10 不思議の解明をするようだ
話し終わったルイーザ先輩とシュテラ先輩は、僕らの様子を窺っているように見える。
「先輩たちは、この七不思議の話の元ネタを知ってるんですか?」
僕の質問にシュテラ先輩は驚いた顔をして、ルイーザ先輩は苦笑いを浮かべる。
「さすが、アルベルトくんね」
っていうか、先輩たちが隠し事に向いてないのでは? 僕らの反応見て楽しんでたから、余計にそうだろうって気が付くよ。
「でもね、全部知っているわけではないのよ?」
「私たちが知っているのは、地下迷宮と彷徨うデュラハンの正体」
それはテオたちが一番知りたい不思議だ。案の定、ちゃんとネタ元があるのかと、少し残念そうな顔をしている。
「ルイーザ先輩たちも七不思議を探ったことあるんですか?」
先輩相手だから、テオも喋り方に気を付けているようだ。
「えぇ、そうよ。何故か七不思議があるって知るのは、下学部の頃なのよね」
「上学部になるともう大体の生徒は知ってるからね」
おそらくサロンの先輩から、その手の話を聞かされるからじゃないだろうか?
「まぁ、ネタバレはしないでおくわね? みんなで頑張って謎を解明してみてね」
僕は別に不思議はそのままでいいと思ってるけど、テオは違うだろうなぁ。夜中に寮館抜け出して探りに行きそうだ。ちゃんと見張っておかなきゃ。
そのあとも他愛ない話を少しして、お開きとなった。
上学部と言えども女性なので、上学部の女子寮へと先輩たちを送る。
その途中で、ルイーザ先輩に礼を言われた。
「あぁ、そうだ。アルベルトくん。ずっと言いそびれていたのだけど、相談に乗ってくれてありがとう」
晴れ晴れとした笑顔を見せるルイーザ先輩に、僕は少し複雑な心境になる。
「生意気なことしか言ってなかったので、感謝されると胸が痛いです」
「ううん。あれぐらいはっきり言ってもらわなかったら、私、今もずっとくだらないことで思い悩んで、鬱々としていたと思う」
くだらない、って言っちゃうんだ。
「アルベルトくんと話をして、いろいろ気が付いたこともあるの。だから、目を覚まさせてくれてありがとう」
「……ルイーザ先輩が、それで納得しているなら、良かったです」
「大丈夫よ。ちゃんと自分で考えてどうしようかと決めたことだもの。アルベルトくんにはアドバイスをしてもらっただけ。あとで、アルベルトくんにあんなこと言われたからなんて言って、逆恨みしたりしないから、そこは安心して」
僕の微妙な表情にルイーザ先輩はそれ以上何も言わなかった。
上学部の女子寮の前までくると、ルイーザ先輩とシュテラ先輩に送ってくれてありがとうと礼を言われ、お別れする。
「他の不思議の謎も解明したら教えてちょうだい」
別れ際、シュテラ先輩にはそんなことを言われた。
みんなで寮館に戻る最中に、テオがぼそりと呟く。
「あの人何がしたいんだろうな」
「テオ、そういうことは口にしない」
まぁ気がつくよね。あんなあからさまな尾行、何か企んでますと言わんばかりだ。
ルイーザ先輩もわかってたから、一人じゃなくってシュテラ先輩と一緒だったんだろうし、僕らが先輩たちを送ったのも、あとでルイーザ先輩に何かあったと知ったら、悔やむどころの話じゃないからだ。
でも、これは僕らには直接関係していることではないから、下手に首を突っ込む必要もない。
話をそらせば、すぐ興味を他に移すだろう。
「それよりも七不思議の解明するの?」
僕の問いかけにテオとイジーは顔を見合わせる。
「地下迷宮、ないんだろう?」
「先輩たちは、『ない』なんて断言してないよ?」
「え? でも」
「……否定は、してない。けど、本当にあるとも言ってない」
あらら、この辺の慎重さはイジーのほうが上かな?
「どっちなんだよ!!」
「だから、それを解明するんじゃないの?」
納得してなさそうな顔をしているテオに、僕は続けた。
「七不思議が本当にあるのか、それともないのか。そこは確かに知りたいことだよ? 『ある』だったら見つけたい。でも『ない』だったら? ないからつまらない、じゃなくって、ないのになんでそんな話になったのか? その謎を解明することが楽しいんでしょう?」
僕の話にテオは徐々に目を輝かせ、やる気をみなぎらせていく。
「地下迷宮! 探すぞ!!」
握りこぶしを天に突き上げ宣言するテオに、クルトがなんで煽るのかと言わんばかりに僕を見てくる。
だってテオの場合、一つのことに夢中になってるうちは、他に目を向けたりしないでしょう?
しばらく七不思議解明に夢中になっていてもらいたいんだよ。
「アルも一緒な!」
「はいはい、気が向いたらね」
「なんで?!」
「僕、不思議は不思議のままにしたいの。偶然その不思議に出会ったら儲けもの。いつか正体がわかればいいなって思うけどね。だから、今回の地下迷宮探しは、テオがメインで見つけるんだよ」
「俺?」
「そう、君。だって地下迷宮見つけたいのはテオでしょう? だからテオがみんなに指示を出してね。言っておくけど、闇雲に学園都市を駆け回って探したって、見つかるわけないんだからね? ちゃんと下準備するんだよ?」
「下準備って?」
こいつ、何も考えずに学園都市中を駆けずり回る気だったな?
「地下迷宮の噂を集めるんだよ。どこどこに入り口があるとか、どこらへんで人が消えたとか、そういう噂だよ」
うんうんと頷くテオに、どうも不安が消えない。
「イジー、クルト、リュディガー、テオが変なことに脱線しないように、ちゃんと見張っててね?」
四人は同じクラスだし、大丈夫だと思いたい。
「兄上、お任せください。俺がちゃんとテオのこと見張っておきますから」
そうね、イジーが一緒なら、危ないことはちゃんと止めてくれるだろう。
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