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第二十九話

「……どうぞ」


 沙奈絵さんに部屋の中に入れてもらい、視線で促されてから用意された座布団に腰を下ろす。

 沙奈絵さんの部屋とは言っているが、実際は美優の部屋だ。ピンクを基調とした木製のベッドに、

 チラリと机の上に目をやると、沙奈絵さんが集めた情報と考察があった。

 凶器、日付、時間帯、目撃者などが記されていた。

 彼女なりに頑張っているようだが、やはり中学生には限界があるようだ。途中から何も掛かれていない。


「それでお姉ちゃんの情報って何ですか?」


 目の前に座った沙奈絵さんは開口一番にそう聞いてきた。

 視線が鋭い。犯人探しが行き詰っていた時に得られた俺の言葉だ。当然と言えば当然だ。


「まず確認させてもらいたいんですけど、毎週木曜日に美優さんを殺害した通り魔を探している。これは間違いないですよね?」

「えぇ。私はお姉ちゃんを殺した犯人を探しています」

「いろいろ考察されていた見たいですね。でも途中で止まっていますが、何か進展はありましたか?」


 視線を机の上に向け、何も進んでいない事を確認するように問いかける。


「……今のところ何も。限界を感じてます」

「そりゃそうですよね」

「……どうしてですか?」


 俺の発言にやや気を悪くしたのか、眉間に皺を寄せて問い返してきた。

 この調子なら俺の思うように動いてくれそうだ。


「失礼なこと言いますけど、女子中学生に見つけられる犯人なら、警察は一体何をやってるんだ、って話になります。特に今回は殺人事件ですからね」


 沙奈絵さんの気持ちを逆なでしないよう、尚且つ納得できるような理由を口にする。

 まずは俺の事を信用してもらわないといけない。


「確かにそうですけど……でもどうしてお姉ちゃんだけ……。今までの被害者は命に別状はなかったのに、どうしてお姉ちゃんだけ……」


 確かにそれは辛いだろう。

 今まで誰も亡くなっていないのに、美優だけが命を落とすことになってしまった。

 こればかりは運が悪いと言うほかないのかも知れない。


「そこを悔やんでも仕方ないですよ。重要なのは、美優さんが成仏できるかどうか、だと思いますよ」


 犯人が早く見つかることを願わせるのが普通だ。俺がこの言い方をしたのには理由がある。


「成仏? 西園寺さん……でしたっけ? あなたにはそれが分かるんですか?」


 この言葉を引き出すためだ。

 普通は成仏しているかどうか、それは残された遺族には関係が無い。

 一番関心があるのは、犯人がどこで何をしているか、だ。

 それなのに、成仏しているかどうか、を問いかけたのはこのためだ。


「……」


 次に、しまったという表情を作って沈黙する。

 そうすれば必ず反応があるはずだ。


『お兄ちゃん言って良いよ! 信じるか信じないかは沙奈絵に任せよ!』


 おっと。まさか美優が反応するとは思わなかった。だが今はそれが良いタイミングで働いた。

 一瞬だけ美優の方に視線を移してから口を開く。


「えっと……信じてもらえないかもしれないですけど、それでも良いですか?」

「何をですか?」


 俺の言葉を聞いた沙奈絵さんがほぼ確信しているように問いかける。

 ここまで来ればもうあとは詰将棋と一緒だ。あとは手順を間違えなければ問題ない。


「俺には霊能力というのは無いです。ですが、なぜかあなたのお姉さん……美優の姿が見えて、話すことも出来ます」

「……」


 話した内容が衝撃的過ぎたか? いや、でもこれは嘘偽り無く伝えなければ意味がない。

 こういう時に信用を得るためには、まずは自分のことを否定し、それでも信じて欲しいと言うことが必要だ。


「信じられないですよね? でも本当です。今も沙奈絵さんの後ろに美優が居ます」

「え?」


 そしてもう一つ信用を得る方法がある。

 それは第三者の介入だ。


『沙奈絵の部屋の押し入れには、県大会のトロフィーがたくさんあるんだよ!』


 だからこの美優の言葉は良いアシストになった。

 それとも美優の方にも俺の意図が伝わったのか?


