目指すべき神
龍姫はハユリの追悼の儀式を終わらせると部屋を出た。
「陛下は?」
廊下には誰もいないが気にせず話しかける。
するとすぐにエールミケアが現れる。
「はい。側室の3人と部屋で過ごしております」
「……そう」
本来、龍姫はこの館で起こった事はすべて把握できる。だが、リグルドの様子を覗き見するような事は嫌だったのだ。
正確に言えば
「不思議そうな顔をしているのね。私だって見たくないものぐらいあるわ」
エールミケアを抱き寄せる龍姫。
「……姫様」
「陛下を存分にもてなしなさい。私はなにも探らないから」
リグルドの性行為を見たくない。
「リグルド様は四神女と違って、かつての面影が存分にあるから余計キツいわ」
龍姫は憂鬱気に言う。
それでも少し気を抜くとビジョンが雪崩れ込んでくる。
今皇帝はラウレスと、城から連れ出した侍女含めた4人と性行為をしていた。
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エウロバは部屋に一人でいる。
ミルティアとの対話。
ミルティアは転移で直接会いに来ることになり、その部屋で待っていたのだが。
「……遅い」
『ごめんなさーーーい!!! だってまさか、徹夜でセッ〇スして意識剥がすのに抵抗するなんて思ってなかったんですもーーーん!』
部屋に響く聖女ミルティアの声。
「私はこの状態で会話でもいいが?」
『行きますよー! あの分じゃセッ〇スしばらく終わらないでしょーしー』
言うなり、すぐに目の前に現れるミルティア。
「んで、伝える事は単純なんだが」
「はい。今まで通り、私を崇めず友として付き合うと。帝国もまたそうである。まあ良いですよ。認めます」
ミルティアは頷く。
エウロバはミルティアを眺めながら
「あの『神』はなんなんだ?」
エウロバの問いかけに
「大妖精でしょう? もう調べられたはずです」
大妖精。
妖精は人間の敵。なにかあれば殺戮して回る化け物。
「妖精は私も知っている。だが、あんなに物分かりのいい連中ではない。例え知能が高いにしてもだ。あそこまで人を理解できるような存在ではなかったはずだ」
エウロバの話にミルティアは頷き
「神話というか、妖精の話は私も調べました。基本的には超常的な存在で、人間の敵扱いはされていますが、単純に『強すぎて脅威』というのが正確な表現です。力の強い存在が気紛れに生活していたら、そら脅威でしょう」
ミルティアは少し遠い目をして
「なぜ初代聖女の勢いが凄かったのか。リグルドがいなければ神教は滅んでいた。つまり全人類の殆どは聖女信仰になっていた。未だかつて、そんな宗教は存在しない。聖女が現れる前の神教も信仰者は人口の半分程度です。聖女信仰の凄いところは、あの大陸全てを信仰者に変えた点ですから」
別の話を始めたミルティアに、黙って聞くエウロバ。
「そんな勢いのあった初代聖女でしたが、まあ適当でした。思いつくまま、気の向くままに奇跡を濫発した。奇跡のおかげで信仰が広まったと言いますが、私は違うと思います。それは『適当だった』からかと」
適当。その言葉に怪訝な顔をするエウロバ。
「神教の過去の教えを見ましたが、帝国が国教にしたころの教え。確かに厳格な面はありますが、わりかし教義に柔軟性があった。『絶対にこれはダメ』というのがある代わりに、逆を言えば書いていないことは別にいい。という緩さがあった。人殺しの項目なんてそれですね。別に教えにダメだ。と明記されていない。だから許される」
ミルティアは机に用意されていた蜜水を口に含み
「この絶妙な緩さがあったから、この教えは広まった。神教の限界とは、その緩さを失ったこと。長く続いたが故に、どんどん縛りが増えてしまった。それはある程度仕方ないこと。初代聖女もそうでした。だから賭けをした。後継に私を選んだ理由は、こいつならばこの教えをまた構築し直せると踏んだからです」
エウロバはゆっくりと口を開き
「……私はそういうのは詳しくないから分からん。つまりなにがいいたい」
ミルティアは、微笑み
「エウロバさんは、あの『神』を『人間を理解している』と評した。いえ、それは違うと私は言う。あの化け物は人間など理解していない。ただ、緩い。懐が広い。言葉が広いのです。分からないものは分からないと、当たり前のように言う。それに人間くささを感じてしまう。そして偉大さも感じる。超常の存在なのに人らしいと。実際は恐ろしく適当なだけです。ですが、適当だから偉大なのです。人間が自分を好き勝手に祈ることを認め、それを許した。信徒がどんな身勝手なことを祈ろうが、嘆こうが、呪いの言葉をはこうが、全て許した。気にしなかった。だから偉大で強大。人の言葉を解しているのに、その言葉を聞き流す。簡単なようで実際は難しい。私もそれを目指しましたが無理ですね。聞こえる以上気にはなります。つまり」
ミルティアはエウロバに顔を寄せ
「あいつは、私が目指すべき『神』です」




