アラニアの跡継ぎ
「治世の評判はどうだ?」
エウロバは家臣に状況の確認をする。
今はアラニアの首都に移動して政治をしている。各国の状況は諜報から聞き出しているのだが
「はい。まず混乱は現状ありません。ただ未来への不安のようなものはあります。やはり公国制度廃止は暮らしにも直撃しますからね」
「そうか。ならばそこにいくまでは混乱無しでいけそうか?」
「そうですね。様子見している状況ですから。変に動く可能性は少ないかと」
「皇帝に対する動きは?」
「はい。各国は想定以上に喜んでいます。元々皇帝を帝国本国の一国から出し続けるというのがおかしかったのです。帝国本国の皇帝は名誉職として、実権は今の公王達から選ばれるというのは筋のある話です。また、帝国本国を大切にする派閥に関しても、皇帝を政治から引き離した途端に側室達が一気に妊娠したことを好意的に受け止めています。やはり跡継ぎ不足問題で常に混乱していましたからね」
「頭数だけいてもな。先代も兄弟は多かったんだぞ。どいつもこいつもやる気がなかったというだけで」
エウロバは溜め息をつき
「まーーーた、ミルティアから『結婚しないんですかーーー???』とか煽ってきてたな。実際跡継ぎ問題は他人事では全くないんだが。なにしろ私は子を作る気皆無だし」
「……マヤノリザは一応婚約者では……?」
臣下からの突っ込みに
「政略婚約以上でも以下でもない。事はなったし、もう破棄して良いんだがあいつは妹のボケカスクソビッチとべったりだからな。別にあいつも生涯独身だろ」
「……そ、その。実際問題。後継者がいないのは困ります……私が言えた立場ではないのは重々承知ですが……」
「いや、いるんだ。一応いるにはいる」
手を振るエウロバ。
それに口を開けて呆然とする家臣。
横で黙って仕事をしていた宰相が
「いるんですか!?」
エウロバは執務室におり、そんなに広い部屋ではない。
そこに突然の絶叫に
「急に口を開くな。そら用意はしている。ただあんまり口には出したくないんだ。私の子ではない。だが継げる血筋ではある。それだけ伝えれば十分だろ」
宰相と、エウロバに報告していた諜報は顔を見合わせ首を傾げる。
「……いえ、全然。心当たりが無いのですが。というか、少なくとも後継者は発表しておかないと混乱が……」
それにエウロバは爪をかみ
「兄貴の子だ。ジェイロウが探しだしたんだよ。なにしろ3兄弟、セックスはしまくっていたからな。戦場でもレイプしまくっていた。そのうち一人、明らかに兄貴の子とわかるやつがいる。そいつが継げばいい」
「そ、そいつって。いくら公国制度を無くすといっても、王族達は貴族の頂点ですぞ? そんな平民が突然後継と言われたところで困るだけです」
宰相の突っ込みに
「平民ではない」
「どこかの貴族という事ですか?」
それに頷き
「兄貴達は皆戦闘バカだったが唯一親父が評価していたのは三男ルークだった。最後名将ウコウに討たれて死んだが、私が見る中で唯一マトモに話が通じた兄貴だ。そしてこれが重要なのだが長男、次男と違い、ルークだけは親父と女の趣味が一緒だった。つまり人妻を孕ませるのが大好きだった。そして、何度かやらかして親父が怒って……いや、あれは褒めてたか。まあなんだ。問題にはなっていた。そのうちの一人が友好国ハリネス公国の貴族。ハリネス公国のパーティーに招かれた時に、なんか寝込みを襲ったらしくてな。その後何度もセックスしまくっていたらしい。それもなんかいつまでもいてな。1ヶ月ぐらいやりほうだい。んで、宰相のピクリーに怒られて追い出されたらしいんだが、向こうの人妻もガチボレしたらしく、そのまま黙って産んだと」
その話に顔をひきつらせる二人。
ピクリーが怒ってルークを追い出した。
その話自体は有名なのだ。
それは単に「宴会に招かれたら酒飲みまくっていつまでたっても帰らないから怒られた」と表向きはなっていた。
王族の宴会は1ヶ月単位でやることは珍しくない。だがそれは入れ替わり立ち替わりやるもので、一人がずっといるというのは想定されていない。
そしてその招いた貴族の名前も知っている。いや、貴族ではない。
「……ま、まさか?」
「……ハリネス公国の跡継ぎとして名前が上がっている、セルデァ様のことですか?」
ハリネス公国の王は当時長男が産まれず、このままでは後継者をどうするか? と困っていたところだった。
そんな夫婦に待望の長男が産まれた。
その1年後に盛大な祝いの席を設けたのだが、そこで招かれた三男ルークが、産後の王妃を口説いてセックスした。
普通はすぐに問題になる。
ところが、待望の長男が産まれたという事で王は子に夢中になり王妃を放置。
王妃は直接子育てなど殆どしない。
暇だったし、産後は一切セックスもしていなかったので、夫と違うタイプのルークに夢中になりセックスに溺れた。
周りにバレないように工作もした。元々王妃は侍女達から慕われており、皆も黙っていたのだ
ただ、宰相ピクリーだけはそれに気付き
「お前なにやってんのじゃ」と追い出した。
テディネスにも抗議したが
「素晴らしいビッチだな!!! 褒めてやるといいぞ!!!」
と会話にならずそのままになった。
そしてピクリーは王には一切伝えず、王妃はまた孕んだ。
ピクリーの中では「どうせ長男が継ぐから、産まれる子が誰の子だろうが問題にはなるまい」としていたのだが、その長男は育て方が悪かったのか、まったく王の資質に欠けていた。
一方で次男のセルデァは誰もが認める聡明な人物。
なのだが宰相ピクリーは「確かに資質で言えばセルデァ様ですが、乱世という訳でもなく長男で良いのでは……?」と曖昧な態度を崩していない。
つまり、少なくとも宰相ピクリーはその子は王の実子ではないと疑っている。
「まあそういう事だ。元々私のお婆様のソレイユはハリネス公国の貴族。そのソレイユがアラニア公国を支配した。本来は一つになるべき国だったんだよ。聡明なセルデァなら上手くやる。特に下準備もいるまい」
家臣二人は呆然としたまま声が出ない。
隣国の王の子。
それでも問題はいっぱいあるだろ。と突っ込もうとしていたが、突っ込むところが多すぎて声が出ない。
「タチアナも兄の子を後継に立てたがっているのだろう? その気持ちは分からんでもない。私も当事者だからな。セルデァの元気な報告を聞くと嬉しくなってくるよ。甥っ子というのも良いものだ」




