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第七話 (4)

 あたしは大体この国の山は回ったと思う。行商人さんはわかっていて山裾の村々を辿ってくれたのかもしれない。

 行商人さん、ありがとう。


 この国はもう魔物が入ってこないだろう。子供が魔物に怯えることなく森の恵みをとりに来たり、遊びに来たりすることができるよ。


 あとはゆっくり回ればいい。あたしの友達の末を訪ねてもいいし。でもあたしの新しい友達をふやそう。行商人さんと来た道を逆にたどろう。行商人さんと歩いたからあたしが住める、子供が遊びに来る森はなんとなくわかる。


 あたしの最初の森にはあたしの社があった。ちゃんと手入れがしてあった。嬉しい。やっぱり逆回りはやめよう。この社がある森から国を横切って、行商人さんと歩いた森までいってまた国を横断して戻って来て次の社を探そう。うん。そうしよう。


 あたしは嬉しくなった。行って帰ってくれば社がある。今日はこの社で寝よう。床下だけどね。


 次の日、出ようとしたら子供が遊びに来た。あたしは嬉しくなった。何人かの子供は、昔遊んだ子の末だ。なんでだろう。なんとなくわかる。みんなで社にお狐さん、今日も遊ばせてくださいと言っている。


 いいよ、いいよ。もちろん。遊んでいきな。

 あたしは嬉しくてつい尻尾がパタパタ。

 「お狐さんだ」

 みつかった。でもうれしい。

 そうだよ。あたしだよ。

 「お狐さん。あそぼ」

 うん。あそぼ。


 そうして一年くらい遊んだ。その間には子供の身内が亡くなったりした。あたしは子供が立ち直るまで付き添った。元気に遊べるまでそばにいた。

 あたしはずっといたいけど、あたしを待っている子がいるかもしれない。あたしは子供たちと別れた。

 子供達は泣いた。あたしも泣いた。


 あたしが来るのはいつになるかわからないけど、必ず来るよ。みんなの子供か孫かわからないけどまたあそぼ。

 「お狐さん。また来てね」

 うん。

 あたしは、振り返り振り返りしながら一生懸命手を振る子供たちと別れた。


 国を横切ったけど、国の中には小さな森しかなかった。でも木の実はあった。泉はあるところが少ない。喉が渇く。時々村人さんが、お狐さん、水を飲んでいきなと言ってくれた。助かる。たまに少し大きな森がある。あたしは少し休む。


 子供が遊びにくる。転んだりする。膝小僧と手のひらを擦りむく。あたしは膝小僧と手のひらの泥を舐め取ってやる。大丈夫だよ。すぐ治るよ。

 「お狐さん。ありがとう」

 あたしは嬉しい。お礼を言われた。子供の膝小僧と手のひらが治るまで森にいた。

 傷が治ったね。じゃいくね。

 「お狐さん。ありがとう。また来てね」

 抱きつかれてしまった。

 うん、いつになるかわからないけど、来るよ。

 滲んだ涙をなめとってやって別れる。


 あたしは国を横切って行商人さんと歩いたとき見つけた森についた。


 そうして季節が一回りする頃まで子供と遊んで、悲しいことがあると寄り添って、嬉しいことがあると一緒に喜んだ。

 そしてお別れしてまた国を横切ってあたしの社を探して、社の森に遊びに来る子供と遊んだ。


 あたしが国を横切っていると、ときどき行商人さんに出会った。行商人さんは荷車に乗せてくれてお話してくれた。いつも前に会った行商人さんの末だ。


 そうやって国を一回りした。気が付けば数えきれないほど季節が巡っていた。今ではあちこちにあたしの社が出来た。


 トウケイの街の中の森にもあたしの社ができた。この社は大きくてあたしが中で住めるようになっていた。あたしの世話をしてくれる人もいた。その人が言うには、国中のあたしと遊んだ子がお金を出しあって、お狐さんのうちを作ろうと社を作ってくれたんだそうだ。


 あたしは嬉しくなった。みんなあたしを忘れずにいてくれた。あたしも忘れていないよ。それからあたしは、あたしのために作ってくれた社に住んで、社から出かけて国中を回っている。時々社に帰ってきて、あたしを世話してくれる人とお話しして過ごした。


 世話してくれる人も交代していく。歳を取ったり、病気になったり、亡くなったりして、お話した人が去っていく。


 あたしが森に行って遊べば遊ぶほど、別れが増える。見送れば心の中の宝箱の中身が増えていく。

 やっぱり遊んだ子供とは必ず別れが来てしまう。いくらその子の末がいるからといって、遊んだ子は帰ってこない。みんなの顔が思い出される。


 あたしは、世話をしてくれる人を心配させてはいけないから、小さな声で啜り泣く。アウ、アウ、アウ、アウ。寂しいよう。

あとがき

 お狐さんの物語を読んでいただきありがとうございます。

 ここで終わりです。

 でも少しお狐さんがかわいそうです。

 蛇足ですが続けます。

 このお狐さんの物語は

「目覚めた世界で生きてゆく 僕と愛犬と仲間たちと共に」

 の世界の一部です

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