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私の身体あなたにお譲りします

作者: 三竹
掲載日:2023/10/02

生まれつき心臓に疾患があり、寿命は高校生になれるかわからないと言われている。走ることもできないので体育もやったことがない。いつも見ているだけ。我慢してきたことがたくさんある。何でこんな身体に生まれたんだろう。でも少しでも長くいきたい。高校生になってかわいい制服を着て学校に通いたい。ずっとそう思っていた。毎日心臓に負担を掛けないように気を付けながら生きているけど、それでも入院しないといけないことがある。私の心臓は何でそんなに弱いの?何度も涙を流したけど心臓が強くなることはない。移植の登録をしているけど、順番は回ってこない。このまま高校生になれずに死ぬ運命なのかな。バイトもしてみたかったし、海に行ったり、テーマパークの絶叫マシンに乗ったりしたかった。入院するたびに涙を流す回数は増えていく。治療もつらいし、入院している間学校の勉強も遅れてしまう。友達との関係もあまりうまくいかない。どのくらい入院するかわからないので、仲良くなっても長期間あえなくなることもある。たまにお見舞いに来てくれたりもするけど、みんな部活とか遊ぶのに忙しいから…。

今日もまた入院することになってしまった。今回はどのくらい入院になってしまうんだろう。痛みと不安で夜になると涙が溢れる。そんな時、病室のドアがノックされた。急いでティッシュを使い涙と鼻水を拭き、顔を見られないようにお布団を被った。

「初めまして、まゆかさん。怖がらないで聞いてほしい。今日から、こちらにいる本条朱莉さんになりませんか?」

ナースかと思ったら、誰?っていうか何言ってるの?怖くて声も出ない。

「突然で驚くよね。あなたの命は短い。でも生きたいんだよね。こちらの本条さんは健康な身体を持っているけど、これ以上生きたくないそうなんだ。僕はね、寿命を変えることは出来ないけど、魂の交換ならできるんだ。健康な身体を持っているのに、自らの命を絶ちたいと毎晩願っている。その一方で心臓に疾患を抱え、もっと生きたいと願っている。それなら交換したらいいんじゃないかと思って、提案しに来たんだ。」

恐る恐るお布団から顔を出す。月に照らされて、カーテン越しにふたつの影があった。

「今すぐに答えを出すのは難しいと思うから少し考えてほしい。交換した場合は、まゆかさんは本条さんとして生きていくことになり、今の両親や友達とは赤の他人だ。学校も変わるし年齢も本条さんは高校生だから少し年を重ねることになるよ。よく考えて。他人になってでも生きていきたいか。1週間後答えを聞きに来るから。それと本条さんの写真をテーブルに置いておくね。」

そう言ってふたりは去って行った。これは夢…?でも本当だったらどうする?健康な身体が手に入って何も我慢しなくていいんだよね。他人になっちゃうけど憧れの高校生になれる。夢じゃないならテーブルに写真があるの…?あるはずないよね。カーテンを少し開けてみる。

「あ、、、、、、った」

え、、本当に夢じゃないの?写真を見るとかわいい制服を着た女の子と両親と思われる人が写っていた。本当に本当…?この人になったら私は高校生にも大学生にもなって大人にもなれるの?胸が高ぶる。魂は私のまま生きられるなら身体が変わってもいいの?色々考えたいのに、興奮したから心臓が痛くなってきた。写真が見つかったら困る。動けるうちに急いで棚に入れている教科書の間に挟んだ。ベッドに入り、「治まれ、治まれ」と言い聞かせる。中々治まってくれない。これはもうダメだ…ナースコールを押す。「く、苦しい」と伝えるとナースがすぐに来て点滴に薬を入れた。痛みがだんだん治まってくるとともに眠っていた。

翌朝、目を覚ますと、やっぱりすべて夢だったのかなと思い、慌てて教科書を開いて写真を探す。

「ない…?やっぱり夢だったの?」

と思い、念のため他の教科書も開くと本条さんの写真があった。やっぱり夢じゃないんだ。真剣に考えないと…。もう一度教科書に写真を戻す。日中はナースやお母さんが来ることがあるから写真を出しておくのは危険だ。あと、考えるにしても興奮しないように、心臓が痛くなると考えるにも考えられなくなってしまう。

