奇跡の日
これでお前は神の眷属。
いや、まだ触れ合ってもないのですが。
一体なにがきっかけでそれを宣告されたのかから分からない。
「まだなんにもしてないですよー! かみさまー! なんか間違えてませんかーーー!」
でかい声でハユリが呼びかけるが返事はない。
「……そう言いたかっただけなのかもしれませんし」
なにしろ本当に気まぐれだし、なにか格好いいことを言ったらそれで満足してそうなのだ。
もう流石に語りかけることは無いだろうと思っていたのに。
しかし神の眷属?
「まあ深く考えるだけ無駄な気はしますので」
それよりもだ。
「……これ勝手に目覚めるのでしょうか?」
違和感。
というのも今までのはまだ夢という感じはしていたのだ。
ところが今は明らかに現実な気がする。
夢を見ているという感じがしない。
つまりだ。
「なんかここは神様の住処みたいです」
「私達の信仰が認められて眷属になったと理解しています」
「ここにいれば不老で楽しく過ごせるみたいです!」
なんだそりゃ。
神教の教えには確かに死後天に上り幸せに過ごすとはあったが、そうなるためには今生きている場で信仰を貫き通せとしていた。
まあ教義通りと言われればそれまでだが。
「そうですか。報われたというならばそれで良いのですが」
下は雲。
恐らくここの下が地上か。
「……リグルドさまー。帰るんですか?」
「ええ。私は地上で足掻きます」
4人が楽しそうに生きていけるならば心は安らぐ。
だがこの4人と神の元で楽しく暮らすのはまた違う。
「苦労して、危機に陥っても足掻いて、生き足掻いて。それを繰り返してきた人生ですから」
そんな生き方しか出来ない。
「ここから離れればお別れです。最後にセッ〇スしてから帰りましょう?」
アンリが笑顔で言ってくれる。
だが私は首を振り。
「戦場に送り込んで、迎えに行かなかった男ですよ。私は。最後はなにも与えてやれないのは一緒です」
ビジョンで四神女とセックスをしたりしていた。あれが現実か妄想かは分からない。
だがアンリとは既にしたのは間違いないと思う。
妄想と呼ぶべきだろうが、あれはなんだったのか。
恐らくは
「ここは姿を変えたり、建物を変えたりするのも自由です! コスプレエッチやりまくりですよ!」
アンリの言葉に納得がいく。
ここに連れて来られていたのか。
最初は『天』に集められて訓練をしていると言っていた。
恐らくここがそうなのだろう。
あのビジョンは四神女関連で出ていた。
四神女の本体というか、コアはずっとここにあり、なにかあるとここに戻ってきていたのだろう。
「……お別れです。私はなにも変わらない。皆を見捨て、当たり前のように生活をする」
帰りかたも分からないが、『神』にされたようにここから落ちれば戻れるような気はする。
そのまま4人から離れようとするが
「格好つけてんな! デブ! どうせ見捨てんなら! ヤリ捨てしてから帰れって言ってんだよ!!!」
アンリの絶叫。
それに思わず噴き出す。
デブか。そう言えば今の自分の姿がイマイチ認識出来ない。
リグルドの頃なのか、今のものなのか。
「それでよければ。やるだけやったら帰りますよ」
「そうそう。それでいいのです」
楽しそうに近づくアンリと、呆れ顔の3人。
「性欲強すぎ」
「……よく戦場で純潔守れてましたね」
ネルフラの突っ込みに思わず頷く。
「逆ですよ。私は死ぬかも知れない中、男達に囲まれて生活してました。そら性欲丸出しの男も多かったですけど、私はリグルド様としようと我慢してたんです。だから今それを発散したい! と元気いっぱいに」
そのままアンリは抱きついてきて
「うん! その顔でいいです!」
その顔。
言われた途端に身体が今の皇帝の姿に変わる。
「やっぱりイケメンがいいですねー♪ さあ! 飽きるまでしましょー!」
アンリがそのまま頬を舐めてくる。
だが、その瞬間。
『ズボッ』
「は?」
「え?」
下が抜けた。
雲のような地面が突然薄くなり、沈んでいく。
落下というほど早くはないが、そこから抜け出せるほどゆっくりでもない。
跳ぼうにしてもアンリが抱きついているのでそれも出来ない。
『リグルド様!?』
3人の叫び声を聞きながら、私とアンリは下に落ちていった。
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『奇跡の日』
後にそう祝われるようになるその日。
空高くから大きな光が舞い降りてきた。
その前日から皇帝が突然行方不明になり、城や国が大騒ぎになって探していたときに、それが起こった。
皇帝を抱え地上に舞い降りた輝く光。
その光は皇帝を地面に下ろすと、なにかまとわりついたりしていたが、そのまま離れ天に帰っていった。
皇帝が間違い無く『神』から祝福されている証拠として
『神の声』と同じく、信仰の拠り所となった。
一方で皇帝はその頃から公務に出ることが無くなった。
祈りに全てを捧げるという名目で、政治から離れる事は公表されていたが、他の儀式も基本的には出てこない。
また病気が再発したのでは?
と囁かれてはいたが、相変わらず子宝には恵まれており特に大きな問題にはなっていなかった。
クミルティアは皇帝の側室として後宮に来たのだが、皇帝からの強い意思により、後宮を取りまとめる主として任命され様々動いていた。
そのクミルティアはダルそうに書類を片付けながら
「リグルド様ですかー? エリスくんですかー?」
眠っていて、起きようとしている皇帝に呼びかける。
すると
「……おねーちゃん♡」
皇帝が嬉しそうに微笑む。
「ああ、エリスくんですね。はい、おはようございます」
あの光以降、皇帝の人格分裂が深刻になった。
リグルドの記憶を失い、エリスとして行動する時間が増えたのだ。
クミルティアは速やかに皇帝に実情を報告し、皇帝は混乱が無いように基本的には公務を全て取りやめる事にした。
リグルドの意識はもう半分もない。
少しずつ消え去ろうとしている。
「……もう限界なのでしょうね」
リグルドはめったに見せない弱気な顔でクミルティアに言っていた。
それでもリグルドは意識のある間は残りの実務や、女を抱いたりをしていたが、身体が慣れてきたのか、もう性行為ではエリスの意識が遠ざかるという事も無くなった。
「えっちしたーい」
「はいはい。本当にタイプは違うのに、性欲だけは一緒ですね。今側室の方に呼びかけますから。誰がいいですか?」
「今日はサザリィがいい!」
「はいはい。いやー、女を代わる代わる呼び出してセッ〇ス。過去の皇帝ならともかく、今の皇帝は男のロマンですねー」
そう言いながらクミルティアは哀れな者を見るような顔をしていた。
(……まだ実際は11か12の少年だろう。いくらなんでも早くにセックスをやり過ぎている。身体が持つわけがない。リグルド様の意識が消えかかった理由も、体力的な問題もあるんじゃないのか……?)
それでもリグルドとエリスは女を求める。
もはや依存症のようにしか見えない。
それでもクミルティアは特に止めない。
なにしろ今の皇帝にとってやることと言ったら子を作ることなのだ。
それを止める理由などない。
しかし
「死んじゃうことはないとは思うけど。まあ長生きは出来なさそうだなー」




