『神』リャナンシー
『やることやったしー、ねーよーっと!』
光の塊は雲の上で横になり丸くなる。
『わたしがんばったー。しばらくぶりぐらいにがんばったー。おやすみー』
そして、丸くなる光の塊に近寄る存在。
それは蛇。
巨大な蛇が空を切り裂き光の元にやってきた。
『よお、売女』
蛇は親しげに光に話しかけるが
『ぐーーーーー』
大きな寝息をたてる光。
『噛むぞ』
『なんだよー。寝るんだよー。わたし頑張ったから寝るんだよー』
蛇は舌をチロチロと出し
『私の娘を排除しなかったな。何故だ?』
私の娘。
光の塊はピカピカと光り威嚇しながら
『あれはもうお前の娘じゃねーよー。メリュジーヌ』
メリュジーヌ。
巨大な蛇の名前。
『同一だ。あの能力は私の娘だ。個体の意思など関係ない』
『そーかよー。んで、排除しなかった理由? お前と戦いたくなかった。以上』
それに身体をよじらせ笑う蛇。
『そうか、そうか。そういう素直な所は昔から好きだぞ。それが聞けて満足だ。おやすみ。リャナンシー。良い夢を』
そして蛇はいなくなる。
光の塊は今度こそ寝ようと雲の上に寝っころがるが
『メリュジーヌが来たな。なにを話した?』
直後に枕を抱えた少女が突然現れる。
『おめーら、ねかせろよー』
『答えたら帰る。なにを話した?』
少女の問いかけに
『なんで私の娘に手を出さなかったか? と言われたから、お前と揉めんの嫌だからだよー。って言ったら満足して帰った。以上』
『ふーん。メリュジーヌは満足する回答だが、クソババアはまた怒るんじゃないか?』
ニヤニヤする少女。
『知らんがな』
そして、光は少女の方に腕を伸ばし
『その枕良いらしいじゃん。貸してよ』
それに少女はアッカンベーをして
『貸さないよ。これは宝物』
そう言ってかき消えた。
今度こそ静かになったと寝息をたてるが
『メリュジーヌとサンドマンが来た』
『なにをするつもりだ。また母様に逆らうのか?』
水の塊と風の塊の二つが現れ光の周りを飛び回る。
『うるさーーーい!!! おまえらーー!!! なんでそんなに私の睡眠を邪魔するんだーーー!!!』
暴れる光の塊。
『答えろ、バカ』
『答えたらいなくなってやる』
『しらねーよ!!! 本人達に聞け!!! お前らみたいに、お前なにしてんの? って聞かれたから答えただけだよー!!!』
それに二つの塊は顔を見合わせ
『なんて答えた?』
『それを聞いたら帰る』
『メリュジーヌには、お前と喧嘩したくないからお前の娘には手出ししなかったって伝えてー、サンドマンにはそれを伝えた上で枕貸せっていっただけだよー』
光の塊はダルそうに答えると
『そうか。それならいい』
『邪魔したな。良い夢を』
そして今度こそ雲の上は静かになった。
寝息をたてて眠る光の塊。
すると突然
『おきろーーー』
天から響くでかい声
『寝かせろーーー!!! なんだよー!!! シルフィードとウィンディーネから聞いたろうが!!!』
キレる光の塊。
だが存在は見えない。
『聞いたから来たんだよ。メリュジーヌの娘をなんでぶっ殺さなかったんだ。揉めてこいよ』
それに光の塊はピカピカと光り
『勝手なこというなー。私はもうあんたの恋人でも部下でもないのだー。好きに生きて、好きに眠るのだー』
『リャナンシー、信仰の力は満ちている。今のお前の力はメリュジーヌと互角の筈だ。その力を何故使わない』
天から響く声に光の塊は
『そんな挑発してたら、力なんていくらあってもたらねーよ』
『……来るべき時に力を振るうと解釈してやろう。さらばだ』
そして声は響かなくなる。
蛇の形のメリュジーヌ。
少女のような姿のサンドマン。
水の塊ウィンディーネ。
風の塊シルフィード。
そして、声を響かせた妖精神。
妖精神率いる大妖精達が一斉にリャナンシーに押しかけた。
その理由は
「お前はなにをして、これからなにをするつもりだ?」
『どうでもいいじゃんかよー。寝かせろよー』
光の塊は目を瞑る。
地上からは神を崇める声が、力を求める声が響く。それをリャナンシーは正確に読み取ってはいる。
しかしそれを叶えたり、その願いに怒ったりもしない。
ただ聞くだけ。
『またこうやって何百年も寝てればー。そのうち超えるさー』
そのうち超える。
人間の信仰力は力になる。
その力をひたすらに蓄えていた。
メリュジーヌは、その力を私に向けるのか? と警戒して問いかけた?
