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第三十九話

 今日は久しぶりに沙奈絵さんと会い、通り魔の情報交換をした。

 前に話し合った喫茶店で待ち合わせ、最近の出来事を話し合った。通り魔の話は進展がなく、犯人の目星すらついていない状態のようだ。

 ただ幸いにも被害者は増えていないようだ。俺としてはこれ以上犠牲者が増えないことを祈るばかりだ。

 その後、俺達はこれからの行動で気を付けるべきことを確認しあい、夕方に店を出た。駅近くまで送ってくれるというので、俺たちは夕陽に染まるアスファルトを並んで帰ることにした。

 事件の起きた公園の近くを通ったところで、隣を歩く明日葉が一点を見ながら立ち止まり、俺たちも釣られて立ち止まった。明日葉の視線の先には一つの人影があった。

 身長は一八〇センチくらいの中肉中背の男だ。年齢は二十代後半といったところだろうか。鍛え上げられた身体が制服の上からでも分かる。

 肩に付けた無線で何やら話しているようだ。その男は俺たちに気付き、近づいてきた。


「あれ? 君たちは……」


 俺たちの目の前まで来て何かに気付いたのか、目を見開いて警察官が話しかけてきた。


「えっと……どこかでお会いしましたか?」

「確か似顔絵をくれたお巡りさん、ですよね?」

「あぁ! あの時の!」


 以前、美優の命を奪った犯人探しをしていた時、似顔絵をくれたお巡りさんだった。この人も捜査に当たっているということだろう。

俺たちは互いに名乗り合い、軽く挨拶を交わした。そして、俺たちの顔を見て首を傾げて口を開いた。

「今日はどうしたのかな?」

「なんかまた通り魔事件が起きた、って聞きまして」


 沙奈絵さんから聞いた通り魔事件のことを話し、一人で帰宅するのは危ないから今ここまで送ってきた、と話した。

 前半は本当のことだが、後半は半分嘘だ。後半の半分が嘘だから、全体の四分の三は本当なのだから四捨五入で全部本当のことだ。


「そういうことか。うん、発生した」

「でも俺たちの件で解決したんじゃないんですか?」

「そのはずだったんだが」

 そう言って、警官は少し言いづらそうな顔をして言葉を続けた。

 曰く、今回の事件の手口は前回俺たちがかかわった事件と酷似していて、そもそも前回逮捕した犯人は今回の犯人の手口を模倣したらしい。

 うん、頭が混乱するな。

 つまり、逮捕された犯人が模倣した奴がいて、そいつが今回の犯人だということだな。


「被害者はやっぱり女性でしたか?」

「そうだね。今回も幸い軽傷で済んではいるが……」


そう言って言葉を濁し、苦い表情を浮かべた。被害者が出ていることに違いはないのだ。

しかし、これで犯人の目星がついたな。模倣犯なら、前回の事件を模倣できるほどの知識を持っているというわけだ。

模倣犯の目的は不明だが、少なくとも前回と同じことをしようとしていることは間違いないだろう。


「そうですか。あの、俺たちに何か出来ることありますか?」

「協力してくれるのは嬉しいが、一般市民……まして君たちは高校生だ」

「関係ありませんよ」


俺たちに何も出来ないことは百も承知だ。ただ、もしかしたら明日葉のことと関係しているかもしれないし、ただ単純に俺が美優を救えなかったことを後悔しているだけかもしれない。

