クーデター劇
龍姫信仰。
「考えることは同じなのか。真剣に考えればそうなるのか」
元は人間でありながら、ドラゴンとなった龍姫。メイル。
彼女が帝国と神教を支えていた。
だが、度重なる神教のやらかしに、何度も怒り神皇のすげ替えまで行った。
帝国においても皇帝交代に絡んだりしていた。
龍姫は積極的に政治や信仰に立ち入らないが、危機となれば手を下す。
「しかし神皇と意思が同じであれば思い悩む期間は終わりだ。一気に動く」
エウロバの執務室。
基本的に軍権は全てアラニア公国に渡した。
警備兵も基本的にはアラニア兵が勤めるようになっている。
その警備兵が固めているエウロバの執務室。
「皇帝陛下。どうされました? エウロバ様に御用でしたら、陛下の執務室に行くようお伝えしますが?」
警備兵が言うが
「ここで話をすることに意味があります。エウロバに、皇帝がこの部屋で話をしたいとお伝えください」
「……かしこまりました」
警備兵はすぐに室内に入ると
「どうぞ。我々は扉から離れます。なにかあれば大声で呼びかけを」
「エリス、どうした?」
エウロバは机から離れこちらに来る。
エウロバの執務室。
まだリグルドの記憶が無かった頃に、遊んで欲しくて訪れたりしていた。
あの頃とあまり変わらない気もする。
「エウロバ。腹は決まりました。これから一気に動きます」
「……そうか。わざわざ伝えてもらい感謝する。不意打ちで良かったろうに」
「不意打ちでは困るからです。エウロバ。帝国は滅びる。神教も滅びる。ですが、その移行を穏健に行う必要がある」
「以前四者で話をしたクーデターの話だな。出来るかぎり努力を……」
それに
「いえ。聞いてください。クーデターによる帝国崩壊と公国廃止。ここまでは良い。その後の逆クーデターはやりません。ティルディア神聖帝国はここで滅び、復活はない」
「……それは……それで良いならば混乱は最小限にはなるが」
「その続きがある。これは聖女ミルティアにも理解してもらう必要がありますが」
帝国の行く末の説明。
それにエウロバは困惑していたが
「……以前話し合った内容とそこまで齟齬があるとは思えない。私は全く問題ない。ただ、龍姫はそれでいいのか?」
それでいいのか? か。
「本人は嫌がると思いますね。それでも他に方策はありません。神皇も私もそれでいいとしている。リグルドと神皇は、神教を看取るためにいた。そう思っています」
エウロバと別れ後宮に向かう。
「サザリィを呼びなさい」
クーデターの開始の合図。
サザリィを正妻の婚約者にたてた。
だが、サザリィに不敬があり婚約者を下ろす。
それにより不信感を抱いたエウロバがクーデターを起こす。
サザリィと教育者が二人で来る。
今回は侍女達は控えるように伝えたのだ。
「先に話を伝えます。今回の婚約者を選んだのは全て政治の問題です。また、その政治の問題であなたをすぐに婚約者から下ろす。ですが、その事で心揺れないでください。私からの気持ちはなにも変わりません」
それにサザリィは微笑み
「はい! 信じております! 大丈夫です!」
そして後ろに控えている教育者が
「陛下。サザリィ様の不敬があったというお話があれば、教育者の私が投獄されるなどが無ければ不自然でしょう。私はサザリィ様のために何でも致します」
それに頷き
「ええ。それをお願いしなければなりません。とは言え下手な演技は必要ない。堂々とされてください」
クーデター。
「クミルティア。聞いているのでしょう。龍姫に伝えてください。今から始まります」
四百年続いた帝国が滅ぶ。
四百年繁栄した神教が滅ぶ。
その日が始まった。
エウロバのクーデター。
全ては打ち合わせ通り進んだ。
サザリィの不敬からのリュハへの婚約者変更。
それに伴うエウロバのクーデター。
既に軍権をエウロバに渡しておいて、婚約者の変更など、なぜするのか?
それはエウロバが送り込んだサザリィがその意図を組み皇帝をワザと怒らせた。
その意図を知り、皇帝は強攻策を取る。
クーデターをされるのを承知で婚約者を変更する。
流石にいきなりは殺されないだろう。
その間に援軍を待つ。
援軍とは誰か?
それは龍姫。
サザリィを降ろすだけではなく、リュハを立てる理由は龍姫の支援を期待しているから。
その辺りのシナリオは各国にすぐに伝わった。
城にいた龍族のカリスナダとクミルティアの二人は皇帝と側近の護衛に周り、安全を確保。
その間に龍姫の命を受け、龍族が転移で何人も送り込まれる。
エウロバ率いるアラニア公国軍3500人と、龍族10人の戦い。
冗談のような戦力差だが、龍族は一騎で1万に値すると称えられる戦闘力を誇る。
多少の傷はすぐに癒える。
アラニア公国軍もそれを知っているので、不用意に近づかない。
神都で行われる攻防戦に、民達は動揺したがあくまで戦は龍族とアラニア公国軍の戦い。
元々いた帝国本国の軍は動かず、民も巻き込まれないため、段々とその戦が娯楽のようになっていた。
エウロバはクーデターで皇帝を監禁したが、その監禁部屋の入口には龍族がおり、手出しが出来ない。
龍族とアラニア軍が戦っている間に、龍族は監禁された皇帝を後宮に逃がし、後宮で皇帝と側室を守るようになった。
つまり
「監禁とは名ばかりだな」
「えへへ♡ へいかー♡ 今回の衣装はどうですかー?」
ベタベタしているサザリィ。
不敬を働いて婚約者を更迭された扱いなのに、この甘々ラブラブ感は人には見せられない。
そして当たり前のように横にいるサザリィの教育者。
彼女は不敬を行ったサザリィの責任を取り、地下牢で拷問されている。という話になっているのだが、当たり前のようにサザリィの指導をしていた。
要は全てが偽り。嘘だらけだ。
「どこまでこの茶番が通じるか」
帝国内の各国は、既に争い始めている。
親アラニア派と反アラニア派の戦い。
龍族との戦いはヤラセだ。
だから、アラニア軍の精鋭はそこまでいない。
精鋭は皆反アラニア派に向かって行っていた。
また、ここぞとばかりに聖女信仰のオーディルビス王国が、反アラニア派の国々を攻撃。
反アラニア派は現状苦戦を強いられている。
「皇帝陛下さえ救い出せれば、現状は変えられる」
反アラニア派は、それを狙い神都に兵を向けているが、親アラニア派の国と、オーディルビスがそれをさせない。
皇帝は崩壊寸前の帝国を立て直した。
ここのピンチを防げば、必ずや帝国は蘇る。
それを旗印に戦ってはいるが戦況は思わしくない。
「順調なぐらい順調。だが、こういう時が一番恐ろしい」
物事が思い通りに行ったことなど無い。
必ずやどこかで落とし穴がある。
それに備えて何重にも策を練った。
初めから順調に物事が進むなど思ってもいない。
そして、その計画が破綻する最初の一報が届いた。
「オーディルビス軍が引き上げます!!! 女王であるタチアナが!!! 刺客に襲われ重傷を負ったそうです!!!」




