神皇との話合い
神とはなにか。
それはリグルドの時から何度も調べていた。
『神』は実在しないかもしれない。
そんな疑いはあったが、実在はした。
であれば、その『神』とはなんなのか。
「気紛れで、なんの考えもない。それが『神』だとしたら、恐らくこれがもっとも近い」
禁書として封印してある書物。
知識の搭と呼ばれる、識都にある巨大な搭には世界中の書物が集められている。
そこには禁書も存在し、絶対に閲覧出来ないように管理されていた。
その禁書を今回特別に取り寄せさせてもらった。
その本は「妖精大全」
過去の「妖精」と呼ばれる存在を事細かに記録している書物。
妖精は人間の敵。
過去に何人もの人々が殺された。
だがその巨大な力に憧れて信仰をする人々もかつては多くいた。
しかしその信仰の恩恵を受けることはなく、彼等の殆どは「女神信仰」に鞍替えした。
その「女神信仰」の教義から派生して生まれたのが我らの『神教』
つまり、
派生、分派を経たが元々は妖精信仰だった。
「女神信仰の女神も、大妖精の一人という話もある。女神信仰の女神と、神教の神は全くの別だが……」
『妖精大全』をめくると、様々な妖精の特徴が書いてある。
基本的に妖精は邪悪で脅威。
書いてあることも、どれもおどろおどろしく書いてはいるが
「大妖精リャナンシー。帝国の庇護の元、一気に神教が広まった時にこのリャナンシーの名は消され、妖精に関する記述は全て禁書扱いとなった。まあそういう事なんだろうな」
『神』の正体は、気紛れで、適当な大妖精。
基本的には人間の敵だ。
それがなにかの理由で、人間の味方をしている。
「なにかの理由。それは信仰心なんだろうな」
聖女は信仰心を集める事で『祝福』という名の奇跡を起こす。
人間の信仰心はなにかの力を使う触媒になる。
そう思えば話は繋がる。
妖精の伝説によれば、妖精を司る『妖精神』には直属の部下がいる。それが『大妖精』
今は七ついると言われている。
イフリート、ウィンディーネ、シルフィード、サンドマン、グノーム、ケットシー、メリュジーヌ。
しかし、グノームとケットシーは以前名前がなかった。
代わりにいたのが、リャナンシーとピクシー。
この2つが消されて、代わりがグノームとケットシーが入ったのだが、そのケットシーはドラゴンとの闘争で100年前に死んだらしい。
だが、ケットシーの代わりに誰かが入ったという話も聞かない。
死んだから入れ替えるという訳ではないらしい。そもそも妖精は死んでも蘇る存在なのかもしれない。
だとすれば、その2つは違う理由で外された。
リャナンシーは妖精神の恋人という記述がある。だが、気紛れで浮気症。
それが原因でよく喧嘩をしていた。
もしそれが理由で妖精神と完全に決裂したとしたら?
妖精神は強い。
無敵のような存在らしい。
それに対抗するために強化しているとするならば。
「この事実は歴代の神皇も気付いていた人間も多かったんだろう」
だから妖精関係を禁書扱いにして封印させた。
つまり我等が『神』は気紛れで、適当で、本質的には人間の味方どころか敵である。
そんな『神』に「私の信仰を守れ」と言われた。
とすれば。
「神皇に会いにいきます」
神教におけるトップは神皇。
その神皇は常に祈っている。
信仰心に篤く、歴代の神皇の中でも潔癖な人物だが。
「……お話があります。この信仰に関わる重要な話です」
神皇は頷き、彼の部屋に招かれる。
すると
「……陛下が入ってくる直前に神の声が、響きました」
それに目を見開く
今まで彼が超常的な話をしたことなどない。
地道に祈ることだけしか興味が無い男。
「『それでいい』そうです。それだけです。なにが良いのかは分かりません。分かりませんが、陛下の話で良いという話でしょう。お聞きします」
「……ならば、探り合いも無しで本題から言います。私は『神』から『この信仰を守れ』と啓示をうけ、リグルドの記憶を持っている。それは以前も伝えたと思います」
神皇は頷く。
「それ以降啓示は受けていません。しかし、『四神女』という存在が現れ私は思い悩みました。『神』の意思はなにか。どうして欲しいのか。そう考えた時に出てくるのが『神』とはなにか」
神の意思を探るべきではない。神とはなにかなど探るのは不遜。
常にリグルドはそう言っていた。
それに矛盾するような話をしているのに神皇はなにも驚かない。
「神の名は『ヤンスィ』かつていた大妖精は『リャナンシー』。名前の類似もそうなら、リャナンシーが大妖精を抜けた時期と、神教の布教が一気に進んだ時期は被っている。我等が神はリャナンシー。伝承では気紛れで、浮気症で、大妖精であったのならば、本質的には人間の敵」
神皇は顔色一つ変えない。
「だが、リャナンシーは『私の信仰を守れ』と言った。信仰心を集める事でリャナンシーに得なことがある。だからその信仰を守る必要がある。しかし、今の神教の組織は限界を迎えています」
ようやく、神皇は口を開く
「分かりました。神教は帝国と共に滅びましょう。代わりにリャナンシー信仰の、別の分派を作ればいい。一番いいのは龍姫信仰ですか。彼女そのものを崇めるのではなく、彼女の母を崇めるとすればいい」
私が最終的に伝えようとした事を先回りして言われ、私は絶句した。