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地獄の美少女アリス

「ぷ、あーっはははは! 見たあ? あの鈴木のカオ!」

天使のような顔を、悪魔のように歪ませているアリス。


「趣味が悪い子だね」

僕らはまた、体育倉庫の中でいる。


「ジョージくんこそ、随分と手慣れたやり方で私を襲うわよねえ」

アリスは、そこでスマホを手に取る。


「譲司くん、インスタとかは見ないの?」

「SNSはやらないから・・・」

「譲司、いえユイ・・・昨夜からちょっと大変なことになってるのよ?」


その中の光景に、びっくりしてしまった。


ユイとなった僕と、アリス。

その二人のショットに、何十万もの人たちが、

「渋谷に、女神ユイ様降臨!」

「天使アリスに女神ユイ!」

「ユイちゃん、どこの所属!? チャンネルはまだ持ってないの!?」

と次々に書き込んでいる。


「こんなに・・・?」

僕はつぶやいた。

「今月最速で、十万『いいね』がついてるわよ。ツイッターでも、物凄い反響・・・! ユイのアイドルとしての実力よ・・・!」


「まさか・・・僕はアイドルなんかじゃ」

「今、なっちゃえばいいじゃん」

アリスはそう言う。

暗い体育倉庫で、彼女の息遣いが聞こえる。


「アイドルは=偶像・・・事務所に所属とかカンケーないよ。今、”アイドル・ユイ”としてデビューしちゃえばいいじゃん」

「私が・・・?」


ずぐん、ドキン

アリスはホントに突拍子もないことばかり言う。


(それも・・・僕が『やってみたい』って思っていたことを)


「ね? ユイになろうよ」


アリスは、するすると僕の制服を脱がせていく。

そして、昨日買ってもらったドレスを着る僕。

アリスは念入りにメイクをしてくれる。

美少女ユイの完成だ!


アリスは、

「外で撮ろうよ! ユイ、お肌つるつるだし、日光がある方がいいでしょ?」

と強引に連れ出していく。


通学路では、学生たちが、

「あー、昨日の子よー」

「アイドルのユイちゃん!? 美少女川さんとのユニットなの!?」

とざわめいている。

パシャパシャとインスタを取られているけど、なんだか慣れてきているのでそんなにイヤな感じはしない。


風がドレスのスカートに当たって、ひらりひらりと揺れるけど、

そのたびに男子の視線が僕の太ももに釘付けになっている。


(気持ち・・イイ)

視線が気持ちいい。

ユイになっていると、全てが心地いい。


「さあ、ユイ。公園で撮りましょうよ! その方がインスタっぽいし、映えるわよ」

「生える・・・? 何が生えるの?」

「もう、ユイって世間知らずねえ。あ、そーだわ。本当に”世間知らずのお嬢様”っていう設定でいかない? 色々とストーリーがある方が、人目を引くし」

「うん、アリスに任せるよ」

「さあ、笑って。撮りましょ」

 僕はさっきアカウントを取ったばかりのインスタで、自分を映した。


 そこには、紛れもない”美少女ユイ”が微笑んでいた。アリスも笑顔で並んでいる。


「ハイ、チーズ」

 

 パシャリ。


 撮った。初インスタだ。


「さあ、アップしましょ。そーねえ・・・」


アリスは「ユイ15才。久々の太陽の下、アリスちゃんと一緒にお買い物です」

とインスタに書き込んでくれた。


五秒もしない内に、

『ユイさんだあああ!』

『久々の太陽って、まさか病弱とか・・・?』

『壮絶、超美人の上に体も弱いって、どんだけ俺らをくすぐるの!?』

『アリスちゃんもいいけど、ユイはもはや神!!』

『ユイちゃん、どこの事務所?』

「体、ダイジョーブ!?』

と書き込みが殺到している。


そこに、アリスのインスタでのフォローがあり、

「みんな、私の幼馴染のユイよ! 実は、彼女・・・家がとんでもなく厳しい名家で、ごくたまにしかお外に出れないの。今日も、こわーい執事さんの許可が下りて、どうにかユイとお散歩できるようになったのよ」

と書き込んだので、

みんな


『これだけの超美人、どれだけの尊い血筋なんですか!?』

『一生、フォローします!』

『ユイさまとアリスちゃん、ああ、イケナイ百合願望が・・・』

と次々に書かれて、僕のアップしたインスタには早くも三万の『いいね』がついている。


(なるほど・・・怖い執事がついている超名家、っていう設定か)

(これだと、僕がたまにしか”ユイ”として表に出ないことも説明がつく)


奔放なアリスだけど、実はかなり考えた上で行動してるってことは分かる。


「どう? ・・・ユイ」

アリスはそう言う。


「一気に三万もの『いいね』がついて、もうフォロワーは、一万人越え・・・ユイの実力よ」


僕も、なんとなく一気に増えるフォロワーに怖さを感じるけど、

同時に『いいね』がついて、僕のインスタに

『壮絶美少女!!』

「女神さま!」

と書き込まれるたび、

感じたことの無いような高揚を覚えていた・・・


「うれし・・・い」

僕はそう言った。


「そうでしょ? 美少女の人生は楽しいでしょ?」

「う・・ん、今までSNSって怖くてやってなかったけど・・・案外、みんないい人だね・・・」

「そーでしょ? みんな、フツーの子だもん」

 

僕は女神でも天使でもなく、実際にはおちんちんの生えた男子だ。

けれど、このインスタの中でなら、僕はアリスと同じかそれ以上の”美少女ユイ”として生きれるのだ・・・!


(僕は・・・女子になりたい)


その願望を改めて強く持つ。

他の男子が、どうしてスネ毛を生やしたまま外を歩けるのか、不思議だった。

小6の時、自分のスネに毛が二本生えているので、大慌てで抜き取った。

次はワキ、次は股間・・・と

体育の時間の着替え、僕だけずっとツルツルなのでからかわれたりもした。

けれど、僕は女子みたいなつるつるの肌でいたい。

っできれば、このままアリスとずっと二人で・・・


「アリス・・・もう一度、インスタを撮りましょ」

僕は言った。

今、撮る自分の若さと肌は、明日になればもう二度と戻らないのだ。


「いいよ・・・!」

アリスは、そんな僕の”美少女”としての願望を理解してくれているように頷いた。


「はい、撮りまーす」

パシャリ。

少し沈む夕日を背景に、僕とアリス。

信じがたいような美少女が二人。


「さあ、今度はコーデしてアップしようよ」

アリスはわくわくしているようだ。


僕は首を横に振る。

「え・・・?」

「この写真は、ずっとこのまま・・・」

僕はそう言う。


「僕とアリスだけの思い出にしよ?」

僕の言葉にアリスは、目を潤ませていた。


「ユイ・・・! そんなの、私嬉しすぎて死んじゃうよ・・・! 世の中に、私とユイだけの思い出があるなんて・・・!」


アリスは僕の胸に飛び込んできて、そのまま頬に口づけをしてくれた。

ほんのりと、夕日のように柔らかい・・・


「もう、このままで・・・ユイとずっと二人っきりでいたい・・・! そうだわ、私の家に遊びにこない・・・? ウチで遊ぼうよ、ユイ!」


僕は頷いていた。

その先にある、地獄も知らぬままで・・・


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