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本   作者: 青島 心
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第一章 夢

二十歳の誕生日。「ゴトン!」の音で目が覚めた。


十八歳で就職し、その後両親の離婚。それを気に一人暮らしをはじめた。ちょっと都会な感じの田舎町が私の住む街。古い六畳一間のアパートに住んで二年が経った。


そして今日は私の誕生日そしてクリスマス。昨晩は、誕生日イブとクリスマスイブにかこつけて、友人たちと飲んだくれた。といってもみんな、彼氏との約束の前の時間つぶし的に遊んでくれたって感じだったので早めに解散。七時には一人ぼっちだった。その後アパートで一人、テレビのクリスマス特集を肴に飲んだくれていつの間にか寝ていたようだった。


時計の針は七時を少し過ぎた頃。

ところで、さっき何か音がしたような・・・。

アパートが古いため、郵便受けに何も郵便物が入ってないのに突然ねじが外れ、傾いていることもしょっちゅうある。でも今日は、ドアに付いた郵便受けは傾いてはいなかった。

「ん?じゃ~何の音?」

ぶつぶつ独り言を言いながら、決して広くはない部屋を二、三歩あるき玄関に向かった。そこには白い箱が置いてあった。

「さっきの音って・・これ?」

私は不思議だった。絶対ポストに入るはずのない大きさの箱だったからだ。

「寝ぼけてるのかな・・・。昨日は何もなかったのに・・。サンタでも来たのかな?」

ちょっとワクワクしながら箱を観察した。開けてしまってすぐに答えが分かってもつまらない。靴でも入っているのか?ちょっと持ち上げると靴ではないことはすぐに分かった。

「重いな~・・なんだろう・・・」特に包装もなければリボンもない。箱を上下左右に振ってみると、中にあるのも四角いものらしいことが分かる。そんなことより、その真っ白い箱にはあて先や送り主などの物も一切ない。

「開けてもいいのかな」恐る恐る開けてみると、中には高級そうな本とこれまた高級そうな万年筆。「本?何の本だろう・・。」分厚い表紙を開けてみると、意外なことに中は全部白紙だった。

「なにこれ?」とりあえず私はそれを箱に戻し、もしかしたら誰かが取りに来るかもしれないと思い、そのまま棚の上に片付けた。


あれから十年。このことは記憶からほとんど消えていた。

三十路を迎え、十年前とほとんど何も変わらない私がいた。

仕事は一度転職をし、そこでは店長にまで出世をしたものの、これでいいのかと日々すっきりしない毎日を過ごしていた。友達は次々に結婚し、あの頃の親友たちはすでに子供までいる。


先週、女だらけの同窓会ではバツ一女が何人かいたものの、一度も結婚をしていないのは私を含め二人だけだった。もう一人は結婚を来年に控えているそうで、当分独身であろう女はあたし一人だった。

「いいな~独身!あたしも出来るなら独身に戻りた~い」

「あたしも~!だって~うちの旦那なんて~」

「うちもそう~・・」

あたしには自慢話にしか聞こえないんですけど。そう言いたかったけど、とりあえず愛想笑い。どうせ独身のあたしの話なんて誰も聞くわけないし。なんとなく最後まで付き合った同窓会も時間になり、連絡先の交換はしたものの、みんな結婚して姓が変わってしまって、顔と名前なんて一致するわけがない。あれから一週間たった今も誰からも連絡はない。


そして今日はクリスマスイブ。二十代最後のイブ。

私は買ってきた白ワインとケーキとチキンをテーブルに置いた。せめて雰囲気だけでもとキャンドルを付け電気を消した。カーテンを開け、窓から見えるイルミネーションに少し涙ぐんだ。

遠くに見える電波塔の光に乾杯するふりをした。

そのとき、「ゴトン!」と音がした。聞き覚えのある音だった。ただ、五年前にあのオンボロアパートから2DKのマンションに引っ越したので、今のマンションの玄関に郵便受けは付いていない。

とりあえず玄関を見に行ったが、そこには何もなかった。

「そういえば・・あの箱どこにいったんだっけ・・」

引っ越してから一度も開けていないダンボールの中にそれはあった。箱は少し黄ばんでいるが、開けてみるとあの頃のままのきれいな緑色のベルベットの表紙が出てきた。

もう十年も経ってるし、もらってもいいんだよね。そう自分に言い聞かせた。

「そうだ!いい機会だし、日記でも書いてみようかな」

おもむろに漆黒の万年筆を手に取った。が、この二十九年間日記なんて書いたこともない私は、何を書いたらいいか分からなかった。

「12月24日土曜日 晴れ」

この一行からなかなか先に進まない。

日記って難しいな~・・・

生ハムにケーキ。白ワインにチキン。交互に口に運びながらペンを走らせた。

「私は明日30歳になります。今日は20代最後の日です。来年の抱負はとりあえず彼氏が欲しい。そしてドラマのようなシチュエーションでプロポーズをされて、海外で挙式!(ありえないか笑)子供は二人!一姫二太郎!専業主婦希望!旦那は・・出来ればイケメン!そして小金持ち!とりあえず30代がんばるぞ~!!」

これっぽっちの文章に3時間を費やした。とても日記とは言えない内容だったが、なぜかすっきりした私はそのまま気分よく眠りに付いた。


誕生日の朝。携帯の音で目が覚めた。

「はい・・・」

「おっす!三十路の誕生日おめでとう!彼氏できたか?」

「まったく毎年毎年同じこと聞かないでよ!」

高校のときに3年間付き合っていた元彼だ。彼は毎年あたしの誕生日に電話をしてくる。

「おまえ今日何してる?」

「この時間まで寝てるんだから分かるでしょ?」

「しょ~がね~な~・・誕生日だしクリスマスなんだからおしゃれでもして出かけるぞ!今から二時間後にマンションの下で待ってるからな!じゃ!」

一方的に一人でしゃべった彼が電話を切った。あ~眠い・・。時計の針は10時18分。面倒だな~・・・。携帯を握ったまましばらくベッドでぼ~っとしていると携帯のメールの着信音がなった。

「はやく用意をしなさい!」

彼からだった。3年間付き合っていたせいか、彼はあたしの事が手に取るように分かるらしい。それが嫌で別れたのに彼は気づいているのかな・・。

ダラダラと用意を済ませ、エレベーターで一階に降りた。待ってましたとばかりに満面の笑みで彼が車の横に立っていた。

「お嬢様こちらへどうぞ!」そういって車のドアを開けた。

あたしは無言で助手席に座った。

「ではこれから、誕生日あ~んどクリスマスを祝いたいとおもいま~す。れっつご~!」

彼はハイテンションで車を走らせた。

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