エウロバとタチアナの殴り合い
「オーディルビスの跡継ぎがアルバラで、アラニアの跡継ぎがセルデァ? なんでみんなマトモに物事考えてくれないんですかねー???」
聖女ミルティアは憂鬱そうに紙を見ていた。
既にタチアナもエウロバも結婚適齢期を過ぎている。
この混乱期に後継者がいないのは問題だと以前から二人に話をしていたのだが、その返答がこれ。
オーディルビスは問題外。
アルバラは王の教育など一切していないし、本人に継ぐ気もない。やれるとしてもその子供を引き取って育てるかぐらい。
アラニアも実質的な合併である。しかも公国廃止とか言っている状況でこれは無い。
当然二人ともそんな事は分かっている。
分かっていてこれ。
「……聖女様、流石にそれは無いと信じたいのですが……」
聖女の家臣が遠慮気味に言うが
「私も信じたいですねー。そこまで馬鹿じゃねーと。ただ愛情は人を曇らせますからね。どんな英雄も後継者指名で致命的な間違いを犯しています。残念ながらあの二人もそういうタイプなんでしょうね。二人とも兄の子というのが盛大な皮肉ですが。仲の良かったタチアナさんは分かりますけど、エウロバさんは兄貴殺そうとしてだろ、お前。みたいな突っ込みが止まりません」
ミルティアは目の前の果実を頬張り
「後継ついでに言いますが私の今の身体も長くありません。後継候補が条件を満たせば転生します」
『ざわっ!!!』
途端に城内がざわめく
「先代の転生を見ていましたが、30を越えると一気に治世に乱れが見られました。身体によって違いはあるんでしょうが、基本はその年齢で交代です。なので私は後継は考えていますから心配ないように。んで、あの二人ですが。こんなクソボケ回答してるんじゃ仕方ないですね。エウロバさんにはなにも言えませんが、タチアナさんには厳しくいきます。オーディルビス王国に乗り込みますよ。直接指導しますから」
立ち上がるミルティア。手には何故か鞭。
「……せ、聖女様? その手に持っているものは……?」
臣下が思わず突っ込むが
「あんな猛獣女、口で言っても聞くわけ無いでしょう。私が徹底的に指導して孕ませますので」
そう言った途端にミルティアは消え失せた。
臣下達は誰も口を開かない。
静かな城内に一言
「……オーディルビス、地獄になるんじゃないか?」
ミルティアは転移でタチアナを訪れた。最初は歓迎の笑顔を浮かべたタチアナだったが、ミルティアの手に持つ鞭を見て不敵な顔をする。
「ほー。なにそれ?」
「お前、なんだこの怪文書は?」
そう言ってタチアナから送られてきた手紙を見せる。
そこに書かれていたのは
『後継のご心配ですが、アルバラという候補もいるので』
「文字も読めなくなった? 果物の食べすぎで頭が溶けたんじゃない? 魚食べようよ魚」
「笑わすにしてももっと面白い手紙を書け。思わず鼻からミルク噴き出したわ」
「手紙読みながらミルク飲むなよ」
タチアナは冷静に突っ込みながら立ち上がり座っていた椅子を持ち上げる。
「このクソボケッッッ!!! 真面目に考えろどアホ!!!!!! アルバラが国を継げるわけねーだろ!!!! 速攻でお前をぶち殺して満足してから出奔するわ!!!」
ミルティアは鞭でタチアナを攻撃するが、タチアナは椅子で防護する。
「愛情を知らないからああなっただけだ!!! まだアルバラは若い!!! 教育すればなんとでもなるだろ!!!」
「どう考えても手遅れじゃあああああっっっ!!!!!」
王のタチアナと、聖女ミルティアが鞭と椅子を使って攻撃しあう。
臣下達も止めようともするが二人の形相にビビり手出しも出来ない。
「なにが子供だ!!! 実の子に拘るから戦乱が起こる!!! 有能なものを抜擢すればそれで済む話だ!!!」
「じゃあその有能な者とやらを連れてこいよ!!! 私が納得したら認めてやる!!! だがそんなのが市井にゴロゴロしてたらオーディルビスはこんな苦労してねーだろがな!!!」
言い終わったミルティアに思いっきり椅子を振り下ろすタチアナ。
ミルティアは片手でそれを受け止め
「おもしれぇぇぇ!!! このバカ!!! 殴り倒してその頭直してやる!!!」
振り下ろした椅子というのは相当な威力。
それを平然と片手で止めるミルティアと、それをされても動揺せずにそのままミルティアに殴りかかるタチアナ。
二人の壮絶などつきあいに流石に
「タチアナ様おやめください!!!」
「聖女様!!! 落ち着いてください!!!」
家臣達が二人に飛びかかってとめる。
だが、タチアナは自分達の主。
聖女ミルティアは信仰の対象。
強く触れることもマトモにできない。
そのためその間に入ってどうにか止めようとする。
「どけ!!! しにてぇのか!!!」
「邪魔だ!!! 消え失せろ!!!」
だが怒り狂ってる二人も流石に臣下を殴り倒す訳にもいかない。
どうにか引き離し落ち着かせるが
「……このバカとセックスする気のある勇者はいるか?」
ミルティアはタチアナを指差す。
王とセックスと言われても皆は戸惑うばかり。
その中で一人の臣下が
「聖女様のご心配はよくわかります。タチアナ様も不老不死ではありません。後継に関しては近日中に必ず指名させて頂きますから、ここはどうか」
「バライド!!! 勝手に抜かすな!!!」
バライドと呼ばれた臣下はタチアナに向き合い
「後継者問題は10年前からずっとあったものです。このままですと、後継は血筋で言えばバディレスもあり得ます」
バディレス。その言葉に顔を真っ赤にするタチアナ。
「あいつは下人の奴隷だぞ!!! 適当な名前を出すな!!!」
「ですが血筋で言えばアルバラの次はバディレスです。無論王家に逆らったバディレスは有り得ない。同じ理由でアルバラも無理です。となればどうするか? これを決めろと聖女様は仰っておるのです。ここでバディレスを担ぐ勢力も皆無とは言い難い。タチアナ様。ご決断をされてください」
「……ご、ご決断と言っても……」
タチアナは悩む。
「まあ、私の中で一つアイデアはあります」
ミルティアは髪をかきあげ
「ラウレスの子をもらい受ける事ですね」




