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それができるなら最初からやれ

「それが出来るなら最初からやれよ!!!」

 寝起きの第一声。


 あれは夢。

 そうは思うが、それと同時に実際に信徒たちに送り届けられた。そうも思う。

 宮殿が騒がしい。


 そして「陛下!!! 様々なところから遠距離会話の申し出が!!!」

 慌てて飛び込んでくるクミルティアに


「龍姫、聖女、エウロバの順番ですね。後は身分順に対応しましょう」



 龍姫との会話はすぐだった。

『あれが出来るならなんで最初にやらなかったんでしょうか?』

 龍姫の問いかけにうんうんと頷く。


 神の意思は分からない。探るべきではない。

 なのだが、これは流石に意味が分からないし聞きたい。


「私も昨日突然聞きまして。『天』に招かれて目の前で叫ばれました」

『気まぐれ、で片づけても良いのですが、なんかしらの意味はあるのでしょうか』


 その問いかけに

「叫ばれる前に『お前の準備が整ったから』と言われました。クミルティアを名指しであげ『守り手として申し分ない』とも。ちょうど教義も出来上がったところでしたので、それを待っていたのかもしれません。もっともそんな話は聞いていませんでしたが」


『教義は自分で考えろ』とも言ってはいたな。

 いや、そもそも『二度とお前に語りかけることはない』とか言ってなかったか?


