龍姫の眠り
龍姫が眠りを宣言してから六年ぐらいだろうか。
広大な敷地に、大きすぎる建物。
花畑に囲まれた博物館のようなもの。
その下には龍姫と龍族達が眠りにつく寝室がある。
一度皇帝が招かれたが、既に眠りについた龍族が運ばれて以降は誰も訪れていない。
これからは観光地としてこの建物を公開し、街の人々に親しんでもらおう。
そしてその下で眠りにつこうという形。
すでに建物は完成し人が賑わっている。
その最上階。
「龍姫様。お連れしました」
クミルティアが挨拶する。
今は周りに誰もいない。
クミルティアも挨拶をしたらすぐにいなくなった。
「アリムレイバ様。お別れです」
クミルティアは龍姫に伝えたと言っていたが、一言も「リグルド」とは言われていない。
「はい、お休みなさい」
それに微笑み
「疲れたから眠るだけです。私の活動能力はまだあります。そのうち目覚めるかもしれません。その時はまたご挨拶でも出来れば幸いですわ。それではご機嫌よう。よき信仰を」
龍姫は微笑んだ。
龍姫が眠りについたと発表されると同時に、帝国と聖女の国々に和平条約が結ばれた。
そしてエウロバは公国制度の完全廃止を断行し、遂に長年の悲願を達成した。
そして、セルデァへ後継を託し引退をした。
帝国は結局その間も大きな混乱は起こらず穏健な状態で政権以降に成功した。
聖女ミルティアも転生し新しい身体になった。
そしてそれを選んだ身体は、アルバラ。
タチアナの姪にて、何度もタチアナを殺そうとした少女。
最終的にタチアナとの話合いが決裂し、止めようがなくなったため、ミルティアはこの決断をした。
最初は怒り狂ったタチアナだが、アルバラの記憶を保持したミルティアとの話合いで納得はしたらしい。
聖女ミルティアがしつこく「アルバラをなんとかしろ」とタチアナに警告していたのは
「最悪、次の転生体をアルバラにせざるを得ない」と考え、そうならないように動いていたらしい。
オーディルビスの跡継ぎは、皇帝とラウレスの娘を引き取り、その娘ということにした。
世界各国は問題を抱えながらも安定しつつあった。
アリムレイバは淡々と祈りを続け、名誉職の皇帝の地位を守っていた。
「へいかー。ひまですねー」
クミルティア。
エウロバの強い意思で
「15の成人までに女を抱かせるな!」となり、側室は15歳からとなった。
だが、それはあくまで建前で
「オナニーの代わりに女を使う程度ならいいが。要は依存になるなという話だ」
となり、クミルティアと何回か肌を重ねている。
「暇なぐらいが一番いいんです」
世は安定した。
今は不安要素はあまりなく、世界は活発な交易に喜んでいる。
信仰も問題ない。
一から作り直したため、まだ腐敗などは起こっていない。
だがどんな組織も腐るのは必然。
その対策は考えないといけない。
「いつまでこの平和が続きますかねー」
いつまでか。
「分かりません。分かりませんが、いつかは乱れます。それに備えないといけませんね」
何故私を選んだのか。
何故、転生をまたさせたのか?
その答えはない。
ただやるべきことをやるしかない。
しかしだ。
「……この身体も不幸にしそうだな」
前の身体のエリスは早死にした。
見守るいたクミルティアが言うには
「なんかずーーーっと楽しそうでしたよ。死ぬって自覚も無さそうでしたし」
楽しそうだった。
それならばいいが。
側室達も幸せそうに暮らしている。
それはまだ救われること。
だが、自分自身の醜さはどうにもしがたい。
クミルティアは不思議そうにこちらを見て
「また疲れた顔してますねー」
それに少し微笑む
「そうですね。少しは少年らしい顔をしますか」
=====================
「たいくつだー」
龍族のリーダーをしていたエールミケア。
同僚は皆眠りについた。
エールミケアは墓守として、寝床の警備をしていたのだが、盗掘などされた事はない。
まず地下に入る出入り口などない。
入る為には特定の陣で特定の儀式をしないとはいれない。
また地面から掘るのも不可能。
なにしろ地下には巨大な金属の塊が厚く入っていて人力や魔法を使っても突破は出来ない。
そして地上では博物館・美術館があり、人が常に賑わっている。
盗掘などしようとすれば目立って仕方ない。
エールミケアは取りあえず博物館で受付などを気紛れにやってはいたが、そんなにやることもない。
それでも淡々とこなしていたが既に龍姫が眠りについてから50年経つ。
既に観光地として賑わっていたこの街は、更に発展していた。
エールミケアは食べることが大好きなので、おいしいものを食べている間は眠る気もしない。
この発展した街では美味しいものを食べるのには困らなかった。
そんなエールミケアの所に後輩のクミルティアが訪れた。
「おー、げんきー?」
あいさつしながら欠伸をするエールミケア。
クミルティアはそれを呆れた顔をする。
「ねむそーですねー」
「ひまー」
グダグダとするエールミケアに
「また転生しましたよー。というご報告」
それに少し肩が震えるエールミケア。
「……いつまで転生させるつもりなのよ。リグルド様」
「さあ? でもご本人はそこまで負担では無さそうですよ。物言いも殆ど変わっていませんし。なにしろリグルド様が亡くなった時からして、既に精神の成熟は終わってましたからねー」
「転生続けた初代聖女は100年近くで限界を迎えたそうだけど」
「まあ、リグルド様は割と無理しないですし。今は本当に祈って、飯くって、セックスして」
エールミケアは買いだめしていたパンを頬張りながら
「まあ、辛くなったらたまには旅にでも出ればいいのよ。ずっとあそこにいるのもつらいっしょ」
「そーですねー。勧めてみますわ」
去り際のクミルティアに
「もう眠いから、世界の美味しいものを食べ尽くしたら眠るかもよー」
エールミケアの言葉にクミルティアは立ち止まり
「食べ尽くす頃には何年経っているんですか」
笑っていた。




