今後の行動
ハユリと盛大な喧嘩をした龍姫。
「申し訳ありません。姫様は寝込まれております。なにかありましたら私にお命じください。全てを実行せよ、と姫様より言われておりますので」
フェルラインが挨拶をしてくれる。
しかしだ。
「私もしばらく考えねばならない事があります。5日はなにも動きません。側室や臣下へのお世話をお願いします」
それに頷くフェルライン。
「畏まりました。それと神都になにかあればすぐにお伝えします」
なにかあればか。
「分かりました。恐らくなにもないかとは思いますが」
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「ファック」
エウロバが呟く。
皇帝がいなくなった神都。
そうなれば当然四神女が暴れると見ていたのだ。
帝国を乗っ取る上で今の首都である神都は残しておきたくはない。だから彼女達にぶっ壊してもらおうとした。
ところが動きはなく、神都に残ったネルフラはずっと寝ては、たまに起きてもぐだぐだしているだけらしい。
『思うようにいきませんねー。エウロバさーん』
頭上から響く声。
聖女ミルティア。
「そうだな。まあなにもかも思い通りにいくなどとは最初から思っていない」
それでもエウロバにとっては、反アラニア公国の旗頭、ヘレンモールを捕らえたことは大きかった。
ここを抑えれば様々な想定外があってもなんとかなる。
問題は
『皇帝はどうするおつもりでー?』
聖女ミルティアの言葉に歯ぎしりをするエウロバ。
今は龍姫の元に逃げ込んだ皇帝。
現在この帝国は統治不能状態になっている。
この混乱にエウロバは帝国をまとめて一つにしようとしている。
だが、皇帝がもし生き残った状態ならば当然抵抗運動は続く、
『あなたの部下が言うように、生かしておけば当然担がれるでしょう。例えリグルドの意識が無くなったとしてもですよー』
エウロバも当然それは知っている。
だから殺してしまう選択肢は普通に取りうるのだ。ただ、その決断はまだできない。
『タチアナさんもそうですし、エウロバさんもそう。龍姫もそうでしたねー。情に流されすぎなんですよー。帝国を統一するんでしょう? 一人の命と帝国統一、どっちが大事なんですか?』
その言葉に歯を鳴らして威嚇するエウロバ。
「……だとしたら、とっととカリスナダとジュブグランを殺せ」
そこ声に押し黙るミルティア。
『……あの二人を殺したところでなにも変わりませんし』
「カリスナダは皇帝の側につけられ、人質のように扱われた。あいつがいればミルティアは手を出さないと舐められている証拠だ。現に手出しなどしていない。ジュブグランに至ってはもう寿命だろうが。痛みがあろうがなかろうが、もう身体は限界。死なせてやれ」
カリスナダとジュブグラン。
まだミルティアが聖女になる前に世話をした二人。
ミルティアはカリスナダの作る料理を愛し、母のように慕っていた。
また金貨を大量に与え、ミルティアを甘やかしたジュブグランの事も祖母のように愛していた。
この二人への厚遇は知れ渡っていたのだ。
ジュブグランはこの世界で最長寿と言ってもいいような年齢。それでもハキハキと喋れるのは聖女の祝福と呼ばれる奇跡の力の賜物。
その事をエウロバは指摘していたのだが
『それとこれとは話が別です』
「一緒だ。情とはそれだけ判断が鈍る。それが当たり前何だ。私にも悩みの時間ぐらいくれ」
エウロバはそのまま玉座に座り腕組みをする。
(……エリスは殺せないな)
これだけ自分が悩んでいると言うときは殺せない。
それは父テディネスの時もそうだった。
殺すべき。殺さないとアラニア公国は滅んでしまう。
そう決意して監禁まで成功したのに三年も殺せないままだった。
何度も何度も殺しにはいった。
そのたびに吐き、涙を流し、血を吐きだして嘆いた。
それと同じことになるだけ。
「ではどうするかだ」
皇帝をこのままでは、帝国を統一したところでまた乱れる。
ではどうするか?
それを考えながらエウロバは黙って座っていた。
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ハユリとの大喧嘩をしたあとに寝込んだ龍姫。
「……そっか、そう思っていたのか……」
別物だと詰ったハユリ。
実際に性格は別なように思えた。
だが、それは
「舞い上がっちゃったんだろうな。そう言えばハユリさんは舞い上がると訳の分からないことを言っていたし」
龍姫は呟く。
ハユリとの喧嘩で
「私はなにも出来かったけれど、あなたはなんでも出来るでしょう」
と言われたこと。
それが棘のように刺さっている。
「……確かに、そう思っていたとしたら色々繋がるな……」
そして自分の口から出た言葉。
「綺麗な思い出のまま死ね」
それに苦笑いする。
実際にそう思っていたからだ。
ハユリが蘇って真っ先に言われたことは
「リグルド様は私が守るからもういい」
これに龍姫は激昂した。
今までの思い出を汚された。
ハユリさんはそんなことを言わない、と。
「コンプレックスがあって、自分はなにも出来ないと嘆いて。やっと超常の力を手に入れて舞い上がったから言っちゃったと」
後から考えれば「変なところが天然なハユリさんぽいなー」と龍姫は思う。
だが、最後は喧嘩をして別れた。
それが悔しく悲しいが
「……言いたいことを言えない事を後悔していたのか」
少しずつ龍姫の頭が整理される。
姉妹のように仲の良かった二人。
喧嘩などしたことがなかった。
最初で最後の姉妹喧嘩。
「喧嘩にしては激しすぎだけど」
龍姫は苦笑いし
「エールミケア、追悼の儀式をします。誰も近寄らせないように。それが終われば部屋から出ます」
ドアに向かって喋る。
そして龍姫は祈り始めた。