「今美優が言ったんですけど、押し入れに県大会のトロフィーがたくさんあるらしいですね」

「え!」


 突然の俺の発言に目を見開き、驚愕の表情をする。

 当然だが俺は美優の部屋には入ったことが無い。もしかしたらこの部屋に男性が入ること自体、初めてなのかもしれない。

 それなのに部屋の、しかも押し入れに入っている私物を言い当てたのだ。驚かないはずがない。


『私がプレゼントした弓道の弓をまだ使ってくれてるのかな?』

「美優がプレゼントした弓はまだ使ってますか?」


 続けて言われた美優の言葉を復唱する。

 もはや他の言葉は必要なかった。


「西園寺さんは……本当に見えるんですか?」


 ポツリと呟かれた言葉は、驚愕と動揺が入り混じった複雑な声色をしていた。


「俺個人としてはあまり見たくないんだけどな。どういう訳か知らないけど、会話も出来るんですよね」

「……本当ですか?」

「まぁ当然疑いますよね? でもそうだなぁ……さっきの弓の事でも良いんだけど、美優と沙奈絵さんしか知らないこと、何でもいいから言ってみてください」


 他に何か証拠となるようなものが無いか、美優に視線を移しながら問いかける。


「えっと……いえ、もう大丈夫です。今までのことで十分ですから」

「そしたら信用してもらえましたか?」

「まだちょっと疑ってますけど、とりあえずわかりました」


 無理もない。

 死んだ人間が見えるだけでなく会話も出来ると言われれば、嘘をついていると言われても仕方が無い。

 だが一応は信用してもらったみたいだ。


「それで西園寺さんなら犯人が捕まえられるんですか?」


 話が肝心の美優を殺害した犯人のことに戻った。

 沙奈絵さんにしてみればこちらの方が重要だ。


「残念ながらそれは無理です」


 だが残念なことに、警察が捜査して未だに捕まえていない犯人を、俺たち学生が見つけられるわけがない。


「そしたら何しに来たんですか?」


 目じりを若干釣り上げて沙奈絵さんが質問してくる。

 犯人を捕まえるのは無理。見つけるのも無理。と言われれば、何しにここに来たんだよ、と言われても仕方がない。


「さっきも言いましたけど美優を成仏させること……かな。その為にも通り魔を捕まえないといけない」

「でも今私たちに捕まえるのは無理って……」


 首を傾げ、理解出来ないといった表情で質問してくる。


「言いましたよ。でもそれは俺たちだけでは、ということです。ここには美優がいます」


 そんな沙奈絵さんに言い聞かせるように答える。


「つまり、お姉ちゃんの力を借りるってことですか?」

「そういうことです」

「でもどうやれば良いんですか?」

「まずは美優の殺害された現場に行きましょう。何が出来るかはそれからです」

「分かりました。準備します」

「美優はどうする? ここに残るか?」

『ううん。あたしも行く。沙奈絵ちゃんの為だもん』


 美優の答えを聞いて「そうか」と呟いてから沙奈絵さんの方に視線を移すと、怪訝な表情でこちらを見ている。


「あの、どうかしましたか?」

「いえ。本当に見えるんですね?」

「俺としてはあまり見たいものでもないんですけどね。でもまぁ、今では悪くないと思えますよ」


 明日葉と沙奈絵の二人に視線を移すと、二人ともキョトンとした表情をしている。

 本当に、幽霊って言ってもその辺にいる女子高生と変わらないんだな。

 俺が部屋を出ようとした時、


「あ、ちょっと待ってください」


 沙奈絵さんが俺を呼び止めた。

 何か忘れ物でもあるのだろうか?

 そう思って振り返ると、机の引き出しから金属製の細いひも状の物体を取り出した。

 キラキラと輝くそれは首元を彩る女性のアクセサリー、ネックレスだ。


「それは?」


 これから沙奈絵さんにとってはあまり印象の良くない場所に行くのに、お洒落をする必要はないのだが、その辺はやはり女の子だからだろうか。


「お姉ちゃんの……形見です」


 ぼそりと呟かれた言葉。

 一瞬だけ美優と顔を見合わせてから頷き、沙奈絵さんの気持ちを理解する。


「それじゃ行きましょうか」

「はい」


 目的地は美優が殺害された現場だ。


 六月十六日(金)16:00


 太陽は西に傾きかけていたが、もう間もなく夏至を迎えるということもあり、まだまだ初夏の蒸し暑さが屋外を支配していた。

 沙奈絵さんと二人並んで歩く姿は、傍から見れば若いカップルに見えただろう。無言のまま二人で歩いている感じは、気まずい以外何物でもない。唯一の救いは、本当は沙奈絵さんと二人ではなく、他にもう二人いることだ。

