更なる転生
転生して驚いた事がある。
まず、そこに自分がいたことだ。
冷たい目で見下ろす父親。
まだ11か12ぐらいの年齢のはずの皇帝。
そう過去に転生しているのだ。
その記憶もしっかり保持している。
(……なんだ、これは)
普通転生と言ったら未来に転生するものではないのか。
また、そこで起こっていることも記憶通りだった。
そして母親はサザリィ。
自分の名はアリムレイバ。
後継指名した男に転生した。
クミルティアも当たり前のように過ごしている。
それに対してクミルティアに自分がリグルドの記憶を保持している、と伝えようとしたが、まだ声帯が安定しておらず声がでない。
ようやく喋れるようになった頃、皇帝はエリスの意識が優勢になっていた。
普段は冷静沈着な男が、突然子供のように騒いだりする。
それに母親であるサザリィも驚いたりしていたのだが、クミルティアからの
「多忙すぎて心の病になっているのです。そのまま受け入れてあげてください」
との話で、子供のように振る舞うエリスには、姉のように接していた。
そしてようやくクミルティアに相談するが、かなり混乱していた。
それはそうだろう。流石に時系列が重複した転生など発想からしてない。
そして皇帝本人に伝えようとしたが、それが出来なかった。
理由なのだが、確かにこの頃からエリスの意識が長くなり記憶が飛んでいたこと。
アリムレイバとは殆ど会話した記憶がない。
それでも後継者指名したのは、単に正妻の子であることと、クミルティアから
「アリムレイバは聡明です」と聞いていたから。
ちゃんと確認しなかった不自然さも気付かなかった。それどころではなかったしな。
記憶がそうなのだから、そういう機会も無いのだろう。
実際に発声出来てからはエリスの意識でうろついている皇帝しか見たことがない。
(……想定よりマトモには見えるんだな)
もっと幼子のように暴れているのか? と心配だったのだが、実際はニコニコしながら周りに甘えるように抱きついたりしている感じ。
ただ身体は既に女の味を知っており、そのまま胸をもみし抱いたり、股間をすりつけたりする。
街中でやれば悲鳴をあげられ、衛兵を呼ばれそうな行為だが、ここは後宮。
皇帝がその女に興奮して擦りついたりするのはむしろ名誉なこと。
女達も喜んでされるがままになっていた。
問題だったのは母であるサザリィとエリスのセックス。
サザリィも当たり前のように皇帝とセックスする。
そしてその人格はエリスなのだ。
女を取られた感覚もあれば、まあ身体は一緒だしな。という感覚もあるし、そして母親のセックスを間近で見せられても。という感じになる。
本来は子を遠ざけてからセックスをするのだが、エリスはそういう配慮が出来ずに始めてしまうため、最初は見てしまうのだ。
そんな日常だったが、クミルティアに
「15で皇帝は死ぬ」と伝えたい。
言われて見れば、皇帝が若死にするというのにクミルティアは特に無理に止めようともしていなかったし、当然のような対応をしていた。
それは知っていたのだ。
アリムレイバにリグルドが転生している。そこから聞いていたから慌てなかった。
そう考えると色々繋がってくる。
そして、死ぬときに考えたこと。
「結局神の言っていたことはなんだったのか?」
の答えも見えてきた。
神の眷族と呼んでいた。
それは死後『天』に招かれて幸せに暮らす事ではない。
何度も身体を入れ替え生き続け、この信仰を守れとしたのだ。
だとすれば、納得することも多い。
なぜクミルティアの側室入りがトリガーとなったのか。
龍族は不老。
だとすれば、リグルドの転生ごとにすぐにフォローできる。
「……そういうのはちゃんと伝えてくれ」
愚痴を言っても仕方はないのだが。
結局皇帝が亡くなるまで会話する機会は無かった。
皇帝はかなりやつれていたと自分では思っていたが、外観は大して変わっていない。
だが、寝たきりになったあと亡くなるまでは早かった。
側室達は嘆き悲しんだが、クミルティアは
「アリムレイバ様を中心にまとまりましょう。今側室の方は退去をご希望されない限りはここにいてください」
として、引き続き後宮にいることを認めた。
なにしろ子沢山。
普通側室は子育てはそこまで関知ないが、皇帝が亡くなった事によりやることがなくなり積極的に子育てをするようになった。
リグルドの意識があるというのはクミルティア以外には伝えず、クミルティアも
「龍姫様にお伝えしましたが、他には一切伝えていません。姫様はもうお眠りになられるので、関わらないとの事でした」
つまりクミルティア以外は誰も知らない。
それはエウロバもそうだった。
もうこれ以上彼女を苦しめるのは無しだろうと、リグルドの話はしていない。
聖女ミルティアも特に気付いていないようだ。
前会った時にも特段の反応はしていなかった。
エウロバはエリスが亡くなった事を嘆いており
「だから幼い頃に性をあたえすぎるのはダメだと言ったんだ!!! 止められ無かったのは大人の責任だぞ!!!」
と皇帝の一族には
「15までは一切女を抱かないこと」
と律令まで作った。
私の事自体は可愛がってくれ
「ふふふ、エリスの幼い頃そっくりだな。サザリィは優しいか? 不満があれば言うんだぞ?」
と甘やかしてくれる。
騙しているわけなのだが、まあこれ以上揉めても仕方ないし、リグルドの意識を前面に出す意味もない。
母であるサザリィは「皇帝に相応しいオシャレなお母さん」を目指しているようで、日々ファッションを追求している。
私に対しても優しく
「本当になにを着せてもセンス良く決まるわね!」と喜びながら着せ替え人形のように色んな服を着せてくる。
そんな日常の中
「陛下、姫様がいよいよお眠りになられます。最後にご挨拶をされてください」