アホなだけかも知れない
『残念ながらー、お前の他にー! このピンチを切り抜けられるやつがいないのだー!』
神が私に語りかけた内容。
「底抜けのアホか、語っていることに偽りがあるのか」
七年前にこの世界に戻ってから、神の言葉と現状を何度も反芻して生きてきた。
神からの言葉
『そうなのだー! ここは『天』でー! 私は『神』だーーー!!!』
『簡単だー! 私を崇めている帝国がー! 崩壊寸前なのだー! 別に崩壊してもー! 私を崇めるならば許してやるがー! そうではないからだめなのだー! お前の役目はー! 帝国を立て直す! それが無理ならば! 神教の勢力を維持するのだー!』
『100年持ったがー。あいつはドラゴンなのでコントロールできねーわー、子飼いの龍族は生意気だわー!』
『皇帝の血筋は限界だー。だからお前が行くのだー! お前は今日から『天の子』としてー! 皇帝になるのだーーー!!!』
『リグルドーーー!!! たのんだぞーーー!!!』
これらの言葉をそのまま受け取れば
「皇帝として転生して、この帝国を救え。それが叶わないならば、せめてこの信仰の勢力を維持せよ」
そのように聞こえる。
この夢を何度も何度も伝えてきた。
だが、言っている内容は非常に単純だ。
「皇帝として帝国を救え。信仰を維持せよ」
こんな内容を何故何度も繰り返し見せるのか。
他の内容は一切ない。
『神』からの言葉はこれだけだ。他の指示はない。
唯一違った夢はハユリだ。
ハユリ達の四神女が出てきた夢。
よく考えればあのタイミングは変なのだ。
あの時はリュハと性交しようとして失敗したタイミングだ。
その後に四神女が現れ、結果的にリュハの番はかなり遅れることになった。
(四神女は火山を吹き飛ばしたり、エウロバを殺害しようとしたり、やることが直情的すぎる)
世の中に混乱をもたらそうとしている。
この状況で世が乱れれば、ここぞとばかりにエウロバと聖女は帝国本国を滅ぼそうとするだろう。
「火山の問題もな……」
心配していたように、山が無くなったことによって、天候不順が続いているらしい。
噴火よりマシとするべきか、噴火させた方がマシだったと考えるべきなのか。
エウロバへの加害もそうだ。
元々エウロバとはなんとか話合いで妥協できるような雰囲気もあった。
だが、あの四神女が来て以降は
「いつやられるか分からない」という危機感なのか、クーデターを隠さなくなってきた。
もうこうなればエウロバとぶつかる他ない。
それかエウロバに帝国全てを委ねる代わりに信仰だけは妥協してもらう案だが
(聖女ミルティアは策士。口先だけの約束など踏み倒してくるだろう……)
聖女ミルティアとアラニア公国エウロバの関係は複雑だ。
仲の良い親友であり、立場の違うライバルでもある。
目指すものが近く共闘はするが、争ったりもする。
「二人の仲を裂くこともできるんだろうが」
そんなことをしたところで感はある。
それよりも問題は
「神はなにを求めているか」
正直、『神教』に『神』などいないと思っていた。
思っていなかったからこそ、全能力をかけて初代聖女と戦っていたのだ。
黙っていても『神』は救わない。奇跡など起きない。不努力は破滅しか生まない。
努力しろ。立ち向かえ。戦え。
自分にも、周りにもそれを求めてきた。
だから、奇跡を濫発する初代聖女の勢力の撃退に成功したのだと思う。
だが、その成功の代償は大きかった。
四神女もそうだ。
龍姫もそう。
皆が不幸になったと思う。
また龍姫を囲った弊害が、今のエウロバだ。
アラニア公国の躍進は、龍姫がいなければそもそも生まれていない。
アラニア公国は龍族のソレイユから始まった国なのだから。
元々、聖女信仰のアラニア王国があった。
帝国とは別の国で、争っている中で龍族ソレイユが精鋭を率いてアラニアを滅ぼした。
滅ぼした国の王子とソレイユは再婚し、アラニア公国として再建した。
そしてそのソレイユの子、狂公と呼ばれたテディネスが今のアラニア公国の礎を作った。
エウロバはそのテディネスの子。
龍姫が生み出した龍族の孫が、帝国を滅ぼそうとしている。
そんな状況にも関わらず、神教の『神』はなにもしなかった。
やったのは私を送り込んだだけ。
「他になにも出来ないのか、と思っていたら、四神女を送り込んできた」
行き当たりばったり。
方向性が見えない。
だから最初の感想になる。
「底抜けのアホか、語っていることに偽りがあるのか」
神にアホとか失礼すぎるが、まだリグルドだったときに、何度も
「聖女はアホなのか」
とつぶやいていた。
奇跡を起こす聖女。
初代聖女の能力は本物。
だが、それを使いこなす本人に関しては私の評価は
「アホか」
だった。
リグルドのおかげで帝国の神教信仰を守りきったと讃えられいる。
実際は違うと思っている。
リグルドは、私は努力をした。
だが、努力程度でどうにか出来るようなものではない。
殆どの原因は聖女にある。
気まぐれで、計画性の無い奇跡の濫発。
戦略性がなく、気まぐれとしか思えないその奇跡の使い方は、信仰心を高めるどころか疑いを生じる使い方もしていた。
聖女のような力のある存在は必ずしも「賢い」わけではない。
そんな単純な話。
では、我らが『神』は?
となると言葉につまる。
つまり、初代聖女が気紛れで適当な性格をしていたように、我らが『神』も気紛れで適当かもしれないのだ。
(そうだとしたら地獄なんだが)
ただ、四神女を見た私の感想は
「よりによってこの4人とかバカなのかな?」
だった。
わざと壊して欲しいのほうが救いがある。
もしも壊して欲しいならば、エウロバか聖女と手を組む。
ただ、本当に行き当たりばったりの適当な性格だったら
「龍姫と共に、エウロバと戦うことになるのか。地獄だな」