 もっとも、俺以外の人には見えないが。

 少し運動すれば汗まみれになりそうな気温と気まずい空気の中、事件現場に到着した。少しだけ運動したことによる汗と、気まずい雰囲気で出た冷や汗が入り混じっていたことは言うまでもない。

 事件現場は未だに警察の人がおり、周囲に聞き込みをしていたり、残留物の捜査していたりした。


「警察の人がたくさんいますね」

「まだ解決してないし、そんなに日が経ってないからなぁ」

『お兄ちゃん、どうしようか?』

「う~ん、そうだなぁ」


 美優の質問に考えながら道の真ん中に立ち尽くす。


 何もない空間に視線を向けて考えていると、不意に隣から声を掛けられえた。


「あの、西園寺さん。お姉ちゃんは何て?」

「あぁそういえば沙奈絵さんは聞こえないんですよね。今はどうしようか? って聞かれました」

「……そうですか」


 俺がそう答えると、ジッと俺の目を見つめてから視線を下に落としそう答えた。

 不憫だ。

 家族である自分が会話できないのに、全く赤の他人である俺が会話できる。沙奈絵さんとしては納得いかないだろう。

 出来ることなら彼女とは普通に会話できればいいのだが……。


「でもまずは情報を集めたいかな」


 気まずい空気を無理やりにでも壊すべく話を切り替え、視線を明日葉に移す。

 この空気は俺一人では何とも出来ないから、明日葉に助けを求めたのだ。


『そうだよねぇ。何かしら進展があれば良いんだけど……』


 事件について何かしらの情報があれば良いのだが……。

 仕方ない。多少気は引けるが今は他に方法が思いつかない。


「沙奈絵さん。ちょっと辛いかも知れないけど、被害者の遺族だ、ってことを言って捜査が進展したかどうか、聞きだしてくれませんか?」

「……わかりました」


 数秒間沈黙を挟んだ後、捜査を続けている警察官の元に走っていった。

 後ろ姿に若干の憤りと悲しさが漂っているのが見てわかる。


「ちょっと残酷だったかな……」

『どうして?』


 明日葉が俺の言葉を拾って質問する。沙奈絵さんの感情は先ほどの足取りを見ればわかるはずだが。

 いや、感情は理解出来てもなぜその感情になったのか理解出来ないのか?


「考えてもみろ。自分の姉を殺されたんだぞ。そのことについて聞くんだ。これで何も進展がないって言われたら……」

『確かにそうかもしれないね。沙奈絵ちゃんには可哀そうだったかな』


 俺の言葉に明日葉が同意を示す。

 事件が進展していてもしていなくても、沙奈絵さんには美優が殺されたことを改めて認識させることになる。

 あとでちゃんと謝罪した方が良いだろうな。


『まぁその時はその時だよ!』

「お前の事だぞ! 何でそんなに明るいんだよ」


 俺たちの気持ちを知ってか知らずか、一番重く考えるべき存在が一番軽く考えている。

 俺たちにとっては救いだが、もう少し真剣に考えてもいいんじゃないのか?

 そう思って突っ込んでみたわけだが。


『え? まぁこうしてお兄ちゃんやお姉ちゃんと、ずっと一緒にいられるし、沙奈絵ちゃんにも会えたし。これはこれで良いかな……って』


 どうやら美優には全く響かなかったようだ。

 この性格が羨ましい。同じ性格になりたいとは思わないが。


「悪霊化が進むかもしれないんだぞ」

『あ、忘れてた』

「はぁ……大丈夫かこいつ」


 今のところ悪霊化の心配はなさそうだが、いつまた発作が起きるか分からない。

 それなのに美優ときたら……。

 なんで俺がこんなに悩まないといけないんだ? 成仏させるとか言ったからか?


「お待たせしました」

「あ、どうでしたか?」


 長い溜息を吐いて頭を抱えていたところに沙奈絵さんが戻ってきた。

 事件の進捗状況はどうだろうか?


