06 きっと誰もハニトラには引っかからない
ヒルトに指摘されたオティーリエは顔を青くして、両手を握りしめる。
「そ、そう、だったわね。でも、それなら、アンジェリカ様もおなじだと思います」
真・ヒロインだし、どういう意味で狙われてるかは不明だけど、標的の一人とみていいだろう。
「オティーリエ。ブルーメ嬢ってどんな子なの?」
いまだに謎なんだよね、ブルーメ嬢。
コミュ障であることはイジーの観察で知れたけど、どうもはっきりしない。何がと聞かれると回答に困るんだけど、人物像って言ったらいいのかな?
「アンジェリカ様は、良くも悪くも自己主張をされない方です。でも何も考えていないというわけではありません」
それを聞いて真っ先に思ったのは過去の僕だ。
「昔の僕みたいだね」
「昔の、アルベルト様、ですか?」
「前世の記憶がインストールされる前、僕は肉体と思考が繋がってなかったんだ。考えてることや思ってることを言葉にすることができなかった。しようと思ってもできなかった。まるで画面越しに外の世界を見ているような感じだったよ」
そんな調子だから、誰かに何を言われてもちゃんとした反応を返すことができなかったし、かろうじてできたのは、ハイ・イイエの返事だけだ。
だからあの愉快なお仲間たちには侮られたし、頭の弱い王子様だと思われていたんだろうけどね。
「彼女も……、ブルーメ嬢もそんな感じなのかな?」
「いえ、彼女とは一対一ならば、気後れすることなく、ちゃんとした会話をしてくれます。慣れ親しんだ人ならば、複数人でも大丈夫です。だけど、あまり親しくない相手であれば、一対一でも喋れなくなりますね」
だとすると元からのコミュ障だったんじゃなく、虐待されて自己主張が出来なくなったのかもしれない。
「結構強烈だった妹さんとは仲が悪いの?」
あれを見ると何とも言えない感じではあったよね? ブルーメ嬢を嫌っているというよりも、何もしないということに腹を立ててる感じだった。
「仲が悪いと言っていいのでしょうか? 双方に事情があるものなので、一概にこうであるとは言い切れないのですが、見るのも嫌だと言った嫌悪感は……。ごめんなさい、ないですとは言い切れません。イヴはちょっと表現に悩む子なので」
でも一応姉であるブルーメ嬢が伯爵になることは理解していたようだし、自分の両親のこともあまりよくは思っていなさそうだったような。
「アンジェリカ様も、イヴも、悪い子ではないのです。ただあの二人の相性は良くないというよりも、合わないのだと思います」
それは、分かる。
ちょっと見ただけなんだけど、妹さんの我の強さと、ブルーメ嬢の気の弱さは合いそうにない。
「ブルーメ嬢は虐待の影響があるでしょう? コミュ障もその一環だろうし、そこをどうこう言っても仕方がないとおもうんだけどね」
「えぇ、そうです。それはイヴもよくわかってるのですが、その歯がゆさに腹を立てているのです」
自分の感情に振り回されてるんだろうか?
「アンガーマネジメント受けさせれば、少しは楽になるかな?」
「アンガーマネジメント?」
「って何ですか?」
「知りません」
ネーベルやヒルトだけではなく、オティーリエも知らなかったようだ。
「いわゆる怒りをコントロールする講習。講習をしてくれる人がいないから、できないか。それはともかく、ブルーメ嬢も妹さんも、ラノベに出てくるような、話が通じない子ではないわけね?」
「はい、昔のわたくしとは違って、しっかりと現実を見ています。特にイヴは、ちゃんと地に足を付けているので、人の話を聞かずに自分の欲望を優先する子ではありません」
オティーリエ、それは笑えないよ?
「じゃぁ、あとはオティーリエたちに近づいてくる王族か高位貴族を注意しておく感じかな?」
ついでに女神に操られたハニトラ要員。
でもさぁ、イジーが公衆の面前でヘッダに「婚約破棄だー!」ってやるその光景が、どうしても想像できない。
たとえそんな相手ができたと仮定して、イジーのことだから、まずヘッダに素直に好きな人ができたと伝えると思うんだよね。そこからどうするかは、ヘッダと話し合いをするはず。
好きな人を側妃にするのか、それとも側妃ではなくただの愛人としておくのか。
二人の意見がまとまった後に、王妃様へご報告って形をとると思うんだよ。一人で暴走して勝手にあれこれやるんじゃなく、相手がいることだから、ちゃんと婚約者を尊重した態度をとると思う。
何よりもヘッダが、王妃になれば贅沢できるっていう略奪女をイジーに近づけるとは思えないんだよなぁ。
ヘッダなら、マルコシアス家に連絡入れて、アッテンティータの貸し出し要請して、サクッと対象者を始末する。その辺は全く躊躇わないよ?
だから注意するとしたら、テオかな?
いやテオもなぁ、あぁ見えて堅実にもの考えるし、情勢だって読める。
親から婚約者ができたと聞いて、どうしても嫌なら、自分が婚約をしないで済む方法を模索して、双方の親に突撃していくだろう。
百歩譲って、知らない間に婚約者がいて、その相手と全く交流してなくって蔑ろにしていましたってなっていた場合、辺境地育ちで剣術バカなテオをどこに送る?
跡継ぎがすでにいる、金持ち未亡人貴族のペットコース? それ、できる? テオがではなく、周囲の人間が、の意味で。
周囲の人間がそのおぜん立てを整えたって、あの、テオが相手なんだから、さっさとラーヴェ王国を出奔して、「冒険者だ! ひゃっほーい!」ってやるか、傭兵志願して戦場駆け巡ってるのが目に見えるじゃねーか。
もしくは未亡人のところまで素直に連行されたとしても、そこから未亡人と直接交渉して、「世界各国回って、未亡人好みの若くて可愛いペット見繕って連れてくるよ!」ってやるぞ、テオは。
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