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微睡みの中で

『わたしはてんさいだーーー!!!』

 雲の上で楽しそうに叫ぶリャナンシー。


「うるさいです」

「ひまです」

「急に現れて騒がないでください」

「リグルド様とセックスしたーい」

 四神女がリャナンシーを見ながら好き勝手な事を言う。


『そう! リグルドを選んだ私天才!!! あいつのおかげで500年も力が雪崩れ込んだ!!!』


 ニコニコしているリャナンシー。

「そう言えばリグルド様は?」

「セックスしたーい」

 ハユリとアンリの言葉に


『もう疲れたからお気に入りと二人で眠らせてくれって頼まれたから、そうしといた。あいつ本当に疲れてたんだなー』


 リャナンシーはウンウンと頷き

『別に世界征服でも良かったんだが』

「そんな野望ないですよ」

「あったらリグルド様時代に女食いまくってたでしょ」

 四神女達からの突っ込みも聞き流し


『まあ分かってて選んだからな』

「おにー」

「あくまー」


 罵詈雑言を聞きながら特に怒ることもなく


『そらそうだ。私は人間共が恐れる化け物、リャナンシー様だぞ』

 そう言って胸を張る。


 そして

『力は満ちた!!! いよいよ妖精神と決戦だ!!! お前らもついて来いよ!!! これで私は真の神だーーーー!!!』

 リャナンシーは楽しそうに叫び拳を振り上げた。


 =====================


 エールミケアは眠りに付こうとした瞬間、その大きなエネルギーに驚いて飛び起きた。


 それはエールミケアだけではなく、フェルラインとユレミツレ、カレンバレー、ソレイユ。


 龍族達が次々と起き警戒をする。


 そして

「静まりなさい。リグルド様が眠りについたのよ」

 廊下に響く涼やかな声。


『姫様!』

 龍族達の絶叫。


 龍姫も350年ぶりに起き上がっていた。


「350年。生き地獄だったと思うけど」

 龍姫の言葉に

「本人的には割とエンジョイしてたみたいです。ただクミルティアと離されるのが嫌だったみたいでして」


 龍姫はそのままクミルティアの眠りについている寝室に移動する。


 そこには

「……本当に好きだったんですねー」

 エールミケアの呆れた声。


 眠り続けるクミルティアと、そこに抱かれ幸せそうに眠る赤子がいた。


「目覚めさせないように。交代で番をしなさい。エールミケアはもう良いわよ。おやすみなさい」

「ありがとうございます。姫様」


「代わりは私がします。一番良く眠りましたから」

 龍族の初代リーダー、ヘイルカリが言い、それに龍姫も頷いた。


「他の皆はおやすみなさい。ヘイルカリ、眠くなったら他の者をあなたが選んで交代しなさい」

「はい。お任せください。良き眠りを」


 ヘイルカリはそのまま地上に転移した。



 リグルドが抜けた帝国と宗教は呆気なく崩壊した。


 戦乱が起こり、国が興亡し、また平和が訪れる。そして、その平和はすぐに壊される。


 それを繰り返す世界。

 その中で例外的に平和を維持した帝国の治世は憧れとして言い伝えられていた。


 その建物は500年経ってもなおも建っていた。

 栄光の帝国時代の歴史が残っているため、未だに観光地として賑わっている。


 そしてそこにいる受付の女性。


「はいはい。その展示はそっちでーす」

 赤子を抱えながら元気よく案内している。


 観光客は

「赤ちゃんあやしながらお仕事大変ですねー」

 その言葉に微笑み


「この子、甘えん坊なのです。ずーーーっと誰かに甘えたかったみたいなので」


 眠り続ける赤子。

 その女性は愛おしげに赤子の頭を撫でる。


「もう無理しなくていいんです。好きなだけ眠って、起きたくなったら起きてくださいね」


 案内をしている女性の後ろから突然の声。

「人が多いわね」

「姫様の御人徳ですわ」

 赤子を抱えた女性は驚いて振り向く。


 そこには龍姫とフェルラインが微笑んでいた。


「お目覚めですか?」

 それに龍姫は微笑み


「十分寝たわ。皆もそうでしょう?」

「ええ。姫様。もう十分です」

 にこやかに笑うフェルライン。


 それに戸惑う女性。


「クミルティア、500年経ち、聖女もリャナンシーも去った。もうこの世界に超常者はいない」

 フェルラインは不敵な笑顔を浮かべ


「姫様による、姫様の為の世界を作り上げるわよ」


 クミルティアは思わず赤子の顔を見る。

 だが、赤子は変わらず幸せそうに眠っている。


 その寝顔を確認し


「さあ。作り上げましょう。私達の世界を」

 龍姫は微笑み手を上げる。


 その途端に、百人近い女性達が一斉に現れる。


 施設にいた人々が驚き叫ぶが


「リグルド様、お約束どおり再会しましたわ。お眠りになりながら、この世界を見守られてください」


 龍姫は伝承を調べ尽くした。

 大妖精リャナンシーの目的はなにか。


 それは自分の親であり、恋人であった妖精神を倒すこと。


 だが龍姫は調べ物をするなかで、それは果たされないと考えていた。