「残念ながらまだ進展はないみたいです。でも似顔絵を貰うことが出来ましたよ」

「目撃者がいたのかな?」

「それは分かりませんけど……」


 事件の進展はなし、か。だが情報が増えたのは俺たちにとっては一歩前進だ。

 容疑者の似顔絵ね……顔が分かっているなら犯人逮捕まであと少しな気がするが、警察としても話せないことがあるだろうから仕方ないかな。

 しかし、出来ればもう少し詳細な情報が欲しいところだ。


「もう少し話を聞いてみましょうか」


 沙奈絵さんにそう言ってから二人で似顔絵をくれた警察官のもとに行き、もう少しだけ話を詳しく聞く。

 そもそもこの似顔絵自体、何かしらの情報が無いと描けないはずだ。まずはこの人物について知りたい。


「この似顔絵の元になった人物かい? これはここ最近の聞き込みで、怪しい人物を見なかったか? という捜査をもとに描いたんだ。どうもこの人物は、ここ最近見かけられるようになったようだが、この辺に住んでいるわけではないらしい」

「つまりこの辺に住んでいないのに、どうして最近になってよく現れるのか? ってことですよね?」

「そういうことだね。君たちもこの似顔絵に似ている人物を見たら教えて欲しい」


 なるほどね。だから容疑者として浮上したわけだ。

 ちなみに今のように画像技術が発展した現代で、なぜ似顔絵が未だに使われているかというと、曖昧なところが良いらしい。

 以前は合成写真で作ったこともあるようだが、目撃情報などが減少したようだ。

 確かに合成写真の方が正確さは出るかもしれないが、それがかえって仇となり、目が違う、鼻が違うなどの理由で犯人に結び付かなくなったらしい。

 三億円事件やグリコ森永事件などで使われた手法だが、結局未解決事件となってしまったのは有名な話だ。

 そういった点から似顔絵を使った捜査が未だに使われているらしい。


「わかりました」


 警察官の言葉に返事をする。

 犯人の似顔絵ではなく容疑者の似顔絵なのね。被害者からは話を聞けなかったのだろうか? それとも通り魔に襲われたショックで覚えていないとか……考えられないことではないか。


「しかし残酷なものだ。通り魔事件で命を落としたのは、君のお姉さんで二人目(・・・)だよ。我々も全力で捜査をするから、吉報を待っていて欲しい」

「わかりました!」


 警察官の言葉に返事をし、踵を返してその場を離れる。事件現場から家とは逆の方向に進む俺を見て、沙奈絵さんが怪訝な表情をしたがこれには理由が二つある。

 家に戻る道はしばらく一直線で、逆方面ならすぐに曲がり角がある。出来るだけ早く今いた場所から姿を消したかった。これが一つ目の理由だ。

 そしてもう一つの理由が、


「さてと、美優。この人物に心当たりは?」


 これだ。

 この通り魔事件において、一番の被害者である美優の話を聞きたかったからだ。当然だが美優の姿は俺にしか見えていないから、あの現場でこの話をするのは避けたかった。

 似顔絵を美優に向けて問いかける。


『う~ん……見たことないかなぁ』

「ない、か。沙奈絵さんは?」


 美優に心当たりは無し。まぁ自分を殺した犯人のことだし、記憶にない方が幸せかもしれない。

 同じ質問を沙奈絵さんにしてみる。


「私も見たことないですねぇ」


 二人ともに見覚え無し。

 通り魔ということは、無差別に人を襲うわけだろうからこれも仕方がない。

 しかしそうなると俺たちも警察と同じような行動をとらざるを得なくなる。似顔絵をもとに聞き込み、またはネットの掲示板で情報を集めるか。

 いずれにしてももう少し時間がかかりそうだな。

 そう考えてから鞄に似顔絵をしまい込む。


『……隼人』


 突然明日葉が緊張した声で名前を呼んだ。

 こんなこと今までなかったはずだ。何かあったのか?


