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捕らえられたヘレンモール

 ミルティアとジュブグランの会話。

「リグルドは稀代の女たらし」


「……リグルドは、教義通りに女と寝たことがなかったと」

 ミルティアの話に

「私は難しい話は分からない。だが、客観的に見てリグルドの慕われ方は異常だった。男性からも慕われていたが問題は女性だ。何人もの女性が彼の為に命をなげうったと聞く。彼にはそれだけの魅力があった。ミルティア、見た目に騙されてはいけない」


「……それはわかります。確かに彼の存在感は異質です。その上で、彼はなにをするつもりなのか……」

 言っている途中でジュブグランは首を振り


「私はリグルドの考えなど分からない」


 ミルティアは俯く。


 それを見ながら

「だから一般的な話しか出来ない。一般的に言うならば、女たらしの色男が危機になったらどうするか? それは大抵一つだ」

 ジュブグランは少し笑い


「女のところに逃げる」


 =====================


 皇帝はエウロバの監禁されていた後宮から、脱出を図った。


 ちょうど反アラニア勢力が神都を攻めていた最中。その混乱に乗じて、龍族二人を先頭にし正面から突破。


 エウロバも警戒はしていたが、龍族二人が暴れ出すと、精鋭を揃えたアラニア公国軍も手を出せなくなる。


 皇帝と重臣5人。そして側室と侍女達はそのまま城を出て、救援に向かっていた龍姫達と合流をした。



「エウロバ様、あれでよろしかったのですか?」

 皇帝達が後宮を抜け出したと聞いた段階でエウロバはすぐに


「殺し合いをするな。龍族と死なない程度の抵抗に収めろ」

 と指示をしたのだ。


 エウロバは憂鬱そうな顔をしながら

「……決断は出来なかった。だからちょうどいい」

「は?」


 エウロバは、部下のドクドレから言われた

「皇帝を殺すべき」に決断出来なかった。

 皇帝に取り憑いているリグルドはともかく、その身体は、赤子の頃から彼女が可愛がっていたエリス。


 それでも皇帝を生かしたままでは、エウロバの目的が果たせない。

 それにも納得は言っていた。


(……あれは演技ではないだろう。それは間違いない。だが、帝国が崩壊した後にエリスが解放される保証などなにもない)


 まだ考えがまとまらない。

 その中で逃げられた。

 エウロバは敢えて深追いせずに逃げさせる事にした。


「どちらにせよ行く場所は分かる。龍族の館だろう? それよりもヘレンモールを捕らえることに集中しろ」



 皇帝の脱出劇。

 神都を包囲しているヘレンモール軍はそれに気付いて保護しようとしたが、龍族からの

「こちらで保護します。それよりも陛下を取り戻そうとする軍を止めてください」

 という申し入れに、攻める立場から守る立場に変わった。


 そうなると一気にヘレンモール率いる軍は乱れた。


 と言うよりも、アラニア公国軍が動きを大きく変えたのだ。一気に攻勢に打ってでた。


「……陛下を逃がした途端にこれか。そうなると目的は我々だな」


 ヘレンモールは歯軋りをする。


 皇帝を救う目的での包囲戦であれば、例え不利になってもその場は一旦引けばいい。


 また、皇帝の救出に成功すれば一緒に国まで駆け抜ければいい。


 だが、龍族から

「追っ手を食い止めろ」と言われてしまっている。

 そうなると、下手に後退するわけにはいかない。


「陣列を乱すな。少しずつ下がる」

「ヘレンモール様。この状況はマズいです。攻められる側としての武器は満足に準備しておりません。もうここは一目散に国境まで戻るべきではないでしょうか?」


 それはヘレンモールも理解している。

 この状況は厳しい。

 ここにとどまる選択肢は本来ない。


「……陛下が逃げ延びるまでの時間稼ぎはしなければならない。でなければなんのために我々は神都を攻めていたのだ? 大儀を失う事になるぞ?」


 神都を攻めたのは、監禁された皇帝を救うため。

 実際に皇帝はその混乱を利用して逃げ延びた。

 しかし、それを守ることもせず一目散に逃げだしたらどう思われるか。


(……龍族達が無事送り届けてくれればいいのだが)

 ヘレンモールから見て龍族は信用出来ない。


 確かに皇帝派ではあるが、得体の知れなさがあるのだ。


 ギリギリの判断で悩むヘレンモール。

 名将とうたわれたヘレンモールだが、戦で司令官が悩めば軍は混乱する。


 その混乱は致命的になる。


「ヘレンモール様!!! アラニア軍が!!! 一気に襲いかかってきます!!!」


 退くか、立ち向かうか。

 しかし立ち向かうには装備が足らなさすぎる。


 あくまで包囲戦と、脱出戦の為の装備で来たのだ。


 しかし後退の判断は難しい。戦の目的が失われる。


「……立ち向かえ!!! そのまま突破して国境付近まで進むぞ!!!」


 その言葉に兵士達は武器を構え突撃をしようとする。


 だが、動揺していたのは明らか。

 軍の動きもそれに釣られて鈍くなっていた。


 そこに

「ヘレンモール!!!!!」

 叫び突撃してくる男。


「ちっ!!!」

 既に陣地の中心にいるヘレンモールにまで敵兵が迫ってきている。


(……マズい。ここからでは立て直せない)

 ヘレンモールから血の気が引く。


 完全に手遅れ。


 そうなれば

「全員撤退!!! 一目散に逃げ延びろ!!!」


 判断が完全に遅れたことを意識はしている。

 だがこのままでは全員死にかねない。


 そこに

「ぐっっ!!!」

 投網。


 アラニア軍から大量の投網が投げられ、ヘレンモールは取り押さえられた。




「陛下には逃げられたが、ヘレンモールは捕らえた。まあ痛み分けということだな」

 エウロバは憂鬱そうに言う。


 目の前にはヘレンモール。

「殺せ」

「そんなことするわけないだろ。ファック。人質にすんだよ」


 ヘレンモールはアンジ公国の大将軍だが、それ以上に国の柱であり象徴。

 既に彼の子が次の王になることが決まっているのだ。


 彼を無事に取り戻す為ならアンジ公国はなんでもするだろう。


「そんなに落ち込むな。お前は任務を果たしたんだろうが。こっちからしたらいい迷惑だが」

 既に皇帝は龍姫と合流して龍族の館に向かっていると報が入っていた。


「……陛下は逃げ延びられたのか?」

「まだ着いてはいないらしいが。相手が龍姫ではこちらも手が出せん。本当にいい迷惑だ」


 だが、憂鬱な表情を浮かべているだけで、言うほどエウロバは困ったような声を出していない。


「クーデターを起こしたんだ。色んな事が起こるのは当たり前だろう。お前は城でゆっくりしてろ。交渉はすぐにすむ」

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