帝国と皇帝
先帝は、今の皇帝が産まれた直後に亡くなった。
その為、まだ乳のみ子の時に皇帝となった。
代わりに後見人としてアラニア公国のエウロバが政治を代わりに見る。
そうやって始まった今の皇帝の政治だが、3歳の時までは言葉もまともに出ずに、たどたどしい言葉を喋るに過ぎなかった。
自分の実母であるビルナは全く教育をせずに放置、父は皇帝が産まれた直後に亡くなっているため、親代わりに接したのが後見人のエウロバだった。
皇帝はそんなエウロバを『ママ、ママ』と慕いよく甘えていた。
この状況で一気に皇帝を乗っ取ろうとエウロバは動く。
反アラニア公国勢力に攻め込み帝国を一つにしようと動いた。
その時に突然皇帝は立ち上がり、「戦争をやめさせる」と喋りだした。
それ以降、人が変わったかのように次から次へと政策を打ち出し、帝国は安定に向かっていった。
アラニア公国に乗っ取られるという危機感から、少しずつ「この皇帝ならば帝国を立て直せる」そんな希望になった10の頃。
側室を迎えたあたりから皇帝は少しずつ不安定になっていった。
突然幼子のように暴れたり甘えたり。
しかしその記憶が無いかのようにマトモに政治をしたりもする。
その症状をエウロバは
「まだ10の身体に色々やらせすぎたんだ。皇帝はしっかりしているように見えるが、まだ少年の域だ。それに大人でも困る量の政治書類に、夜は性行為とかやらせれば、そら精神的に不安定になるに決まってるだろ。一旦政治から遠ざける以外に方策はない。それとも側室を引き離すか?」
と重臣達に話し合い、合意を得た。
まだ皇帝は生きている。
病を癒せばまた皇帝として戻れる。
それになによりも優先されるのは子を作ること。
そのため皇帝が一度政治から退く事は皆が納得した。
皇帝とその後援者の龍姫もそれを認め今は皇帝は側室達と共に過ごし療養をしている。
そんな中、エウロバが2つの発表がなされた。
一つは新しい帝国の宗教は、皇帝を中心にするということ。
皇帝は日々祈る事が仕事になった。
そのために新しい帝国としては、その皇帝の祈りを信仰の中心にするとした。
まだ新宗教ではなく、あくまでも祈りの中心を神教のトップ、神皇ではなくなったというもの。
もう一つが、子の懐妊。
サザリィ、リュハ、ラウレス。
3人の側室が皆妊娠した。
これに帝国中が盛り上がった。
実権は今エウロバにあるが、彼女は既に二十代の半ばになるが、未だに独身で子はいない。
婚約者はいるがそのまま特に結婚もしないままだった。
この世界では、二十代半ばで子がいなければ、そのまま子を作らないというケースが多い。
エウロバもそうなるのでは?
そうなれば後継はどうなるのか?
と心配されていたのだ。
今の皇帝が病で政治ができなくなっても、またその子がいれば後継者の指名がしやすくなる。
エウロバも今の皇帝を溺愛していたのは皆が知っていたのだ。
そしてなによりもその人数。
3人側室に入れて、その3人とも妊娠したとなれば、これからも期待できる。
これから帝国はどうなるか心配はされていたが、そう言った要素から少しずつ平穏さを取り戻しつつあった。
そして、付け足すようにエウロバは
「側室全員が孕み、侍女の一人も孕んだ。その侍女は側室に入れる。また新たに側室を招き入れる。しばらく陛下には祈りと子作りに集中してもらう」
既に実権を取り上げられた皇帝だが、この状況だとその子が次の皇帝になる確率は非常に高い。
反アラニア派はそれを望んでいるし、エウロバも子がいない以上、それもやむなし。エウロバが望んでいるのはあくまで「帝国統一」であって、今の皇帝一族を滅ぼすことではない。
双方が特に異論が無いのだ。
その結果新たな側室希望者は殺到し、また侍女達の募集にも殺到した。
側室希望者はあくまで王族や貴族の血筋。
侍女は平民が多い。特に今回の侍女の懐妊で側室に引き上げられた報を聞いて殺到したのだ。
子を孕めば側室になれる。その身分は貴族を上回る。
前回の側室希望者の選定はエウロバ立ち会いのもと行われたが
「好きにすればいい」と今回はエウロバは立ち会わずに、皇帝が直接見ることになった。
「……全員孕んだ。というのも未だに信じがたいのですが」
後宮は基本的に皇帝の後継者を作る為のもの。
だから定期的に魔法使いによる妊娠の確認がなされる。
その結果、3人とも妊娠していた。
それもほぼ同時期に。
いくらなんでも誤診では?
と改めて診断されたが結果は変わらなかった。
既に性行為をした侍女達にも範囲を広げて診断したところ、一人妊娠している娘も見つかった。
その娘は最近になり嘔吐していた為、体調を心配されていたそうだが、妊娠ということで飛び上がって喜んでいた。
「妊娠したとなれば側室の皆様は性行為禁止となります。これからは身体を休んで頂いて、子を無事産むことに集中して頂きますので」
それはなんの不満もないのだが、3人とも妊娠したと言うことはセックスする相手がいなくなる。
すると侍女達は
「側室希望者の方は大勢いらっしゃいますから」
「それまでは私達がお世話させて頂きます」
お世話。
まあ、ようはしてくれるという事なんだろうが。
「……取りあえず3人妊娠したと発表しますか。その上で側室と侍女達の募集もします」
新しい宗教の方は広まるまで時間はかかる。
取りあえずエウロバが「国の信仰の中心は皇帝が祈る」として、少しずつ準備が進んではいる。
既に新しい教義も用意していて、神教とは違う教えの整備もしていた。
しかしいきなりは変わらない。
「まあ実権が無くなったわけだし、そこまでは来ないでしょう」
お飾りになった皇帝。
基本的には祈ることしかしない事になっている。
そんなに希望者来ないだろうと思っていたら大量に来た。
「……なんでこんなに」
側室は300人。侍女に至っては1000人。
久しぶりに城に沢山人間が入り大騒ぎになっている。
エウロバからは「好きに選んでくれ。こちらとしてはサザリィが懐妊した以上のことはなにも望んでいない」
選べ、と言われても。
以前のように決められた方が気は楽だった。
ここから何人選べばいいのか。
それも分からない。
ただ、いきなり増やすにも世話などて限度がある。
侍女達に相談すると
「そうですね。部屋は沢山ございます。百名程度でしたら問題ありません。その場合は世話をする侍女はその倍をご用意ください」
流石に百名など無理。
取りあえず側室は7名を選び10名に。侍女達は今後側室を増やす事から多めの50人採用することにした。
皇帝の予算はかなりふんだんにある。
というのも歴代の皇帝が蓄えた財産が凄いのだ。
この帝国は二代前から危機感が強く、いざという時の為に二代とも無駄な出費をしなかった。
帝国本国は小さい国で運営資金はそんなに多くない。
だが各地から入る税金は多い。
その結果帝国本国にある金は相当なものがある。
女を百人程度囲う程度は百年単位でも可能。
「準備もあるでしょう。来るのはゆっくりで構いません」