 警官は俺の目を数瞬見た後、深くため息をついた。そして、苦笑いを浮かべて口を開いた。


「そしたら夜遅くに出歩かず、早く家に帰ることだ。それが私たちにとっての一番の協力だからね」

「そうですか」


 確かに今の状況から考えれば、俺たちが警察に協力出来ることと言えば、夜遅くに出回ることじゃなく早く家に帰ることかもしれない。

 そこまで考えてから一つ俺の中で引っ掛かっていたことを口にする。


「そしたらもう一つ教えてください」

「何かな?」

「以前、夜の結構遅い時間に俺たちと会ったのを覚えてますか?」


 俺の中での違和感。ここであの夜に感じた悪寒。

 そして今もなお、俺の心臓が鳴らし続けている警鐘の意味を。

 警官はその質問に、静かに肯定を示した。


「覚えているよ」

「あの時何してたんですか?」


 俺がした質問に、一瞬だけ目の前の笑顔が歪んで見えた。

 その歪んだ顔がどす黒い悪意に満ちているように俺は感じた。


「話したと思うが通報があったんだ。不審者がいるとね」

「それで駆けつけてみたら俺だった、ってことですか」

「ま、そういうことだ」

「……分かりました。沙奈絵さん帰りましょう」


 俺はこの警官に対して、明確に警戒心を抱いた。その悪意に満ちた笑顔と声音で。

 俺の言葉に沙奈絵さんも頷き、俺たちは再び帰路につこうとした。が、俺の制服の裾を引っ張る者がいた。明日葉だ。

振り返ると若干震えた声で尋ねてくる。

 そしてその顔には恐怖と怯えが浮かんでいた。今、俺たちの目の前にいるのは本物の警察官なのに何をおびえているのか? いや、理由は分かっている。

 先ほどまで話していた警官の声に、あの男……美優を殺害した犯人と同じものを感じたからだ。

 その直感が正しいならば、この警察官の近くにいるのは危険だ。

 事件現場である公園を通り過ぎ、すぐの曲がり角で沙奈絵さんと別れて俺たちは別の道を歩く。


『隼人、どうしたの?』


 歩きながら、明日葉は震えるような声で尋ねてくる。俺はその声に応えるように口を開いた。

 おそらくあの男とはもう会わない方がいいだろう。ただ、問題はあの警官が本当に警察官かどうかだ。

 俺が感じた違和感は、恐らく明日葉も感じているはずだから……。


「あのお巡りさん、怪しい」

『やっぱり。私もそう感じたんだけど』

「あぁ、あのお巡りさんだけど……」


 明日葉答え合わせをしようとした時、スマホに着信があった。

 沙奈絵さんからだ。


「もしもし? 沙奈絵さん? どうしたんですか? ……今どこにいますか? わかりましたすぐ向かいます」


 スマホの終話ボタンをタップし、歩いてきた道を急いで引き返す。


『沙奈絵ちゃん、何かあったの?』

「誰かに尾行されてるらしい」

『え!』

「すぐ近くだから行こう」

『うん!』


 嫌な予感がする。何も起こらなければ良いが。曲がり角を曲がり、少し進んだところで沙奈絵さんがこちらに気付いたのか、笑顔で手を振っていた。

しかしその笑顔はどこか引きつっているように見えたが、どうやら何事も無かったようだ。

 一安心したが視界の端、電柱の裏に黒い人影を捉えていた。


「沙奈絵さん!」

「西園寺さん、すいません」


 沙奈絵さんが申し訳なさそうに頭を下げてきた。視界を電柱に移すと、既に人影は消えていた。

 逃したか。

「大丈夫でしたか?」

「えぇ」

「それで尾行、っていうのは?」

「えっと、西園寺さんたちと別れてからすぐだったと思います。人通りが少ない道で足音が聞こえてきて、私が立ち止まったらその足音も止まって……」

「それで人通りのある道まで来て、俺たちを待ってた、ってことですね」

「はい」


 沙奈絵さんの言っていた尾行していた人物があの黒い人影だったとしたら……。

 もしそうだとすれば、そいつの目的は沙奈絵さんか、それとも別にあるのか。


「明日葉、周りに不審な人はいるか?」

『う~ん、さすがにわからないかなぁ』


 明日葉は周囲をキョロキョロ見渡しているが、どうやら不審な人物はいないようだ。


「……だろうな。そしたら、今日は送っていきますよ」

「ありがとうございます」


 さっきの人影が沙奈絵さんを尾行していた犯人なのは間違いないだろう。通り魔事件が起きたばかりなのだから、すぐに別れたのは間違いだったか。