 妖精はどんなに強力な生き物が産まれても、母であり親である妖精神には勝てない。


 だからリャナンシーも必ずや敗れる。


 その後の世界。聖女も限界はくる。

 リャナンシーがいなくなり、聖女もいなくなった頃に。


「私はね。いくらでも待てるの。ドラゴン狩りの時に骨身に染みたわ。待つことの重大さ。焦りは必ず死に繋がる」


 龍姫は生きていて老いを感じていた。

 精神の限界。

 だが、それは活動停止をすることによってある程度晴れることが分かった。


 また龍族達も同様。

 龍族達は生きていると闘争本能が強くなり、破壊衝動が収まらなくなる。


 だが、活動停止をするとそれが和らいでいく。


 龍姫は早い段階で眠りについたソレイユやヘイルカリと相談をしながら、目覚める年を決めた。


 それが500年。


「野望なんて無いけれど」

 特になにがしたいなどない。

 ただ、この龍姫を称える建物を作って眠りについたように名誉欲はあった。


 元々は貧民の龍姫。

 産まれてすぐに殺され食糧にされそうになった少女。


 そこから生き延び、人をも超えた。


「崇める人がいなくなったら悲しいじゃない」

 超常者が去って、世界の混乱は止まりようがない。


 民は平和を望んでいる。

 しかし為政者は欲望のままに戦いを止めない。


 調停者がいない世界はただ混沌として、このままでは滅びも見えてきていた。


 だから

「我々が支配してあげましょう。平和を与えましょう。だから崇めなさい」


 龍姫の不敵な笑み。


 そして龍姫の手の動きに合わせ龍族達が一斉に動きだした。



 =====================

「酷い目にあったーーーー!!!」

「あのバカ神!!! 神失格です!!!」

「反省しろ!!! ばかーーー!!!」

「セックスさせろー!!!!」

 四神女。


 リャナンシーは妖精神と戦いを挑み、150年に渡る闘争の末敗れ去った。

 四神女もリャナンシー側について戦ったが、ボロボロにされ逃げてきたのだ。


 戦いの舞台は他の世界。

 今は元の世界にまで逃げ込んだ。


「神様死んじゃったけどどーします?」

「世界どーなっちゃうの?」


 雲の上から地上を見下ろす四神女。

 するとハユリが絶句した。


 震える指で示す像。

 天からも見える巨大な像。


 それは龍姫をモチーフにした像だった。


「龍姫に世界支配されてんじゃん!!!!」

 ネルフラの絶叫。


 世界各地に存在する龍姫の像。


「……リグルド様は?」

 リグルドが延々と転生を繰り返しているのは四神女も知っている。


 四神女は力を使い、リグルドを探すとすぐに見つかった。


 だが

「……寝てる」

「なに150歳の赤ちゃんって……」


 クミルティアに抱かれ幸せそうに眠っているリグルド。


 150年一度も目覚めず、ただ母に抱きついて眠るだけ。


 それを望んだリグルドは幸せそうに寝息をたてていた。


「幸せそうではあるけれどー」

「赤ちゃんとセックスってできるかなー?」


 適当な事を喋る四神女に


『久しぶりね、みなさん』

 龍姫の声が天に響く。


「神様死んじゃったよー」

 リメイの言葉に


『でしょうね。親殺しは出来ないみたいよ』

 龍姫の当たり前だという態度。


「世界支配してるみたいだけど、なんで?」

 ネルフラの言葉に


『神様も聖女もいなくなって、人類全滅しそうだったからよ』


「あの像はやりすぎでしょ」

 ハユリの突っ込みに龍姫は頷き


『ちょっと恥ずかしいわね』


 アンリは全く話を合わせず

「リグルド様とセックスさせろー!」

 龍姫は首を振り


『それだけは無理ね。あの人は500年の闘争のご褒美として、クミルティアの側で眠り続けることを選んだの。誰にも邪魔させないわ。約束したリャナンシーはいなくなったけれど、代わりに私が叶えてあげましょう』


「クミルティアとやらも大変ね」

 リメイの突っ込みに


「そこまで愛されたのも悪くない感じらしいわよ。喜んでやってるから」



 =====================


 世界の喧騒。

 嘆き、喜び、怒り、笑い。


 それらが通り過ぎてゆく。

 なにもしなくていい。目の前の柔らかさに包まれていれば、それでいい。


 これが求めていたもの。

 まどろみの中でなにもしない。

 目覚めなくていい。


 移ろいゆく景色の中で、ただ目の前の柔らかさに溺れていく。


『リグルドさまー』

 懐かしい声がする。

 だが返事をすることもない。


 それを望んだから。


 心地の良い気怠い世界で、いつまでも揺られていた。

こちらをもって、『天の子』は完結となります。

また『龍姫と聖女』シリーズの本編もここで終了となります。

これ以上先の時系列を語ることはありません。


ただ、外伝作品として、この世界を舞台とした作品は発表予定です。


四年以上に渡るシリーズにお付き合い頂き本当にありがとうございました!

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