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手玉に取るユイ

法皇郷の間。

それは、地上五十階建てのビルだった。


僕は、巨大ビルにしか見えないその建物を「どこかの企業の本社だろう」といつも考えていたが、アリスに連れられて来たその玄関に「鈴木家」と書かれていて驚いた。


「これ、鈴木んちなの?!」

「その分社ね。”鏑木御四家”の中で、鈴木家、鏑木家が”本家”で、美少女川家ともう一つ綾小路家という風にあるんだけど、こと『金』に関しちゃ、鈴木が一番だわ。あーあ、嫌味ったらしい家ね!」

アリスはずかずかと入っていく。


「アリス様、いらっしゃいませ!」

「アリス様、幸綱さまが非常に首を長くしてお待ちでおります!」

「お連れのユイ様も、よろしくお願いします」


 僕はエレベーターに乗った。

 家の中にエレベーター?

  本当に世の中には、僕の知らない世界があるもんだ。

 それは、一気に天上界の世界だった。

 地上四十五階。


 雲まで手が届きそうだ。

「あーあ、嫌味ったらしい家ねえ」

 アリスはそう言う。

「君の家だって、僕からすると信じられないよ! けど、これはもう別世界だね」


「さあアリス様、幸綱様がいらっしゃいます」

ナトリカが言った。


すると、そこには大名行列のようにぞろぞろと後ろに執事を引き連れた鈴木が歩いてきた。

「あ、アリスさんとユイさんも!?」


「あーら、幸綱くん。こんにちは、こちらは友達でアイドルのユイよ」

「どうも、幸綱くん」

 僕はお辞儀をした。


「こおんな建物、入ったの初めてです。幸綱くん、お金持ちなんですねえ。私なんかがこんなビルに入っていいのかしら」

 僕はそう言ってみた。

 今の僕は『美少女アイドル、ユイ』の姿だ。

 金色の髪、女の子らしい目鼻、アイドルらしい話し方。


「いや、ユイさんならいつでも来てください!」

「あーら、鈴木くん。私の知らない内に、ユイと随分と仲良しになったのねえ?」

 アリスが畳みかける。

「い、いやそんなことじゃ・・・」


 すると、側近たちも

「ワッハハ、幸綱さま。こんな美人から取り合われるとは、流石に鈴木家の跡取りです!」

「なかなか隅に置けませんなあ、アリス様のような方がいながら、ユイ様のような美人と!」

と笑いあう。


(ここだけ取り出すと、まるでラブコメの1シーンみたいだ・・・)

 僕はそう思う。

 マイペースで優しい主人公が、許嫁とアイドルの間で揺れる・・・

 何時の時代でもありふれてそうな設定だ。


(けど・・・現実には、僕は男・・・)

(そして、裏ではアリスを寝取り続けているんだ・・・)


 アリスの体を何度もまさぐった感覚が蘇る。


 ゾクリ、

 と背筋に感じたことのないものが通った。


(え・・・?)


 これは・・・

 この感覚は・・・


「ユイ? どうかした・・・?」

「あ、いや・・・」


 アリスはこっそりと耳を近づけて、

「まさか・・・カイカン、感じちゃった? このシチュエーションに・・・?」

「え・・・・?」


 アリスは悪魔のように微笑している。


「考えてもみてよ・・・キミはこのボンボンの御曹司から、私を何度も寝取っているのよ・・・?」

「う・・・ぐ・・・・」


 ズキン。

 ズキン。

 と股間に切なさが宿る。

 こんな状態で勃起したら大変と、ブリーフを二重に履いてきているけれど・・・


(そうだ・・・・僕はこのボンボンの幸綱の許嫁であるアリスの体を、何度も・・・)

 彼女の美しい肢体。

 僕の部屋では、妹が入ってこなければもう少しで本当にセックスをしていた・・・

 許嫁、というのは気になるけど、けれど本当はアリスはすでに僕のものなんだ・・・


 ズグン、

 ズゴン。


(そして、鈴木幸綱。これもまた、”ユイ”である僕に少し気がある・・・?)

(”僕”がアリスを寝取っているから、自信を無くして、そこに現れた”ユイ”に少し気持ちが傾いている・・・?)


 ズガン。

 ズゴン!

ズキズキ!


 動機が激しすぎる。

 そして、股間も盛り上がってきそうだ。


(僕は今・・・”二重に幸綱から寝取っている・・・?)