コンコン

「おはよう~体調大丈夫そう?」

ナースが入ってきた。

「うん、もう平気」

あまりにも頻繁に起きるとお薬も変わってくるし入院も長引くかもしれない。本条さんは本当に私なんかの身体と変わっていいのかな。私は…本条さんに変って生きたい…だって何だってできるんだよね?体育もプールもバイトも、遅刻しそうだって言って走ってもいい。でも両親も友達も住む場所も何もかも変わる…変わってもいいのかな。いきなり高校生になるって、そもそも中学校の勉強だって遅れているのにどうするんだろう?そんなの生きられればどうでもいい?頭の中がいっぱいになる。

上の空でナースと会話をし体温を測ったりして、朝食が運ばれてきた。病院のご飯は美味しくない。本条さんになったらもっと美味しいごはんを毎日食べられるし、学校帰りに買い食いしたり、お友達とカラオケ行ったりもできるんだろうな~。何でも”本条さんになったら”という妄想をしてしまう。午前中は勉強の時間にしているけど全く頭に入ってこない。本条さんになったらやりたいことを箇条書きにしていく。ペンが止まらないくらいやりたいことが思い浮かび自然と笑顔になる。これが全部できるようになるんだよね。

午後になり、お母さんがお見舞いに来てくれた。

母「何かいいことでもあった?」

私「え?」

母「嬉しそうな顔してるから」

私「な、何にもないよ」

何かを見透かされているような感づかれたような気がして焦った。ちょっとの変化もわかるのは私のお母さんだからなんだよね。本条さんになったらお母さんとは他人…もう話すこともできなくなるんだよね…。いつも私のために学校の送り迎えをしてくれて、毎日お見舞いにも来てくれる。私が泣くと一緒に泣いてくれて「健康な身体で生んであげられなくてごめんね」って何度も言われた。お母さんとの色んな思い出が蘇ってきて泣きそうになる。お母さんにこのことを言ったら何て言うんだろう…本条さんに変ってでも生きてって言うのかな…そもそもそんな話信じられないよね。誰かに話しちゃいけないとか言ってなかったけど、言ってもいいのかな…。お母さんに話してみようと思い声を掛けようとしたのと同時に

コンコン

午後の回診で先生とナースが入ってきた。問診などを受け終わると、昨日の夜お薬を追加したことをお母さんに話していた。そのままお母さんは別室に先生と話しに行った。もしかしたら入院が長引くとか余命の話とかなのかな…。あと1週間でどうするか決めるって、1週間もたないってこともあるのかな…だとしたら何とでも言えるもんね。もしかして、からかわれている?半信半疑になってくる。だって変わってもらうって決めてもそれが本当に実現する保証なんてどこにもないんだもん。嘘かもしれない。でもどうせ死んじゃうなら信じて変わってもらえるのか賭けてみる?さっきまで楽しみなことばかり考えていたのに急に不安に変わった。お母さんが病室に戻ってきた。不安げな顔の私に

「大丈夫よ、そんな顔しなくても。大体入院が何時から何時までなのかと、お薬の説明だっただけだから」

と言われた。お母さんが先生と話していることも不安だったけど、それよりも心配なことがたくさん出てきてしまった。このことを全部お母さんに相談していいのかな…。

「おか…」

ブーブー

お母さんのスマホが鳴った。電話みたいだ。

「ちょっと、ごめん」

お母さんは電話をしに病室を出た。なんて相談したらいいのかな…窓の外を眺めながら考えているといつの間にか眠っていた。お母さんの置手紙があり、もう帰ったことを知った。夕食を食べて就寝まで本条さんの写真を眺めながらどうしたらいいのか悩む。答えが出せるんだろうか…。

