからイジーの傍から他部署にうつされたんだけど、そこでも手に負えないということで、王妃様が支援している神殿の孤児院へ送られたのだ。
誤った情報というのは、イジーの乳母が昔国王陛下と恋仲で、自分は国王陛下の子供であると言ったものだ。
同じ兄弟なのに、なんで自分は王子として認められないのかとか、王子なのにイジーの従者にならなくちゃいけないのかと言う鬱憤とか、自分のほうがイジーよりも優秀だとか、イジーの傍にいた時からそう思っていたらしい。
この世界、科学は発展していないけど、魔術は発展している。当然のことながら魔道具も発展していて、魔力検査で親子鑑定できる魔導具があるのだ。
魔力って、血が近ければ近いほど似てくるんだって。いわゆるDNA鑑定のようなもの。
例の乳兄弟が「自分は国王陛下の子供」なんて王妃様の前で言いだしたものだから、国王陛下が怒って「そんなことはない」と言って魔力検査をしたそうだ。
そうしたら、乳兄弟の魔力は、ラーヴェ王国の王族の魔力とは、まったくかすりもしないものだった。当然国王陛下との魔力とも似ていない。
ついでに、乳母を後妻として受け入れた元伯爵とは、大きな声では言えないけれど白い結婚だった。結婚の条件がそれだったらしい。やべーわ。
じゃぁ一体誰の子だよって話なんだけど、ほら元乳母って学生時代、浮名を流しまくってたわけでしょう?
当時王子殿下だった国王陛下の前では、か弱き乙女を演出していたようだけど、婚約者であった母上にいじめられたとか、そう言った冤罪を作って、国王陛下に訴えはしていなかった。
それをやったところで、早々に排除されていたのは目に見えるわ。
だってさ、学生時代の母上には、マティルデ様が常にご一緒だったそうだからね。
マティルデ様が邪魔だと思ったら、そのご意向を汲む信者というか崇拝者というか、そう言ったやべー人たちが、男女問わず大勢いるんだよ。そしてそれは、今もいるんだよ。
木っ端な男爵令嬢なんか、相手にもならねーわ。
だからその辺を考えると、元乳母はうまいことやってたんだろう。母上やマティルデ様の視界に入ることなく、国王陛下に可愛がられる後輩のポジションをキープしつつ、あっちこっちで金持ってそうな貴族の子息に粉かけてた。
思うに、イジーの乳兄弟の父親は、この学生時代に元乳母とねんごろになってた相手の一人なんじゃねーか? と思うんだよ。
こんな手の込んだことをしているんだから、元乳母と国王陛下の関係を勘違いしていたとは思わない。明らかに作為があるから、国王陛下と元乳母の親密さを利用できると踏んで、仕掛けを施した。
魔力検査すれば周囲にはすぐにばれることだけど、でも子供はそうは思わないだろう? 特に分別が付かない時期だったなら、嘘をさも本当のことのように吹き込んで、信じ込ませるもの容易い。
ただしこの話は、そんな事をして、何がしたかったのかという疑問が出てくるわけだ。
杜撰過ぎる計画はすぐに破綻する。
現に、元乳母は王宮から出されたし、乳兄弟は変な思い込みだけが残って、神殿に送られた。
二人の親子は王族から離され、今や無縁となっている。いや乳母のほうは生きてるかどうかも怪しいがな。
イジーの乳兄弟は、間違った情報を信じこんだままの愚物だ。
周囲は王族に関わることだから、子供には国王陛下の子供ではないと言い含め、その思考を正そうとしたのだが、結果に実らなかったのだ。
これはもう、本人の資質も関係しているのではないだろうか? 例の乳母も思い込みが激しい性格だったらしいしな。変なところが遺伝したのかもしれない。
下学部までは、平民でも神殿・教会で保護されて、勉学に意欲的な子供なら入学することができる。
イジーの乳兄弟もその一人だったのだ。
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