 それは・・・

 なんともいえない、人間を支配する者だけに与えられた、他の誰にも味わえない美酒の味。


「いやあ、みんな! 止めてくれよ! 僕とユイさんはそんなじゃないって!」

と幸綱は言いながらも、嬉し気に顔が綻ぶのは止められない。

 幸綱の側は、「自分はアリスとユイのどっちを選ぶかで悩んでいる」と、そう思い込んでいるし、周囲の側近もだ。

 超御曹司の自分が、支配化に置かれているとは夢にも思っていない。


 けれど、現実は僕が幸綱をコントロールしているんだ・・・!

 僕の家は2LDKで家賃六万二千円で、どうにかやり繰りして、幸綱は五十階建てのビルが自分の家・・・


 けれど、そんなものは関係ない。

 世の中は寝取った者の勝ちなんだ・・・

 どんな経済格差だろうが、恋愛で堕としてしまえば終わりだ。

 しかも、僕は御曹司でサッカー部のエースの鈴木幸綱の許嫁のアリスと本人を両方・・・?


 ズグンズグン!

 ドクンドクン!


「クスっ、ユイ・・・? いえ、譲司くん? その悪魔のような引きつった笑みはなあに・・・?」

「えっ?」


「まるで、昔の譲司くんみたいで、ステキよ!」

「いや・・・」

 僕は笑っていた・・・?

 この変態的極まりない状況に、快感を感じて・・・?」

「クスっ、ユイも”寝取り”の楽しさと奥の深さが分かってきたんじゃない・・・? 本当に最高でしょう・・・? 私はキミに寝取られてばっかりだけど、いつも最高に幸せだもの・・・!」

「いや、まさか・・・」


 けれど、内にくる淫らな黒い、残酷な欲望は止められない。


「ねえ、じゃあ・・・幸綱のことも本気で寝取っちゃえば? ”譲司くん”は寝取りの天才だし、余裕でしょ? 今の美少女ユイの姿なら」

「ええ? アリスはそれでいいの・・・?」

「二人して、あのボンボンを地獄の底まで叩き落してやりましょうよ・・・! 譲司くんの記憶も戻るかもしれないし」


 アリスはそう言い、ナトリカに

「ねーえ、私ちょっとお色直しするね」

と言った。

「はい、幸綱様の前ですものね」

とナトリカはアリスと一緒に、別室へと去っていった。


(鈴木幸綱をも、寝取る・・・?)

(この女のユイの姿で・・・?)


ズグンドクンドクン!!


早鐘を打つような衝動!


どうして・・・?


どうしてこんなヘンタイ的な状況に、ここまで興奮するんだ、僕は・・・?


「あれえ? アリスさんは・・・?」

気の良さそうな鈴木の表情。


「お色直しよ、幸綱くんに少しでも可愛い所を見せたいのね、アリスちゃんったら。あーあ、妬けちゃうなあ。こおんな恰好いい彼氏がいるだなんて!」

僕は、スラスラと思っても無い台詞を口にしていた。


「いや・・・僕はまだ、彼氏とは言えないんだ」

「ええ? またまた御冗談でしょ? あの鈴木家と美少女川家だなんて、誰もが認めるカップリングなんだから」

「いや・・・前も話したでしょう? アリスさんは、どうも・・・何故かクラスの鬼畜みたいな奴に興味があるようで・・・」


 ズグンズグンドクン!

 ドキンドキンズキン!!


(僕の前で・・・”僕に彼女が寝取られかかっている”という相談をしている・・・)

(今、ここで正体を明かせば、鈴木のプライドはグチャグチャだ・・・・)


なのに、僕はこんな状態を、心底喜んでいる・・・?

僕はいつからここまでのヘンタイに・・・?


「ええー、信じられなあい! けど、アリスちゃんって押しに弱いからなあ」

僕はそう言う。


「けど、良かったかも」

僕は”鈴木幸綱が言って欲しそうな台詞”を口にしながら、両手を後ろで組む。


「え?」

 奴の顔に期待が満面に溢れている。


「だって、それだと私にも少しちゃチャンスがあるのかなあって、思っちゃった」


「え・・・? ユイさん・・・? まさか・・・」


 チョロい。

 男というのはここまでみんなチョロいのか?

 ・・・ひょっとしてアリスから見た僕も?


「私、着替えなんか男の人に見られたの初めて・・・他はお父さんだけだモン」


「あ、あれはゴメン!」


「けど、後で思い返して・・・それが優しい幸綱くんで良かったなあって、たまに思ってたから・・・」

「ユイ・・・さん?」


 僕は、軽く鈴木の手に触れる。

 鍛えたゴツイ手だ。

 その女に慣れてない腕が、可愛らしくピクンと跳ねる。

「さあ、アリスちゃんを中で待ってましょうよ。けど、私にはアリスちゃんのお色直しがもっと長引くといいんだけどね・・・」


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