翌日もお母さんが来てくれた。でもお母さんに相談しようと思うと何かしらの邪魔が入って話せない。これは話せないようにされてる?人に話しちゃいけないとか何も言ってなかったけどやっぱりダメなのかな…。でもこんなこと一人で決められるかな。私のことだから私が決めないといけないとは思うけど、信じていいのかもわからないし…。

翌日は久しぶりに学校の友達がお見舞いに来てくれた。お母さん以外の人に話せるか確認してみよう。

「あ、あのね、ちょっと相談なんだけど…」

話せそう!…でも友達に言ってバカにされないかな…そんな話あるわけないって、入院していて頭もおかしくなったって思われないかな…

「英語の教科書でわからないところがあってね~」

誤魔化してしまった。やっぱりお母さんに相談したい!友達が帰った後お母さんがお見舞いに来てくれた。あと4日で答えを出さないといけない。気持ちが焦ってきてしまう。早く相談しないと。

「お母さん、あのね、ちょっと変な話なんだけど…」

相談できそうだと思った瞬間、心臓の鼓動が速くなる。なんて話したらわかってくれるかな…

「えっと、、、」

早く話したいのに言葉が出ない、そのうち呼吸が荒くなってきてしまい、お母さんが慌てる。

「ちょっと休んだら?話はあとで聞くから」

しばらく背中をさすらってもらい、落ち着いてきた。話の続きをと思ったら

「今日はお友達も来て少し疲れたんじゃない?話は明日聞くから、夕食まで寝なさい」

と言われてしまった。やっぱり相談できないのかな。

夜になり、写真を出してまた考えている。私がこの人に本当になるの?私は…どうしたいんだろう。一番はこの身体で生きること。でもたぶんはそれは叶わない。それなら本条さんの身体で生きる?それとも生きることを諦める?諦めたくない。また涙が出る。どうなるかわからないけど変わってもらう…?話せないなら手紙に書こう。お母さんに手紙を書くことにした。涙を拭いて紙とペンを用意すると

コンコン

ナースの見回りで、寝てないのバレたかな…。慌てて寝たふりをする。

「驚かせてごめんね。言い忘れていたことがあって来たんだ」

病室に入ってきたのはあの男の人だった。

「お母さんに相談しようとしているみたいだけど、このことは誰にも相談できないんだ。自分一人で答えを出してね」

やっぱり…。だから邪魔が入っていたのかな。

私「本当に交代できるの?ってあなたに聞いても真実だとしか言わないか…」

 「信じられない気持ちもわかる。でも本当だよ。どうやっても信じてもらえないかもしれないけど…。もう行くね、日付も変わってあと3日よく考えてみて」

病室を出て行った。誰にも話さずに一人で決めろって…どうしよう。でも本当に本当なんだよね?生きたいけど自分ではなくなる…魂はそのままだけど…。悩みすぎてなかなか寝付けなかった。

残り3日、生きたいけど、交代したらお母さんとはもう話せなくなるし…ずっと心が揺らいだままだった。ついに決断を出す日が来てしまった。何も知らないお母さんが今日もお見舞いに来てくれた。顔を見ただけで涙が出そうになる。私は本当にどうしたらいいんだろう…。たわいもない会話をして、お母さんが帰って行った。生きたいけどやっぱりお母さんともうこうやって話せなくなるのは嫌だ…。私は私のまま人生を全うするしかない。高校生になれなくても…。

夕食を済ませ、一息ついていると呼吸が荒くなってきた。すぐ治まるかなと思い、横になるがどんどん苦しくなる。ナースコールを鳴らし、ナースが来る頃には意識が遠のいてきていた。点滴に薬をいれられた所までは覚えているが気を失い、そのまま眠ってしまっていたらしい。どのくらい寝たのかわからない。目を開けるとあの男の人と本条さんがベットの横に立っていた…。