 だがこれで懸念していたことが浮き彫りになった。あの警察官は、間違いなくこの通り魔事件に絡んでいる。悪い意味で。

 俺が送っていくと言うと、沙奈絵さんは嬉しそうな顔をしてお礼を言った。不安な状況だったから安心したのだろう。

 しかし、明日葉の方はどこか不満げな表情をしている。

 その表情から、なんとなく明日葉が言いたいことを察した俺は、明日葉の頭を軽く撫でて口を開いた。


「沙奈絵さんを危険な目に合わせるわけにはいかないだろ?」


 それを聞くとシブシブと言った感じで明日葉が了承した。

 その後、沙奈絵さんを家まで送り届けた俺たちは、自宅への帰路についた。

 黒い人影もあれ以降見ていないし、尾行されている気配もない。念のため警戒していたから気付いたことと言えば、電柱の裏に隠れていた人物が着ていた服。

 あれは間違いなく警察官のものだ。嫌な予感がする。的中しなければ良いが。


 七月十六日(日)13:00


「心配だな」

『昨日の事?』


 明日葉の言う昨日のことと言うのは、もちろん沙奈絵さんに尾行していた人物の事だ。

昨日のこと、俺はあの後、警戒をしていたが黒い人影は現れず、追跡者も現れなかった。

沙奈絵さんを送り届けて別れ、家に帰ってからは明日葉と話して一日を終えた。


「あぁ。一応沙奈絵さんには人通りの多い道を通るように約束したけど」

『まぁ今日は日曜日だし、家を出ないかもしれないじゃない』

「そうだな」


 沙奈絵さんは昨日のことで、俺たちと別れた後もあの道を歩いてはいないし、人通りの多い道を通るようには約束させた。

 しかし今日は日曜日だし、沙奈絵さんが昨日のように出掛けるとは考えずらい。

 俺も今日の予定は特にないため、家で明日葉とゆっくりするつもりなのだが……やはり心配だ。

 俺が懸念していたことが的中しなければいいのだが。


 七月十七日(月)17:00


 放課後、明日葉と一緒に下校しているとスマホが着信を告げた。

 ポケットから取り出して画面を確認すると沙奈絵さんからだった。


「はい! どうしましたか?」

「えっと、今日送りましょうか?」


 突然どうしたのだろうか、と一瞬思ったがすぐに合点がいった。沙奈絵さんはどうやら昨日のことが不安だったようだ。

 確かにあの黒い人影は通り魔だった可能性もあるため、すぐに消えたとは言え楽観視は出来ない。もしかしたら再び沙奈絵さんを尾行するかもしれない。

 そう思って出た提案だったのだが、


「分かりました。一人になるのはなるべく避けてくださいね」


 どうやら今日は男性の友人と一緒に帰宅するから大丈夫だという。

 別の意味で心配だが、沙奈絵さんのことだ。大丈夫だろう。


 七月十八日(火)16:00


 放課後、明日葉と一緒に帰宅していると、メッセージの到着を告げるアプリの通知音がした。

 スマホをポケットから取り出して通知を確認する。


「ん? 沙奈絵さんからだ」

『何だって?』


 メッセージアプリを開くと、沙奈絵さんから連絡が来ていた。内容は簡潔なものだった。


「今日、日直で帰りが遅くなるらしい。不安だから一緒に帰りたいって」

『沙奈絵ちゃんも大胆だねぇ』

「多分明日葉が思ってるのと違うぞ」

『そんなの分からないじゃない!』


 明日葉はニヤニヤしながら、からかうような口調で言ってくる。

 俺はそれに対してため息をつき、一応了承の返信を返した。するとすぐに既読がつき、可愛らしい猫のスタンプが送られてきた。


「いや、さすがにないだろ」


 スマホを閉じて明日葉に言う。明日葉はどこかつまらなそうに唇を尖らせた。

まったく、何を期待しているんだか……。


『隼人は分かってないなぁ。沙奈絵ちゃんみたいに大人しい感じの娘の方が、時に大胆になるんだよ。もし沙奈絵ちゃんに告白されたらどうするのさ?』

「どうもしねぇよ」


そもそも沙奈絵さんが俺を好きだなんて、そんなことあるわけがない。

俺と沙奈絵さんはただの友達で、それ以上でもそれ以下でもないんだ。きっとそうだ。俺は自分に言い聞かせるように頭の中で呟いた。


『本当かなぁ? 隼人って結構優柔不断なところあるからなぁ』

「そんなこと言ってると置いてくからな」

『あ、待って待って!』


 スタスタと歩き出す俺を見て、明日葉が慌てて追いかけてきた。