それに対して「お前の娘に手を出さなかったのは、お前と戦いたくなかったからだ」と答え、敵対意思がないことを伝えた。
サンドマンは、メリュジーヌとなにを話した。敵対か和解か?
と訪ねた。
それに対してメリュジーヌとの争いは避けたが、積極的な味方になるつもりもないと伝え、サンドマンは去った。
ウィンディーネとシルフィードもそれを確認して去った。
『メリュジーヌの娘の力はメリュジーヌにも雪崩れ込んでいる』
メリュジーヌの娘。
メリュジーヌが気紛れに人間と子を為した。
その子供が初代聖女。
人間と大妖精のハーフ。
彼女自身はその事に生涯気付いていなかった。
自分が化け物とのハーフであるという事実は知らない。だからその記憶を引き継いだミルティアも当然その事は知らない。
自分が振るっている力は、大妖精という名前の化け物の力だと。
リャナンシーは元々は妖精神に仕えていた大妖精の一つ。
だが、浮気がきっかけの痴話喧嘩などで妖精神から離れた。
妖精神の力は圧倒的で、その状態のままならばリャナンシーは滅ぼされる。
しかし妖精神は元々恋人だったリャナンシーには未練がある。
その間にリャナンシーは
「人間たちに私を拝ませて、力を蓄えよう」と考えた。
一部の人間達は妖精を崇めていた。
崇めたエネルギーは妖精の力に還元される。
だが、それは微々たるもので妖精達は気にしていなかった。
それをリャナンシーは大規模に吸い上げようとしたのだ。
だが、最初の試みは全く上手くいかなかった。
宗教は作ったのだが信徒は増えない。
仕方なく人間達の祈りに応えたりしていたが、人間達は身勝手で恩知らず。
いくら叶えても満足しないし、願い続けれる。
リャナンシーはすぐに嫌になって放置した。
ところが、その放置した教えに段々と帰依する人間が増えてきたのだ。
自分はなにもしていないのに信徒が増えた。何故だ? と探ったところ答えはその教えの教義にあった。
元々あった宗教をベースに作りあげたのだが、その教義の守りやすさ、そしてかつて祈りは叶っていたという実績から人々は少しずつ祈り始めていた。
リャナンシーはその事に気づき、教典を整備し当時のトップにそれを伝えた。
そしてその代にたまたま成立したのが帝国だった。
その帝国は神教を国教とし、大陸を支配していった。
初代皇帝は戦争が上手かったわけでは決してない。それどころか殆ど戦争はなかった。
帝国を作り上げた原因はその口。
カリスマ性があり、口を開けば女が股を開くと称された圧倒的な人たらし。
乱立していた国の王に呼びかけ
連合国としての帝国の樹立を成立させたのだ。
そのあたりからリャナンシーへの力の雪崩れ込みは活発化した。
目論見は成功したのだ。
リャナンシーはただひたすらに力を吸い上げ、その力を人間に還元することはなかった。
それが無意味であることは、実績から知っていた。
人々は究極的には奇跡など望んでいない。
だからリャナンシーもそれを行わない。
どんなに悲痛な叫びのような祈りがあろうと、呪いのような言葉をはきだされようと、人間は月日がたてばそれを乗り越える。
その乗り越える指針として私がいる。
そしてその蓄えた力。
それをどうするのか? と皆は聞きに来た。
リャナンシーは苦笑いをしながら
「そんなもの決まってる。私が真の『神』になる。妖精神を超える。私がすべての『神』になるんだ」
だがそのためにはまだまだ力は足りない。
今回崩壊状態になった帝国と神教を守るために様々な手をうった。
その結果立て直す見込みはついた。
まだこれからもリャナンシー信仰は続く。
またその力を蓄える。
そしていつか超える。
自らを生み出した、母である『妖精神』を。