「答えは出ましたか?」

私「…はい…。私…やっぱり生きたいです」

涙を流して出た言葉は、決めていた言葉と違った…。苦しくて意識がなくなるとき「いやだ、生きたい」強く願っていた。そしてその想いが言葉に出ていた。

「では、本条さんと今から交代します。1度交代すると絶対に元には戻りません。いいですね?」

本条さんはしっかり決心が固まっていて、すぐに頷いていた。でも私は…まだ迷いがある…だって、お母さん・お父さん…。黙っていると

「本当にいいですか?後悔してもどうにもできませんからね?どうしますか?」

どうしよう、焦るとまた呼吸が荒くなってきた。また意識が遠のいていく…もう苦しくて辛い思いをするのはもう嫌だ。

私「はい…」

苦しい中返事をした。

「では、今すぐお二人の魂を交代いたします」

苦しさが無くなった。目の前に私がいた…。私本条さんになったんだ。本条さんが苦しそうでナースコールを鳴らした。

「私たちは出ましょう」

病室を足早に去った。確かに私たちがいたら、不審者だと思われる。

私「私はもう私に…まゆかに会えないの?」

 「それは今のまゆかさん次第です。明日にで聞きに行ってください。本条さんのお家へご案内します」

私、本当に本条さんになってる。走ったり大きな声を出したり、もう何も我慢しなくていいんだよね。胸が高鳴るのと同時に苦しそうな私…まゆかの顔が浮かぶ。

「今日はもう遅いですし、色んなことを考えてしまうと思いますが、早く寝てください」

車であっという間に本条さんの家に、今日からは私の家に…着いた。写真で見たお母さんがいた。

「た、ただいま」

母「お帰り~。ご飯食べるでしょ?用意しちゃうね~」

優しそうなお母さんだ。私の部屋ってあるのかな…身体が覚えているとはこのことなんだろうか、足が勝手に自分の部屋に行っていた。人の家にお邪魔している気分だけど、両親から見たら変わらないんだもんね…。身長も普段切るお洋服も違くて少し戸惑う。ご飯とお風呂を済ませて寝る準備をする。まゆか、苦しそうだったけど大丈夫かな…。私はすべてから解放されたけど…。

翌日は土曜日で学校も休みだ。土日はお昼過ぎにお父さんとお母さんふたりでお見舞いに来てくれるから、鉢合わせないように午前中の面会時間と同時に病院へ行った。

コンコン

私「ほ、、、私です。入ってもいいですか?」

 「どうぞ」

中に入ると酸素マスクがついていた。今は呼吸は落ち着いているみたいだけど結構辛かったんだろうな…。

私「体調大丈夫…ですか?」

ま「うん、今は落ち着いてます」

私「あの…、本当に代わってよかったんですか?辛くないですか?」

ま「うん、本当にありがとうございました。苦しかったりはするけど全然大丈夫」

私…まゆかが笑っている。

私「こちらこそ、ありがとうございます…。あ、、学校とか家でこうしてほしいとかありますか?」

ま「ううん、特にないです。あなたの人生ですから好きにして大丈夫ですよ」

私「…わかりました。あ、、あのすぐじゃなくてもいいので、私…まゆかの両親にも会ったり、まゆかの体調を教えてもらったりしてもいいですか…?」

ま「大丈夫ですよ。病院で知り合ったことにしましょうか」

私「い、いいんですか!ありがとうございます」

お父さんとお母さんに私が走っている姿見せたいな~って本条さんが走ってるように見えるから意味がないのか…。でも会わせてもらえるだけで嬉しい。今日は体調がまだ良くなさそうだし、また来ていいって言ってもらえたから連絡先を交換して帰ることにした。

本条さんってどんな友達がいるんだろう…学校ではどんな感じなんだろう…好きにしていいって言われたけど…。帰り道、信号を渡ろうとすると点滅しだした。走れないから止まろう…まゆかの時の思考で立ち止まると、後ろからは男の人が走って点滅の信号を渡って行った。

そうだ!私もう走ってもいいんだ!

