神の意志
エウロバとミルティア、タチアナの3人は話し合いが終わった後に即座にグラドニア公国に転移した。
「どーだったー?」
女を侍らせながら果実を食べるタチアナ。
「あの人、腹に何物あるのか分かりませんね。稀代の策士、冷徹な独裁者、微笑の死神。まあ生前から凄い言われようもされた人ですけど、実際会って話をすると本当に思いますね。こいつやべーやつだって」
ミルティアは近くにあった果実を頬張る。
「あの交渉は信じるに値しないということか……?」
エウロバは転移した状態のまま立っている。
「いえ、あれも本音。上手くいくならあれでいい。でも龍姫が強く警告していましたが、あんなヤラセのクーデター劇、上手くいくはずがない。聖龍大戦の二の舞ですよ」
エウロバも頷き
「……そうだな。そこは私もそう思う。そう簡単に公国が従うとは思えん。それが出来るならこの10年で私が成し遂げていた」
タチアナは隣にいた女の胸を揉みながら
「それで? 僕はどう動けと?」
ミルティアは少し目を細め
「エウロバのクーデターに時を合わせ、一気にアンジ公国に攻めいる」
「アンジね。中々難題だ」
アンジ公国。反アラニア派の中でもっとも強硬で、強力な将軍に率いられた公国。
アンジ公国の将軍ヘレンモールは、妻である王族の娘と子を為しており、その子が国を継ぐのが確定していた。
つまり王の父になる男。
アンジ公国は国全体でまとまっており、七年前の帝国統一戦争でも、オーディルビスとアラニアの二勢力を相手にしながら五分で戦い抜いていた。
「クーデターか。タイミングはいつ起こす?」
エウロバの問いかけに
「側室全員と寝たそうですね」
突然ミルティアは違う話題をふる。
「……ああ、最後のリュハとも寝たと聞いた」
「リュハが懐妊と報が流れれば一気に動きます。ラウレスなら私に、サザリィならエウロバに事前に話が来るでしょう。それを選べば軍は勝手に動かしません」
「……子、か」
「リュハを選べばれると地獄ですね。タチアナはアンジ公国が相手ですが、エウロバさん。あなたの相手は龍族ですよ」
「……覚悟している。そのために何年も軍を鍛えていた」
「龍族は良いとして、龍姫は? 強いのでは?」
タチアナの問いかけに
「龍姫は私が相手します」
=====================
龍姫と二人で話し合い。
「あのシナリオには恐らくならないでしょう」
私の問いかけにゆっくりと頷く龍姫。
「今いるクミルティアと、もう一人護衛で龍族を残します。カリスナダという龍族です」
カリスナダ。
「聖女になる前のミルティアと仲の良かった龍族ですか」
「ええ。護衛としての能力はそこまで期待はしていません。ですが、ミルティアはカリスナダを母のように慕っている。手出しはしません」
それに頷き
「ミルティアとエウロバには意志の齟齬がある。そこを突けば色々分断は出来るでしょう。ただ、そこまでやらなくとも正面からぶつかり合う選択肢の方が選びやすい」
「そうですね。私もそれに賛成です。戦争は避けたいですが、聖女とエウロバとぶつかり合うのを避ける訳にはいきません。ある程度の戦は覚悟しましょう」
戦いの覚悟。
「そうですね。メイル。あなたには本当に迷惑ばかりかけている。可愛い龍族達を戦に送り込むような決断をさせてしまい、本当に申し訳がない」
申し訳がない、か。
そんな言葉、何度口にして、何度その相手を切り捨ててきたのか。
「陛下。陛下の慈愛は私が一番よく知っております。あの4人も笑顔で戦い抜き死にました。誰もリグルド様を恨んでなどおりません」
陛下。リグルド様。
呼称のぶれはワザとだろう。
「率直に話をすれば、神教はもはや限界にあると私ですら思っています。帝国も限界ですが、神教の組織も限界でしょう」
龍姫の言葉は意外でもなんでもない。
百年も世界を見守ってきた。
そうすれば自然とそう思うだろう。
「歴史上、こんなに長く続いた宗教はありませんからね」
大体300年程度で宗教は変質する。
本来ならば初代聖女が出たタイミングで神教は終わって良かった年代だ。
聖女信仰は、神教信仰と教義がそこまで差がない。
奇跡の取り扱いと同性愛の考え方程度だ。
(龍姫も本来なら聖女に近い思考をしているしな……)
女性を囲いこみ、性行為にも躊躇いはない。
本来なら、この世界は聖女信仰になっていたはずだ。
それを止めた男と称されたリグルド。
そして、再び大地に下ろされた。しかも帝国の皇帝として
「龍姫、三人の側室の誰かが孕めば一気に事態は動きます。いつでも動けるようによろしくお願い致します」
「陛下。いついかなる時も御命令を。必ずや事を為します」
(……誰かが孕むまで。あと数ヶ月もないな)
だが、先延ばしは愚策。
決めれば一気に動くしかない。
その決断
(目の前の龍姫すら裏切るのかもな)
神教の限界。それなのに送り込んだリグルド。
神は恐らく。
「神の意志を知ろうとするなど、愚か者のやること」
神教にトドメを刺して欲しいのでないか。