「どうしたんだ明日葉」


 視線を明日葉に向け、こちらも真剣な表情を作って質問する。


『私たち、尾行されてる』


 尾行? 今ここにいる中で尾行される理由がある人。

 少なくとも俺はこの町の住人ではないから除外されるはずだ。同様に明日葉も除外される。

 美優と沙奈絵さんは……いやその前に明日葉と美優は幽霊なのだから他人に見えるはずがない。

 となると尾行されているのは沙奈絵さんということになる。だが沙奈枝さんはずっと部屋に閉じこもっていたはずだ。

 いや待てよ。沙奈絵さんは自分で犯人を捕まえるための情報収集を行っていたよな。

 そして先ほどの事件現場から今いる場所はそんなに距離もない。そして警察官に近づき、事件の詳細を聞こうとしていたところを見られていたとしたら、尾行される理由にはなる。

 そして犯人は必ず犯行現場に戻る習性がある、というのは有名な話だ。


「誰に?」

『それは分からないけど、私たちから十メートルぐらいの間隔で付いて来てるよ』


 これはもしかしたら犯人探しの手間が省けるかもしれないな。

 今のこの状況で俺たちを尾行する人なんているわけない。いるとしたら美優を襲った犯人だけということになるはずだ。


「……明日葉」

『オッケー! ちょっと見てくるね』

「頼む!」


 そこそこ長い付き合いだけのことはある。俺の意図を察した明日葉が尾行しているのが誰か見に行った。


「あの……何かあったんですか?」


 そういえば沙奈絵さんに明日葉たちの声は聞こえないんだったな。


「どうやら俺たち、尾行されてるみたいだ。明日葉……えっと、美優と同じように幽霊なんだけど、そいつに見てきてもらってる」

「隼人さんって呪われてるんですか?」


 沙奈絵さんの視線が痛い。いや違うよ。でも俺がもし沙奈絵さんの立場なら、やっぱりそう思うよね。

 そして出来れば今後関わらないようにするだろうな。


「……否定出来ないかな」

『ちょっとお兄ちゃん!』


 俺の返答を聞いた美優が頬を膨らませて上目遣いで睨んできた。

 うん可愛い。じゃなくて。


「わかった悪かった! えっと、呪われてるわけじゃない。でも幽霊二人から取り憑かれてる」

「危なくないんですか?」


 危険性か……。そういえば考えたことなかったな。

 何しろ一番初めが明日葉との出会いだったからな。そのあと悪霊と呼ばれる存在を見たわけだけど、悪霊と明日葉では全然違った。

 そこからの美優だろ。俺でなくても危機感なんてなくなるだろうな。

 だが考えてみれば、本当なら危険なはずだよな。


「危険はない……はずだ」

『お兄ちゃん!』

「わかったよ! 危険はないけど被害は受けてる」

『ヒドイ! あたしたち何もしてないじゃない!』

「あの……被害って言うのは?」


 俺と美優の会話は完全に俺の独り言のはずだが、沙奈絵さんはどんな会話をしているのかほぼ完全に追跡したのだろう。

 そして俺が受けてる被害について質問してきた。


「いや、夜寝る時とか女子トークとかで……ね」

「あぁ、そういう感じですか!」


 これについても沙奈絵さんは完全に察してくれたようだ。

 もしかしたら彼女自身も経験があるのかもしれない。女子トークの中に取り残された男子の気持ち。

 うん。完全に孤立する。孤立するだけならまだしも、ネタに使われることもある。


「えぇ……そういうことです」


 あ、何だろう? なんだか急に悲しくなってきた。

 よし、この考察はここで中断しよう!


『隼人! 逃げて!』


 気持ちが完全に沈んでいた俺に、慌てた様子で戻ってきた明日葉が叫ぶ。

 この慌て具合、尋常じゃない。


「どうした?」

『あの人、貰った似顔絵の人にそっくりだよ! それに刃物持ってる!』


 掛かった!

 でもまさか刃物まで持ってるとは計算外だ。


『え! じゃあ!』


 明日葉の言葉に美優も戦慄する。

 今襲われたらまずいな。俺だけならまだしも、沙奈絵さんまで被害を受けることになる。


「沙奈絵さん」

「はい?」

「走って!」

「きゃあ!」


 犯人に聞こえないよう配慮した俺の呟きに、キョトンとした表情で首を傾げた沙奈絵さんの手を掴み、問答無用で走り出す。


「くそ気付かれた! 待ちやがれ!」


 背中で犯人の声を受け止め、沙奈絵さんの手を引きながら進んでいた道を全速力で駆け抜ける。

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