次の青信号と同時に走り出した。走り方も走る速度もわからないけど、本条さんの身体が覚えている。息も切れないし心臓も痛くない。健康な人の身体ってこうなんだ…不思議な感覚になった。帰宅し、自分の部屋に行くと机の上にノートがあった。お母さんが置いていったのかな?開いてみると本条さんの情報が書かれていた。生い立ちから、現在の友達の名前、部活をやっているかなど、これから本条さんとして生きていく上で必要な情報だった。恐らくあの男の人が置いていったんだろう。午後の間ずっと読んでいた。夜ご飯は家族揃って食べた。まゆかの時は、入院する前も両親は共働きで土日でも揃って食卓を囲めないことが多かった。一緒に食べれるっていいなぁと幸せを噛みしめた。夜中ふと目が覚めた。もう一度寝ようとしたけどなかなか寝付けず、段々と胸騒ぎがし始めた。もしかして…。まゆかに連絡してみたけど返事はない。どうしても気になり、着替えて病院へ向かった。夜間口からこっそり入り、病室に近づくとナースや医師が走っている姿が目に入った。まゆかの病室に向かっているようだった。まゆかの病室を恐る恐る覗くと意識が遠のいているのがわかった。

医師「両親はあとどの位で到着するんだ?」

ナース「20分くらいかと…」

医師「もうすぐお父さんとお母さんが来るから頑張れ」

その言葉を聞いた私は、まゆかの病室に泣きながら入っていた。

ナース「あなた誰?ご家族以外入らないでください」

と言われたが、まゆかの身体にしがみつき大声をあげて泣いた。まゆかが薄目を開け、私を見て頷いた。その後両親が到着し、まゆかの横で泣きながら話しかけている。

母「まゆか、わかる?お母さんよ」

父「お父さんもいるぞ、大丈夫…」

私は泣きながら両親とまゆかを見ていることしかできなかった。そして数分後まゆかは息を引き取った。しばらくして、落ち着いてきた両親は私に話しかけてきた。

母「まゆかのお友達かしら?」

私「はい、以前ここの病院でまゆかさんに親切にしていただいて仲良くなりました」

母「そうだったの。ありがとうね、来てくれて。」

私「ちょっとだけ棚の中を拝見してもいいですか?」

母「??え、えぇ。どうぞ」

ガサガサ…あ、あった。

私「これを…。」

まゆかのお母さんに手紙を渡した。私がまゆかだった時に、本条さんになると一度決断し両親宛の手紙を書いていた。その後まゆかのままでいると決めたけど、手紙を破棄していなかった。そして体調が悪くなり、本条さんになる決断をしたのだ。

私「まゆかさんから手紙を書いたことを聞いていたので…」

両親はまた涙を溢れさせ手紙を読んでいた。まゆかの魂はここに、目の前にいるのに何も言えない…。言ったところで信じてもらえないだろうし、さらに両親を苦しめ悲しませるかもしれないから。私は両親に頭を下げ、家路についた。静かに部屋に戻ったが、涙が溢れて止まらなかった。私は、まゆかはいなくなってしまったんだ…。

コンコン

「朱莉?大丈夫?入るわよ」

お母さんが入ってきた。

母「どうしたの?そんなに泣いて…」

私「と、、も、友達が…亡くなったの」

お母さんは何も言わずに背中をさすってくれた。私は生きているけど死んだんだ…。

まゆかの葬儀には参列できなかった。これ以上両親の悲しい顔を見れなかったから。悲しみに暮れ、学校を数日休んでしまった。複雑な思いからなかなか立ち直ることができなかった。楽しみにしていた高校の制服もアルバイトも一歩踏み出せずにいた。そんな私を見かねたお母さんが、

母「ちょっと外の空気を吸いに行こう」

と誘ってくれた。車に乗り少し遠くの森林公園に着いた。少し歩いてベンチに座ると、走り回る子供やランニングをしている人、犬の散歩をしている人など様々な人が目に入った。ぼーっと眺めていると、私は生きることを選択して、本条さんの身体と交換してもらったのに無気力になっていることが申し訳なくなってきた。みんなきっと色んなことを抱えて生きているんだ、私も生きたいと思ったんだから生きないと…。

