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消えるハユリとリメイ

 龍姫とハユリの取っ組み合いの喧嘩。

 私以外にももう一人傍観している女が一人。


「よく飽きないですねー」

 リメイが欠伸をする。


 リメイは集中力がなく飽きっぽい。

 だから何度も試験に落ちていたのだが


「あの二人は喧嘩なんてしたこと無かったですから」

 仲は良かったと思う。

 だが、お互い思う所はあったはずだ。

 今それをぶつけ合っているようにも見える。


「うるさい!!! 死ね!!! 死ねよ!!! 綺麗な思い出のまま死ね!!!」

「せっかく生き返ったのに死んでたまるかーーー!!!!! お前こそ!!! もう老婆の年齢だろうがーーーー!!!! ババアは大人しく死ねーーーー!!!!」


 罵りあいながら、殴り合いながら。

 互いに泣いていた。


「それで、リメイ。あなたはなにがしたいのですか?」

 ネルフラとリメイはなにをしたいのかよくわからない。

 目の前のハユリと、既にいなくなったアンリは元の彼女達らしさを感じるが、ネルフラとリメイからは別物感を強く感じる。


「リグルド様のお手伝いですねー」

「手伝いというならば、目の前の喧嘩を止めてください」


 組み合いながら、殴り合っている二人を指差す。


「あー。これは無理ですねー。私はか弱いのでー」

 か弱い。


「エウロバを吹き飛ばしたでしょうに」

「あれは怒られたのでもうやらないです。もう氷漬けにされるの嫌なので」

 ちゃんと反省していた。


「正直なにをしに来たのか困るレベルなのですが。ここで龍姫と喧嘩をされても、私にとってなんらメリットもありませんし」


 それにリメイは考え込み

「……アンリが消えたことを考えるにー」

 指をくるくるしながら

「生前やりたかったことを、やりたいんじゃないでしょうか?」

 生前やりたかったこと。

 それが果たせなかった、それが無念だとは思うのだが、リメイとネルフラは本当にそれがなんなのか分かりにくい。

 悩んでいると


「……なっ!!!???」

 リメイの言葉と共に、ハユリの身体が透けていく。

 龍姫が驚き飛び退くが


「……わっ。消える……」

 ハユリもびっくりしている。


「ハユリ」

「ああ、そういうことかー。やっとわかりましたー。これが『リグルド様のお手伝い』なんですねー」


 にっこりと微笑むハユリ。

 それは生前見せていた笑顔。


「は、ハユリさん!?」

「メイル、最後に姉妹喧嘩できて幸せでした。この思いを抱えたまま死んだのが納得いかなかったんですね。あなたの思いも聞けてうれしかったです。リグルド様、私は幸せでした。皆もそうです。どうかもう苦しまれないでください。誰もあなたを恨んでおりません。幸せなまま生きて、幸せなまま死にました」


 ハユリは笑顔のまま、目の前で消え失せた。



 ハユリが消え失せた床では龍姫が跪いたままになっていた。

 そこに龍族フェルラインが音もなく現れ

「姫様。お休みください」

 毛布に包む。


 龍姫はなにも声に出ず、されるがままにフェルラインに抱えられ部屋から出た。



「これがリグルド様のお手伝い」

 そう言ってハユリは消え失せた。

 つまり、彼女達は


「……私の後悔を消すためだけに現れたのか……?」

 そう解釈できてしまう。


 アンリは生前果たせなかった私との性行為をして満足していなくなった。

 ハユリは生前仲の良かった龍姫と本音でぶつかり合う大喧嘩をしていなくなった。


 彼女達には無念があった。その無念を果たして消えた。

 つまり、彼女達はリグルドを恨んではいない。精一杯生きた。無念は他にあった。そう伝えているかのように思える。


「……ハユリの無念が、聖女打倒を果たせなかった方ではなく、龍姫に本音をぶつけられなかった方なのは意外でしたが……」

 だが、あの喧嘩を見ていて、ハユリが相当なコンプレックスを抱えていたのは間違いないんだろうな。とは思った。


 だが、そうなるとあのネルフラは

「……まさか、ネルフラの無念というのは、義務を放りなげてぐーたらしていたかったとか……?」

 この状況においてもネルフラが動いたと報が来ない。


 神都は既に私もエウロバもいない。

 いつネルフラが暴れ出してもいいように警戒しているのだが。


 ネルフラは王族で、常に王族出身の幹部としての立ち振る舞いを自らに義務づけていた。

 だがそんな期待から逃げたい。好き勝手に生きたい。義務なんて放り投げたい。

 それが無念だったのか。


 そうなるとネルフラはこのぐーたら暮らしでいなくなることになる。


 ではリメイは?


「……リグルド様、こっちを凝視されると照れます」

「いえ、あなたの無念はなんだったのかな? と」


 それに首を傾げ

「そーですねー。いや、私は本当にリグルド様のお手伝いだと思いますよー。だって本当に申し訳無かったですもん。お手伝い出来なくなっちゃって」


 リメイの横顔を見ながら

「……お手伝いですか」

「はいっ! 私本当に宣揚の部隊に着いて嬉しかったんですよ! 成果も出せたし。リグルド様が見いだしてくれたから、私は幹部になれたんです! それが……本当に……」

 薄れていく。

 リメイもハユリと同じように薄れていく。


「リメイ!?」

「……ああ、そっか。わたしの、無念は……」

 ニコッと笑い

「リグルド様に直接感謝が言えなかったんですね。本当に、本当にありがとうございました!」


 そのまま、リメイも消え失せた。



 突然現れて暴れた四神女。

 そのうち3人はほぼなにもせず消え失せた。

 なにをしに来たのか。それはなんとなくは伝わる。

「私の罪悪感を減らすためか」


 だが、だったらあんな異形の力などいらなかった。

 それを「神は気まぐれだから」で終わらせていいのか。


 恐らくは違う。

 意味はあった。その意味。

 今リグルドの意識が消え去ろうとしているのも全て意味がある。


 気紛れなのは事実だろう。だが、ちゃんと意味はある。

 その意味

「難儀だな。本当に難儀だ」

 意味を理解し、頭を抱えた。

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