「……とは言え、まあ適当ではあるのでしょう。なにしろ以前『二度とお前に語りかけることはない』って言ってましたし。それなのに思いっきり語りかけてきましたからね」


 思慮深さもあるのだろうが、それ以上に気紛れな気がする。

 あのときはそう思ってはいたが、よく考えたらまだやること残ってたわ。みたいな。


『……あれが最後の介入でしょうか?』

 龍姫の問いかけに苦笑いをし

「神のみが知る、ではないでしょうか?」



 次に聖女

『初代も適当でしたが、リャナンシーは適当さが半端ないですね』

「そうですね」


 やることなすことが適当に見える。

 だが

「超常者から見れば、矛盾でも適当でも無いのでしょう。そう思います」


『そうかもしれませんねー。私は自覚が薄いのかも。大局的に見て筋が通ればなんでもいいと思っているのかもしれません』

 そう思う。思うが


「もう語りかけないと言いながら、当たり前のように語りかけてくるのは、中々受け止められない部分はありますが」

『あー。初代もそうだったんですよ。その場でカッコ良く決め台詞言って満足しちゃうんでしょうねー』


 迷惑すぎる。


 だが、実質これで確かに事はなる。

「このあとエウロバと話し合います。本格的に政権移譲と、教団整備をしますから」



 エウロバとは「あれはなんだ」という話にはならず実務的な話に終始した。


 もう皇帝が名誉職というのは決まりにはなっていたが、よりそれを確定させる内容。


 その代わり帝国は皇帝の祈りにより支えられる集団とした。


 宗教の権限は全て皇帝率いる帝国本国に集約する。

 帝国はそれを支える。


 帝国と神教の関係と殆ど変わらない。

 要は皇帝が神教の立場にすり替わったというだけ。


 神教に関してはトップの神皇は辞任し組織も解体という事になった。


 神皇は元々そのつもりだったから問題はない。

 だが各地にいる神教の幹部達はこのままだと路頭に迷うだけだ。


 とは言え全く同じように受け入れたら意味がない。

 組織はあくまでも解体。

 そこからの採用は慎重に行うという事になった。


 暫くは新教団の整備と教義の展開に忙しくなる。

 そのため政治に関しては完全に離れる。



 全信徒が聞いたらしいあのメッセージ。

 そのため混乱は殆ど起こらず、私が新しく作った教義と教団への乗り換えはスムーズに進んだ。


 そして、神の演説から僅か一年で信仰の乗り換えと帝国の体制変更は一応の区切りを迎えた。


 民衆から見ればやることは殆ど変わらない。

 崇める対象は変わらないのだ。


 神教の幹部が腐り果てているのも皆が知っていた。その改革も為されるということで歓迎もされている。


 この一年はひたすらその体制作りに没頭していた。


 そんな中龍姫から

「私の時代は終わりました。眠りにつこうと思います」

 という宣言があり、その墓とも言えるような巨大な建造物の発表がなされた。



「墓荒らしでもされたいんですか???」

 真っ先に私とエウロバと聖女ミルティアが招かれ、建築風景を見学させてもらっているのだが、ミルティアの第一声がこれ。


 それも分かる。

 既に完成している一階部分には龍姫を称えるモニュメントがあり、全ての龍族のプレートがある。そこには宝石などが散りばめられているのだ。

 モニュメントもプレートも希少な素材で出来ている。


「一階部分含めた地上部は一般の方も入れるようにしました。姫様含め、皆は地下で眠ります。そこは足を踏み入れられませんから」

 案内役のフェルライン。


 建築風景というが、地上部分は殆ど出来上がっている。

 宮殿のような見た目で、中身は博物館のようなもの。


 地上部分は三階まであり、皆で談笑するためのスペースや食事をする店まである。


「自分達の寝床の上で騒がれていいのか?」

 エウロバは不思議そうに言うが


「どこで眠ってもそういうのは避けられません。であれば人々に龍姫様の偉大さを見ていただいた方が価値的でしょう。それにこの街は元々龍姫様がここにいたから出来上がった街なのです。龍姫様が眠りについても、彼等が困らないようにという配慮です」


 観光名所にするということか。

 建物の周りは大きな花畑。

 これだけでも名所になりそうだ。


「しかし随分デカい建物だな? 地下は一階か?」

 エウロバの問いかけに、フェルラインは微笑み

「特別にご案内致します。お見せしたかったのは地上部ではなく地下ですので」



 フェルラインに連れられて地下に行く。

 直接入口などない。転移石でわざわざ移動したのだ。


「地上部分から地下への通路などありませんので」

「掘らないとたどり着かないのか?」

「鉄の塊が分厚く入っていますから基本的には無理ですね」

 徹底されていた。


 そしてその地下空間。

「……それにしてもバカすぎでしょ」

 ミルティアの呻き声もよく分かる。


 通路なのに宝石が散りばめられ、魔法装置により花の匂いが充満している。

 無骨な作りになっておらず宮殿のような煌びやかさがありとても寝床とは思えない。


「龍姫は成金みたいなところがあるって初代聖女言ってましたがそんな感じですねー。単に寝るだけの場所でやりすぎですよ」

 呆れ顔のミルティア。


 成金。まあそういうところは以前から少し思っていたが、ただ下品な意味ではない。

 金を湯水のように使い、金に執着しない。その派手な使い方がそう見えるだけだ。


「姫様は貧民から這い上がられた事を誇りに思われております。そのような物言いも特に問題にはしません。まあ私から言わせれば『このセンスもわかんねーとか感性が貧しいねー』ぐらいには思いますが」


 フェルラインは特に表情を変えずに受け流す。

「ここが代表的な寝室です」

 そう言って、豪華な扉を開くとそこには自動で流れる音楽と、濃密な蜜の匂い。そして


「……ばかか」

 エウロバの呻き声。

 なにしろ床一面に宝石が散りばめてあるのだ。

 踏まないと奥に入れない。


「盗賊に入られたいのか? とか言ってましたね? 入れませんよ。皆が安心して眠れるように最高の警備を考えていますから。ですから中に宝石があろうが関係ありません。確実に入れません」


 フェルラインは誇らしげに言う。

 彼女がここまで言うならばそうなのだろう。


「まだまだ完成まで時間はかかりますが、明日から既に眠りについている皆を移動させます。つまり明日からは龍族以外は一切入れません。そのためにお見せしました」


 そしてフェルラインは

「エウロバ。あなたをお呼びした理由です。もう話すことはないでしょうから」

 フェルラインの後ろ。


 そこには妖艶な顔をした女性が立っていた。

 彼女の事はよく知っている。

 リグルドが生きていたときにいた龍族。


「……おばあさま」

 エウロバの祖母。

 アラニア王国を滅ぼし、帝国に編入させた張本人。


 既に何十年も眠り続けていたソレイユが立っていた。

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