「お母さん、私少し走ってくる」

立ち上がり、公園内を走りだした。走れるようになったことが嬉しくて、本条さんに感謝の涙が出てくる。せっかく交換してもらった身体、命を大切に生きて行こう。

前向きに考えられるようになり、憧れていた制服を着て高校に行くこともできた。友達とも帰りにカラオケに行ったり、買い食いしたり、今まで我慢していたことを一つ一つ叶えていった。本条さんは部活をやっていなかったけど、何か入ってみようかな。やってみたかったこと、やったことないことは全部やってみようと思う。

~10年後~

本条朱莉として生きて8年。私は今40階建てのビルの屋上に立っている…。生きたいと思って本条さんの身体と交換してもらったのに、私は今命を絶とうとしている…。高校の勉強にもどうにか食らいつき、なんとか留年せずに卒業、大学にも進学した。就職活動も100社ほど受け、なんとか内定がもらえた。就職活動の時もかなりメンタルがやられ、もう無理かもと何度も思った。でも社会に出て働く未来があるだけでもありがたいと思って気持ちを立て直し面接に臨んだ。会社に入り約3年。どうやらブラック企業?だったらしい。この3年毎日怒られ続けていた。私が仕事ができないからいけないんだと思い、一生懸命勉強し改善していこうと努力もしたが難しいみたいだ。転職しようと思ってエージェントにも登録して活動したが、経験不足とみなされ内定のお返事はいただけない。仕事でも転職でも精神的に削られていき、もう何もできる気力が残っていない。こんなことでへこたれるなと思われるのかもしれないが、心も身体も疲れ切ってしまった。2回目の両親への手紙を鞄に残し、一歩踏み出そうとした時

「本条朱莉さんの人生を終わらせる気ですか?」

聞いたことがある声がした。まゆかの病室に現れたあの男の人だった。

 「あなたが命を絶ちたいのでしたら、佐竹さんと交換しませんか?」

私「え…でも今の私になっても辛いだけじゃ…」

 「それを決めるのは交換した人です。佐竹さんは今70歳でガンを患っています。でも生きたいと強く思っています。もしあなたが承諾するのでしたら佐竹さんの身体と交換しませんか?」

私「…はい。私はもうこの世に未練はありません。まゆかの時にやりたいと思っていたことはこの8年でやり切りました。今の私でも佐竹さんがいいというのでしたら」

そう答えると、佐竹さんの所へ連れていかれた。佐竹さんは病室でガンの治療を受け入院していた。まゆかの時と同じだ。まさか自分がこちら側に来るとは思ってもみなかった。カーテン越しに話しかける。

「初めまして、佐竹さん。怖がらないで聞いてほしい。今日から、こちらにいる本条朱莉さんになりませんか?」

私は中学生だったし怖くて仕方なかったけど、佐竹さんは勢いよくカーテンを開け

佐「どちら様?何言っているの?」

ビックリした。怖がっている様子もない。

 「こちらが本条朱莉さんです。彼女は今25歳、ブラック企業に勤めており、心身ともに疲れ切っており、本日命を絶とうとしていました。もし佐竹さんが承諾するならあなたと身体を交換します。交換後は何があっても元には戻せません。本条朱莉さんとして生きていきませんか?」

