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腐る組織

『エリスはっっ!!!???』

 突然エウロバから遠距離会話装置を繋ぐようにという連絡が来て、話をしたらこれ。


「……夢なら見ましたが」

『……そうか。もうお前にエリスはいないのか?』

「夢の話なので分かりませんが、約束はしましたね」


『……いじめないように約束した。とハシャいではいたが』

 エウロバがそこまで知っているのならば、あれは夢では無いんだろう。


「そうですね。そういう約束はしました」

『……私の手の中で、消え失せた』

「私が約束を破れば、また怒ってくるかもしれませんね」

『……そうかもな』


 そう言ってエウロバからの会話は終わった。



「反乱勢力はとりあえず様子見のようですので、一旦戻られて大丈夫です」

 クミルティアからの報告。


 10日ほど後宮に籠もっていたが、その間に事態は動いていた。 


 とりあえず私を担ぎ上げてすぐに反乱する動きは無くなりつつある。


 どんな政治をしていたとはいえ、まだ10歳なのだ。

 そのうちしっかり成人する。それからで良いだろう。幸い完全な公国廃止は10年後。

 五年後の15の頃ならば、皇帝を担ぎ上げる説得力も出てくる。


 そんな形で、反アラニア公国勢力は落ち着いた。


 また城に戻り祈る日々に戻ったのだが、既に教典は出来つつある。


 後はこれをどう広げるか。


 いきなり皇帝が「宗教始めました!」と主張した所で「気が狂ったのか?」扱いだろう。


 一応筋書きとしては、エウロバが真っ先にその信仰を認め帰依し、そこから貴族達がやり始めるということにはなっている。


 だが、この流れで民も信仰するのか?


 貴族がしたから民衆もするとは限らない。

 それはアラニア公国がそうだったのだ。

 元々は聖女信仰の国。そこが帝国に攻め滅ぼされた。


 そして信仰は神教信仰にしろと帝国から言われたのだが、当時の新しくついた王は「王と貴族は信仰を変えるが、民に信仰変更を強制するのは止めてほしい」と泣きつき、貴族のみの信仰転換になった。


 それから何十年と経っているが、貴族以外には未だに神教信仰は根付いていない。

 貴族がやったから広まる訳ではない。


「……特に聖女信仰は具体的な奇跡を起こすことが出来る。また神教信仰も一時期よりもかなりまともになってきたしな……」

 一時期の神教教団は混迷を極めていた。


 まず幹部が教典を守らない。

 女を抱き、金を溜め込み贅沢をする。

 教義には「幹部は性行為を慎み、質素に生き、信徒の為に祈り続ける」とある。


 ここで大事なのは「幹部は」なのだ。

 一般信徒はそんな縛りはない。


 幹部には特権がある。だが代わりに欲望を捨て、信徒の為に生涯を捧げる。信徒はそんな幹部のために寄付をし代わりに祈ってもらう。そんな教え。

 自分はそこまで懸命に祈らなくとも、幹部が代わりに祈ってくれる。

 だからこそ、ここまで広まったのだ。


 だが、その幹部が教えから背いたことをしたらどうなるか?

 教えの根幹が揺らぐ。

 そしてこれがこの信仰の欠点。それが致命的になってしまった。


 代わりに祈ってくれる筈の幹部が祈ってくれなければ、当然祈りは叶わない。

 そう考えて当たり前。


 ならばこの幹部の腐敗を止めればいい。そう思うがこれが本当に止められなかったのだ。


 なにしろ信徒達は幹部を敬う。

 自分達の為に祈ってくれるのだから懸命に金銭的にも支える。


 尊敬と敬愛と大量の金。

 そして幹部になれば信徒達とは違う施設にいることになる。


 信徒から常に見張られているわけではない。

 少しずつ教えから逸脱するものが出てくる。そこまでは「どんな組織にも規則を守れないものが出る」ですむ。


 問題なのは「みんな守っていなければ、守る意味が無くなる」ことだ。


 長く教団が続く事で、この教義を守らない人間が段々と増えてくる。それが当たり前になる。


 今までは許されていた。これからも許される。

 そんな妥協から組織が腐っていく。


 最初は些細な逸脱。

 不要に酒を飲んだり、祈る時間をごまかしたり。

 それがそのうち、教義に書いてある「幹部は性行為をするな」も破るようになり、そこまでいけばなんでもありになる。


 この連鎖はリグルド時代の時に徹底的に戒めた。

 だが、どんなに強く言おうが、罰則を設けようが、追放しようが無駄だったのだ。

 長く続けばこうなるのは必然。

 そう言っているかのように、リグルド死後この腐敗は止めようが無くなっていた。


 今の教皇は潔癖な信仰を貫いている。それは「周りと連まない」から。


 今の教皇は以前から孤立していた。

 教義を頑なに信じ、教義通りにこだわった。

 妥協が無い性格だからこそ、周りとの付き合いは殆どなかった。


 それはトップになってからもそう。

 人望がないとよく言われている。何度も神教の組織内でクーデターを起こされそうになった。


 本人は懸命に信仰を貫こうとしているが、それが広がる事はない。

 変わり者。人望がない。そんな評価。

 教義通りやることがそんな扱いにされてしまう。


「元々300年程度で十分だと思っていたのだろう。またこれを変えるに当たって考えるべきことは様々あるが」


 とにかく、この幹部頼りの信仰に問題がある。

 信仰には組織があったほうがいいし、幹部も必要。だがこの幹部は基本的に腐敗すると思った方がいい。


 その上で守りにくいものはない方がいい。

 性行為をしないのはやはり人間には無理があった。


 そして一人一人が主体的な信仰に変える。

 基本的にはこれ以外は手を付けない。


 教義は固まりつつある。

 しかし不安はいくらでもある。だが、とにかくやってみる。それしかあるまい。


「龍姫とエウロバに伝えてください。新しい信仰を始めると」

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