ネルフラの無念
四神女。
すでにアンリはいなくなった。
ハユリとリライの二人は龍姫に預けている。
もう一人ネルフラはこの神都にいるのだが。
「ぐーーーー♪」
寝てた。
龍姫からは
「お預かりした二人は別物だと思っています」
と伝えられている。
実際ネルフラはこんな無防備に寝るような女性ではなかった。
王族というのもあり、常に人の目は気にしていた。
プライドは当然高かったし、自らを律してもいた。
それが故に最後は弱みを晒すことを拒否し、表に出ずに衰弱死という結末を迎えてしまうのだが。
そんなネルフラがくーくー寝ている。
これだけ図太ければ、ネルフラは死ななかったろう。
「……無念、か」
四神女は私の手伝いに来たと言った。
だが、アンリは手伝いなど拒絶し
「セックスしましょう! セックス!」
と騒いだ挙げ句消え失せた。
生前出来なかったセックスをして満足していなくなった。
恐らくだが、この四神女は無念を晴らしにやってきた。そうとしか思えない。
アンリはセックス。
ハユリは聖女の打倒。
だが、リライとネルフラの無念はそこまで明確には分からない。
今のネルフラを見るに
「……のんびり、周りを気にせず過ごしたい、とかか?」
龍姫のところに行くのを最大限に嫌がった。
元々相性の悪かった二人だから仕方ないと思っていたが。
「とは言え、このまま寝ていたら無念が晴れるわけでも無いだろうしな」
話をしよう。
ネルフラが起きるまで横で待っている。
すると
「……むにゃーーー」
変な声と共に、ネルフラが起きた。
「おはようございます」
「……あー、リグルドさまー」
目をこすってはいるが、眠そうにしている。
「ねむいですー」
「よく寝てましたね」
それにうんうんと頷くネルフラ。
「なんか、一人残されたら物凄いリラックスできましたー。みんなといると、どうしても張り切ってしまうのですー」
間延びした声。
ネルフラはハキハキと喋るので違和感が凄い。
アンリのような喋り方。
「私は敢えて聞かねばなりません。あなたがここになにをしにきたのか? 恐らくは無念を晴らすためだと思います。あなたの無念を教えてもらえますか?」
それにネルフラは首を傾げ
「……ここに来たのは、神様に言われたからです。リグルド様のお手伝いをしろ、と」
そうか、ネルフラはまだその認識の段階だ。
話を急ぎすぎたか。
「そうですね。ですが、神は恐らく伝えていないだけで、あなたの無念を晴らすためもあるはずなのです」
それに少し顔をしかめるネルフラ。
「……無念。確かにありました」
ハッキリと答える。
リライとネルフラは曖昧なのか? と思っていたがそうではなかった。
「教えて頂くことは可能ですか?」
無念を人に伝えることは容易ではない。
口に出してもらえるかは分からないが聞いてみる。
すると、ネルフラは微笑み
「リグルド様にならお伝えできます」
私になら。
なんだろうと聞き入る。
「……わたしの、無念は」
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【龍姫視点】
館に戻ったら、建物が半分無くなっていた。
「凄まじいわね。ある程度は覚悟していたけれど」
私の歩みに合わせ、龍族達が囲いを作る。
するとフェルラインが、半壊の建物から優雅な動作で現れた。
「姫様、お帰りなさいませ」
「ええ。ただいま。凄いことになっているわね」
この館には普段龍族達と、人族のお手伝いがいる。
しかし今回はハユリとリライを地下牢に閉じ込め、私はフェルラインとチャズビリスの二人だけを残し、龍族全員を連れて神都に向かっていた。
人族のお手伝いは避難させていた。
それぐらいの破壊活動はするだろうと思っていたのだが。
「作り直すにはちょうど良い時期だからいいわ。それで? 収まったの?」
それにフェルラインは、にこやかに笑い
「はい。手こずりましたが、チャズビリスがやり遂げました。是非褒めてあげてください」
半壊の館を進む。
「次はどんな色の壁が良いかしらね?」
「そうですね。薄い紅色はどうでしょうか?」
そんな話をしていると
「姫様、お疲れ様です」
チャズビリスが大きく頭を下げる。
その後ろには、空間ごと氷漬けにされた二人がいた。
「死んではいないのね。まあ知ってはいたわ」
暴れる二人を止めるには、チャズビリスの使う氷魔法で、氷漬けにするしかない。
だが、氷漬けにするほどの冷気を練り上げるのに当然抵抗される。
チャズビリス一人では無理。他に何人必要か? と問うたら、フェルラインが誇らしげに
「私とチャズビリスの二人いれば十分です」
と答えた。
実際にそれを成し遂げた二人。
なんて可愛い。
「おいで。私はとても上機嫌よ。愛してあげるわ二人共」
「ああ♡ 愛しております♡ 姫様♡」
「光栄です。温かい姫様」
二人はそのまま私に密着する。
氷漬けの二人を見るが、目はギョロギョロと動いている。
恐らく相当苦痛なんだろう。それも理解するが
「私の思い出を汚す輩には、この程度では生温い」
私を導いたハユリさん。
あの人は私の理想の信仰者だった。
純粋な信仰心をもっていたが、苦悩も強かった。
なぜ祈りが叶わないのか。
常に悩み、苦しんでいた。
その苦しみの中でも笑顔でみなを励ましていた。
その闘争に意味がある。
だが、このハユリさんからはそんな苦悩など感じない。
苦しめ。あの方は信仰心の高さ故に苦しんで、苦しみ抜いたから美しかったのだ。
お前らは美しくない。
「ネルフラか。あいつも苦しんでいたな」
嫌いな相手だった。
私が感情で「嫌い」という幹部は何人かいたが、ネルフラはその筆頭だった。
ハユリさんの後釜になったが、家柄が理由であり相応しいとはとても思えなかった。
それでも彼女は苦しんでいた。
苦しみながらも幹部を続けていた。
だから認めた。
そんなネルフラは今は一人。
「きっと、リグルド様に伝えているんだろう」
彼女の無念。
彼女がやりたかったこと。
「まあ、女として生まれたからには、味わいたいものなのかも知れないけれど」
浅ましいとも思わない。
ハユリさんも願っていたのだから。




