転生したハユリ
イルネル火山の噴火。
「帝国の民のために能力を使って頂いていると聞いております。まずはその御礼を」
『いえいえ。火山だ、竜巻だ、というのは私の好物なので好き勝手に取ってるだけです。ただ、今回のイルネル火山のエネルギーは相当なものです。吸い取る先から噴き出てしまう。今はエネルギーを吸い取るのに全力を尽くしていますが、眠ることも出来なくてですね』
聖女ミルティアとの話合い。
「とにかく感謝しております。それで、我々としては民は避難させます。何日ぐらい持ちそうですか?」
『分かりません。というのが率直な話。火山というのは、様々な要因によって噴火します。しかし、感覚で言うと10日ぐらいですかね』
10日か。
「分かりました。すぐに手を打ちます」
『公開されるそうですね。混乱がないことを祈っていますよ』
大臣達を集めての相談。
「国庫を開けるにしてもなお足りぬ」
「ええ。陛下。その通りです。そもそも帝国本国は小国ですから」
帝国の歪みがここにも出る。
帝国は巨大なのに、それの中心の帝国本国は、大陸の端にある小国なのだ。
この歪みのまま約300年続いたのはなにかの奇跡だ。
「……アラニアももちろん出せるが」
「各公国にもお願いしましょう。基本的には全ての国に関わる話です。中央西部の肥沃帯が全滅すれば、すべての公国が困ります」
皇帝としての政務。
とにかくこの苦境をどうにかしないといけない。
「民の避難を急がせろ。王族や貴族もだ」
「待遇や領土の問題があります」
内官の意見に
「帝国本国が責任をもって元に戻すと言え」
責任か。実際はとりようもない国力しかない。
この状況で大規模災害などあまりにも……
「?」
まて。冷静になれ。
『神』は今回特別な夢を見せた。
ハユリ、リメイ、ネルフラ、アンリが憑依すると宣言する夢。
この時に火山の噴火の問題。
無関係か?
いや、違うだろう。『神』の介入は謎が多いが、このタイミングで無関係はない。
ハユリは『神女』を務めたほどの女性だし、他の3人も神教の幹部を務めていた。
つまり
「……まさか、聖女に対抗する存在を送り込むのか?」
このタイミングで?
帝国が崩壊しようとしている臨界点にあると言ってもいいこの状況。
火山がそのまま噴火すれば、間違いなく帝国はこのままではいられなくなる。
それを防ぐ……
どうやって?
聖女のような力を振るうのか? だが、そんな存在は『神教』においては赦されない存在な筈。教義に背くしな。
となれば……?
「……エウロバ。私は直接イルネル火山の影響範囲のある国に行きます。と言っても転移石でですが。護衛をお願いしていいですか?」
「無論だ。精鋭をつけよう」
勘が正しければ彼女達はそのあたりにいるはず。
見つけてどうなるかは分からないが
「このまま執務室にいてもなにも進まぬ。直接向こうの王族達と話をする」
肥沃な土地。
だからこそなのか、住民の避難はかなり難航を極めていた。
「噴火が事実だとして! 我々はこの土地に育てられたのです! 土地に殉じます!」
「そうです! ここは生まれ故郷! 大地と共に生き! 大地と共に死にます!」
貴族達ですらこうなのだ。
土地愛が、そして信仰心が強い。
普通の貴族は
「取りあえず逃げた先の待遇はどうなってるんですか?」
ぐらいは聞いてくる。
彼らはそれもなく
「この土地で死ぬ」と言い張っている。
貴族でこれなら、住民はもっとそうだろう。
「想定以上にキツそうだな」
「そうだな。まだ『噴火なんか嘘だ』と言われた方がマシだったわ。死ぬのを覚悟の人間をどうやって連れ出すんだ」
エウロバも溜め息をつく。
死者が大勢出るのはまずい。
噴火によって土地が壊滅的打撃を受けたとしても、愛情をもって故郷を再開発しようとする人々がいるのといないのでは、進みが全く違う。
「このような貴族は貴重です。本当に生かしたい」
「……そうだな。元々このリレウム公国は豊かなのに汚職もすくない素晴らしい国と評判だったが。こういう貴族が支えていたからだろうな」
ではどうするか?
噴火を止めるしかない。
どうやって?
「聖女でダメなのを、奇跡みたいな力に頼らない我々がどうやって止めるのだ……」
やはり避難しかない。
しかし10日で避難の説得が済むかどうか……
『エウロバさーん』
突然頭上から声が響く。
この声は
「ミルティアか。陛下にも聞こえてるみたいただぞ」
『わざとでーす。お二人に用があって。また凄いエネルギーが四つも降りて来たんですけど、心当たりあります? って』
四つ。
「ええ。あります」
それに驚きの顔を見せるエウロバ。
『そうですか。この土地にも一人降りました。全員バラバラですね。女性に取り憑いたというのは共通していますが』
「そうですか。会いに行きます。恐らくここに降りたのはハユリでしょう」
ハユリ。
その名前にエウロバが絶叫する。
「また、リグルドの年代のやつを呼び出したのか!!!」
『元神女ですねー。神教の大物を次から次へと。もうなりふり構ってらんないんじゃないでしょーかー?』
なりふり構ってられないのか。こういう介入の仕方しか出来ないのかは分からない。
しかしハユリか。役職の重圧に負け、精神的にボロボロになり、心労で亡くなった女性。
彼女にまた新しい役目を与えたところで不幸になるだけ……
「あーーー!!!!! リグルドさまぁぁ!!!♪♪♪」
目の前から、すごい巨乳が迫ってくる。
見た目は全くハユリに似ていない。
確かに豊満な身体はしていたが、こんなに胸が弾むような感じではなかった。
「止まれ。近付くな」
すぐに護衛が剣を構えるが。
「構わぬ。知り合いだ」
「エリス、警戒しろ。本当にその『ハユリ』というものかも分からんのだぞ」
そうかもしれない。
だが確信はある。
「ハユリ。久しぶりですね。ですが騒々しすぎますよ」
「えへへぇぇぇっっ!!!♪♪♪ リグルドさまぁぁぁっっー!!!♪♪♪ 『天』でずっとお待ちしていたんですよー!!!」
ニコニコしながら抱きつく。
豊満な胸を押し付けてきてドキドキするが
「今は再会を喜ぶ前に噴火をなんとかしないといけない状況なのです。なにか聞いていますか?」
それにキョトンと首を傾げる。
ああ、やはりなにも聞いてないか。
まあそんなことが可能なら、私に直接伝えるなどやり方はあるだろうと思っていたが
「噴火ですか? あの山を吹き飛ばせばいいんですね!!!」
なにを言ってるんだ? という顔をするエウロバ。
ハユリは天然だったから、こういう言動は不思議ではないのだが。
「お任せください! きっと『天』で修行した力でなんでも出来るはずです!!!」
『天』で修行?
というか、ハユリは『天』での記憶を保持しているのか?
そう思っていると
「ふーーーーれぃーーーーゃあああああ!!!」
脱力しそうな掛け声と共に
『ズガァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!』
火山が噴火を始めた。