 その後、沙奈絵さんと合流して自宅まで送った。以前に尾行していた黒い人影が現れることもなかった。

 どうやら俺の不安は杞憂だったようだ。

 だが、その夜に沙奈絵さんからのメッセージで、再び事件のあったあの公園に行くことになる。


 ――今日、あの公園でまた通り魔事件が発生したみたいです。


 七月十九日(水)10:00


 俺は今、明日葉と一緒に公園にいた。

 昨日、沙奈絵さんからあの公園でまた通り魔事件が発生した、というメッセージが届いたからだ。

 公園には既に警察が捜査をしていて、立入禁止のテープが張られていた。

 捜査をしている警察官の中に、最近見た顔を見つけて近づいていく。


「ん? 君は……」

「どうも」


 軽く会釈して警察官に挨拶する。

 少し驚いた顔をしていたが、すぐに表情を取り繕って別の話題に切り替えてきた。


「この時間は学校じゃないのかな?」

「今日は創立記念日で休みです。だから制服も着てないんです」


 これは嘘じゃない。俺の高校は今日創立記念日で休みだ。

 警察官はそれで納得したのか、それ以上深く追及してこなかった。


「あぁ確かに」

「お巡りさんはどうしたんですか? もしかしてまた通り魔ですか?」


 俺の質問に、警察官は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに真顔に戻り答えてくれた。


「そうなんだ。今度の被害者は女子高生でね、意識不明の重体だったらしいが、たった今、病院で死亡が確認された」

「そうですか……」


 事件はもう起こっていて、被害者は女子高生だという。俺はそれを聞いて心がざわつくのを感じた。その被害者が沙奈絵さんだったら……と考えてしまう。

 そんな俺の気持ちに気付いたのか、明日葉が俺の手を握ってきた。ギュッと握られた手は微かに震えていたが、不思議と安心感を与えてくれた。

 通り魔事件のことを教えてくれたのは沙奈絵さんだから、被害者は沙奈絵さんではない。だがもし昨日、沙奈絵さんと帰っていなければ、被害を受けたのは沙奈絵さんかもしれない。

 俺がそう考えていると、警察官が何かを思い出したかのように口を開いた。


「これで亡くなったのは三人だ。何としても捕まえるから、君も気を付けるんだよ」

「……はい」


 ん? 三人? 俺はその言葉に違和感を覚えた。

 確か最初の事件は、俺たちが初めて明日葉の家に行った日だから六月二十日だよな。

 その次の事件が今日のはず。


 七月十九日(水)22:00


「う~ん、何か引っかかるな。なんだろう?」

『隼人、どうしたの?』


 ベッドに横になりながら、違和感を解消する糸口を探すために自分の記憶を遡る。


「いや昼間なんだけどさ、なんかあの警官が言ってた言葉が引っかかるんだ」


 沙奈絵さんとのメッセージのやり取りも確認したが、やはり一件目の事件は明日葉の家に行った日だ。

 ということは今日の事件は二件目ということになる。


『ふ~ん……どんな?』


 一日に二人の被害者が出たということか? いやそれもちょっとおかしいよな……。

 俺の予想が当たっていないことを祈るが、仮にその通りだった場合、事件と警察官の話の全ての辻褄が合うことになる。

 何度か別の可能性を考えて検証してみるが、どうしても矛盾が生じる。

 あり得ないと思いたい気持ちとは裏腹に、今まで得たパズルをくみ上げたら、俺の仮定が正しいと証明している。

 やはり、俺の予想は間違っていないようだ。

 疑念が確信へと変わる。


「それを明日、確かめに行く」


 七月二十日(木)12:00


 終業式は滞りなく終わった。あとは教室で通知表を受け取って帰るだけだ。

 担任の先生が夏休みの諸注意を簡単に済ませ、ホームルームが終了した。明日から夏休みだ! 教室内はテンションが上がり、帰り支度をしている生徒たちで賑わっている。

 教室の喧騒の中には、やはりというべきかもしれないが、トイレの花子さんについての会話が聞こえる。

 どうやら肝試しをするらしいが、残念ながらもうトイレの花子さんは、話しているトイレにはいないんだよな。

 肝試しの話をしている生徒たちを横目に帰り支度を済ませ、スマホに指を走らせてから学校を出る。

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