佐「あなた達本気で言っているの?私を騙して何が楽しいの?」

 「騙していると思って断られるのでしたらそれでも構いません。あなたの答えは交換しないということでよろしいですか?」

佐「あなた達の話は信じられないけど、私は生きたい。まだ死にたくない。本当に交換?して生きられるなら行きたいわよ」

 「では、本条朱莉さんとして生きていくということでよろしいですか?先ほども申しましたが、交換後は何があっても元には戻りません。」

佐「生きられるならいいわ。本当に騙していないのよね?」

え?疑うけど生きられるなら交換してもいいんだ…。私は悩みに悩んだけど、しかも一度は交換しないという選択をした…でも佐竹さんは何の迷いもないのか…。

 「はい、騙していません。では今から魂を交換いたします」

一瞬でさっきまで本条朱莉さんだった私は佐竹さんになっていた。

本「ほ、ほ、本当に交換できたの…信じられない。私25歳からやり直せるってこと?」

 「はい、あなたは今から本条朱莉さんです。こちらに本条さんの生い立ちから今までが書かれていますのでご一読ください」

あ、私が本条さんになった時に机にあったノートだ。全部読み終わったら無くなっていて探したけど2度と出てこなかった。佐竹さん?今の本条さんは何のためらいもなくノートを開いた。近くにある椅子を取り出し座って読み始めた。佐竹さんになった私は体中の痛みを感じた。まゆかの時は交換して2日で亡くなったから、その位しかもたないのかな…。しばらくしてノートを読み終わった本条さんは顔をあげ

本「交換してくれて、ありがとう。あなたの分も本条朱莉を生き抜くね」

すごく複雑な気持ちになった。私も身体と命を交換してもらった時はそう思っていたはずなのに…生き抜けなかった。佐竹さんになって、本当に交換してよかったのかな…。本条さんから離れてみて、もっと他にできることはなかったのかと考えている自分がいた。男の人は本条さんを家へ送るため一緒に病室を出て行った。一人取り残された私は、自分の選択が間違っていたんじゃないかと頭をよぎった。でも、すぐに体中の痛みが増していきそれどころではなくなっていた。ナースコールをしたくても腕を伸ばせないほど痛い。巡回中のナースが見つけてくれ、急いで薬が撃ち込まれた。痛みの緩和とともに意識がなくなった。目を開けると見覚えのない天井。もしかして…起き上がろうとすると全身に痛みが走り佐竹さんとして生きていることを自覚した。

一方その頃、本条さんは朝一で会社に着くと退職届を部長に提出した。怒号が飛んでも怯むことなく

本「今の言葉録音しています。あらゆるところに開示されたくなければ、有休消化後、会社都合での退職としてください」

人が変わったかのような対応に先輩たちも驚きの目で見ている。部長も驚き何も言い返せなくなっている。

本「承諾しない場合は、今までのこともすべて開示しますから、覚悟してください。いいですね?」

そう言い残し、荷物をまとめて会社を出た。自宅に戻ると仕事探しを始めた。佐竹が若い時は営業の仕事をバリバリとしていた。そのため思ったことをハッキリ伝えることができる。そして生きたいと願っていた70歳から45歳も若返ることができ、第2の人生を謳歌しようと意気込んでいる。佐竹の時の身体の痛みがないだけではなく、体力だってある。夜になっても全く眠くならない。翌日からは朝のジョギングを始めた。せっかく交換してもらった身体がガンにならないように、健康に気を付けて生きようと決めた。仕事も自分の得意な営業に希望職種を変えて探し、宅建の勉強もし始めた。佐竹だった時はメーカーの営業だったが、ずっと不動産に興味があった。25歳の今なら勉強もスムーズに出来る。宅建の資格を取って不動産営業をすることを目標に動き出していた。勉強の集中力が切れてきたので一息入れることにした時、なんだか胸騒ぎがした。もしかして…佐竹の命が尽きそうなのだとなんとなくわかった。すぐに病室へと向かうと、お世話になった医師とナースが揃っていた。

コンコン

本「あ、あの佐竹さんの知り合いなんです…ちょっとご挨拶しても…」

医「そうなんですね…?どうぞ」

明らかに信じていなさそうな医師。入院中誰もお見舞いに来たことがなかったから当然だ。佐竹さんの手を握り

本「わかる?朱莉だよ。」

わずかに手を握り返してくれた。

本「本当にありがとう。あなたの命を無駄にしないから。安心してすべてから解放されて」

握っていた手の力が抜けていくのがわかる。私…佐竹を客観的に見て不思議な気持ちになる。もうこの身体はなくなってしまうんだ…。ガンになってからの痛みや苦しみを思い出し、気づくと涙が流れていた。佐竹の最後を見届けて病室を後にした。

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