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エリスの意識

『ままをー! いじめるなー!』

 目の前に幼い男の子がいる。


 夢。夢なんだろうな。

 その幼子はこの身体そのもの。


 罪悪感が見せたのか幻か、実際の存在なのかは分からない。


「エリス、ですか」

『そうなのだー! ママが困ってるからー! いじめちゃだめなのだー!』


 私がエリスの意識に入り込んだ時はまだ2歳か3歳。

 言葉はあまり出ず、エウロバに「ママ、ママ」とせがむ程度の言語しかなかったと聞いている。


 その時に比べれば随分と喋る。

 夢だからか他の理由か。


「エウロバは言うほど困っていないのでは?」

 聖女ミルティアも納得したと聞く。

 これで信仰の引き継ぎが出来れば問題はなくなるだろう。


『僕はママと甘えてればいいのー! ママが困ってる姿見るのいやー!』

 子供のような要領を得ない発言。


 まあ、子供だから当たり前なのだが。


「ならば意識を乗っ取るのをやめなさい。スムーズに信仰移譲が出来ればエウロバは困らない。逆にここが上手く行かなければエウロバは困ります」


『そうなのかー! じゃあ邪魔しないよー!!!』

 あっさりと。 なんというか無垢な子供を騙してる罪悪感しかわいてこない。


「……本当にエウロバが大好きなのですね」

 エリスの記憶は残っていた。

 本当に無邪気に

「ママが大好き!」だらけだったのだ。


 優しくて美人で自慢のママ。そんな記憶しかない。


『うん! だいすき!』

 目の前の少年の頭を撫で


「嘘ばかりつく私ですが、これだけは誓いましょう。エウロバをいじめません。苦しむようなことはしません。必ずやエウロバを幸せにします」


『うん! 分かったよー』

 笑顔で頷く少年。


 そして

『ママをよろしくね!』



 目覚め。

「……脅されて、殺されるような脅迫の方がどれだけマシか」

 幼子を言いくるめて、従わせる。

 リグルドの時から繰り返ししていた、無垢な存在を利用しつくす最悪の行為。


 夢でも当たり前のようにそれをする。

 そして実際に分かる。あれは夢でもなんでもない。


 ずっと自分の中に存在していたなにかが、消え失せた感触があるのだ。


 きっとこれがエリスの意識。


 無くなって初めて気付いたが、あの夢で納得して眠りについたのだろう。


「……エリスの抵抗が強くなったのは、エウロバが苦悩の表情を浮かべる事が増えた時か」

 たまらず出てきたのだろう。


 そしてようやく意思疎通が出来るようになり直接文句を言ってきた。


 そして言いくるめられて、納得して消え失せたと。


「約束を守らないと」

 エウロバを困らせない。

 苦悩させない。


 いくら酷い男であろうとも、幼子との約束は守らないといけない。

 だがそれを為すためには


「クミルティア、10日程ここにいます。今のうちに教典を固めますので」


『わかりましたー。そうされてくださーい』



 =====================

「怖いぐらいに順調だな」

「はい。陛下にもご協力頂いており、反乱勢力も出だしができないようで」


 エウロバと部下の会話。

 帝国の主は皇帝のままだが、実権はアラニア公国の王エウロバ。


 ここまでは今までとあまり変わらない。

 問題なのは公国制度の廃止。


 帝国は一つとなり、バラバラで各国運営されていた体制ではなくなる。


 王としての実権が失われるわけで、相当な混乱をよそうしていたのだが、想定以上に大人しい。


 10年単位の緩やかな移譲であること、皇帝はそのままであるため、いざとなれば皇帝を担いで反乱を起こすことも可能であることから、すぐの反乱は控えられていた。


 その中でもいくつかの国は「なし崩し的にやられるのが一番抵抗が出来ない」と今反乱を起こそうとしてはいたが、肝心の皇帝は後宮に籠もり出なくなった。


 これでは連絡も取れない。


「どこかで反乱は起こるにしてもだ。それを避ける取り組みは続けよう」

「はい。エウロバ様」


 将軍は頭を下げて部屋から出る。


「……ふん。油断した訳でもないだろうに」

 エウロバは強烈な眠気に襲われていた。


 新体制後、反乱を覚悟していたがまだ起こらない。

 どうも一旦はここでやりすごせそう。


 そう思うと、眠気は止まらない。

 そのままエウロバは机にもたれかかり眠った。




 夢。 

 エウロバはこれが夢だと理解していた。


 目の前には幼い姿のエリス。

『ままー!!!』

 笑顔で抱きついてくる。


「このタイミングで出てくるとは。中々洒落た夢だな」

 苦笑いをするエウロバ。


 するとエリスは嬉しそうに


『あのね! ちゃんと叱っておいたからね! ママはもう大丈夫だよーーー!!!』

 エリスはハシャいでいた。


 叱っておいた。

 なんの意味かは分からないが、エウロバは微笑み

「そうか。賢くて良い子だな。エリスは。またよくしゃべれるようになった」

『えへへぇぇ♪』


 エウロバに頭を撫でられ誇らしげにするエリス。


『もういじめられないからね! おじさんと約束したからー!』

 おじさん。


 その言葉に戸惑うエウロバ。

 心当たりは一人しかない。


「……エリス。そのおじさんとやらは、まさかリグルドか?」

『うんっ! もういじめないって! 約束したー!』


 それに苦笑いをするエウロバ。

 幼いから言いくるめてられているのはわかっている。

 だが、それが可愛いかった。


「わたしはいじめられてないよ。それに今はとても協力してくれている。そうか、エリスがお話してくれたからか。お前は本当に良い子だな」

 そう言って抱きしめる。


 すると、エリスは光始めた。


「……え?」

『ママっ! ありがとう! しあわせになってねーーー!!!』

 エウロバの腕の中で光の塊は消え失せた。

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