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四者会談

 オーディルビス王国の女王タチアナ。

 彼女は属国であるグラドニア王国に移動していた。


 グラドニア王国は帝国のある大陸にある国。

「いつでも出れるよー」

 目の前にいる女性に微笑むタチアナ。


「ええ。向こうが決断したら一気に動きます。いつでも出れるようにお願いしますね」

 聖女ミルティア。


 彼女も帝国のある大陸に既に移動していた。


 エウロバと連携をとっており、軍権の移譲を聞いた段階ですぐにタチアナに「グラドニアに軍を集めろ」と連絡をしていたのだ。


「10であの治世なら、15になれば帝国全てを立て直す政治も出来るんじゃないの? ってみんなが思うのも理解できるけどねー」

 タチアナは楽しそうに笑う。


「そうですね。ただリグルド本人は全くそう思っていません。帝国の命運はあと五年で決めるそうです。手強いですよ、こっちも全力でかからなければ飲み込まれますね」

 ミルティアは目の前の肉を食べながら


「戦争になるか、対話で収まるか。龍姫含めた話合いによってはここで私達は動きます」


「戦いになったらラウレスをどうにか保護したいけど」

「そうですね。彼女もある程度は覚悟していると信じていますが。そのためにも安易な開戦は決断しません」

 ミルティアは頷き


「ですが、いざとなれば躊躇いません。タチアナさんには先に言っていますが、ラウレスは正しい意味で人質です。人質ですから、最悪の事も考えておいてください」


 タチアナは神妙な顔で頷く。

「とは言えご安心を。覚悟は必要なだけです。私も安易に戦争する気はない。でも相手はリグルド。なにをしでかすかは分かりません。あの人は最高の女たらしですからね。あの四神女もそう。龍姫もそう。リグルドを慕って人生を捧げた女達が何人いたことか。そしてその誰もが圧倒的な成果をあげた。そしてその成果をあげた女性達を冷徹に使い潰した。あの男が覚悟すれば、エウロバも殺されるし、私も潰される。女王タチアナ。戦になる覚悟だけは持っているように」


 ミルティアは肉を食べ終わると。

「それじゃあ帝国本国に行ってきます。すぐに連絡しますから」

 そう言ってミルティアの姿はかき消えた。


 =====================

 帝国本国に集まる、この世界の有力者。

 これに他の公国達が騒ぎ出した。


『陛下、なにをされるおつもりで?』

 聖女と龍姫が神都にくる。


 それもエウロバが後見人を降りるタイミングで。


 これは親アラニア派も反アラニア派もざわめいた。

 なにをするつもりか


「話し合いだ」



 龍姫は龍族達に囲われながらゆったりと歩む。

 既に城には聖女とエウロバが待っていた。


「陛下。大変失礼かと存じますが、この状態でお話させて頂けると」

 この状態。龍族達が護衛した状態で話をすると。


「無論です。それで、エウロバと聖女ミルティアも共に語り合いたいと来ました。率直なお話をさせて頂ければ」


 率直な話し合い。

 既に人払いは終わっている。

 ここには龍姫と龍族達、聖女、エウロバ、そして私。


「私はエウロバに軍権を渡しました。恐らく近いうちにクーデターを起こされ拘束されるでしょう」

 それに目を見開くエウロバ。


「それが分かりながら軍権を与えたのは混乱を最低限にするためです。このままではエウロバは帝国本国ならびに反アラニア派との戦争になる。未だに帝国本国は事態を甘く見て『このままの治世が続けば帝国は立ち直る』となってしまっている。これでクーデターを起こされ、私を拘束されれば混乱状態のまま何人も死ぬことでしょう」


「……そこまで分かっていらっしゃるのならば、自発的に退位されれば? アラニア公国の王、エウロバに皇帝の座を譲れば混乱は最小限に収まる」

 ミルティアの言葉。


「それが出来ません。そうなれば国教は聖女信仰になります。そこを変えないという口約束をしたところで、今のアラニア公国の神教信者の割合を見れば自明です」


 アラニア公国は国教は神教。

 王や貴族は神教を信仰しているが、国民における聖女信仰者は九割を越えている。


「自由に信仰させて、その結果良いものが選ばれる。当然の話では?」


「人は『奇跡』に頼るべきではありません。聖女ミルティア。あなたは偉大だが、私は確信を持って言う。神教の『人は奇跡に頼るべきではない』という教えは、間違いなく正しいと」


 それに微笑むミルティア。

「その通りです。奇跡の濫発は怠惰を産む。私はこの『怠惰』と10年戦ってきました」


 怠惰か。そのとおりだ。

「確かに神教の威光は衰えました。それは信徒が教えを守らなくなった。宗教が形骸化したからです。ですがその教えは未だに正しい。本来は私を送り込むことは不本意だったはずです。これは『奇跡』ですから。現に神は『残念だがお前しかいない』と言われた。本当に『残念』でしょうね。それでも私は戦う。この教えを残す。この規模で残す」


 黙っていたエウロバがゆっくりと口を開く。

「……エリスを、解放してやってくれ」

 エリス。

 この身体の幼名。


「神教だ、帝国だ。そんな大人の話と、エリスは本来無関係だ。エリスはもうただの子供として返してやりたい。それだけだ。そのためにはかなりの妥協をする準備もある。私が皇帝になる必要はない。公国制度の廃止が飲めれば、私は喜んで王を辞めよう。そのあとはエリスと楽しく過ごすさ」


 公国制度の廃止。この歪な帝国の形を正す。それが出来れば王を辞めていいと言う。


 そして龍姫が、歌うように囁く。


「クーデターによる帝国崩壊。それによる公国制度の廃止。その後、幽閉されていた皇帝が逆クーデターによりエウロバを追放。この流れが一番スムーズでしょう」


 一度クーデターを成功させた後に逆クーデター。それはこれから話をしようとした内容。


「公国の廃止は簡単にはいきません。陛下が手をかければアラニアの味方が増えるだけ。そしてエウロバはクーデター後苦労が増えるだけです。ならばいっそ一度崩壊させる。綺麗にゼロにする。そこから作り直す。これが一番早いです」


「……私もそれを提案しようかと思っていました。それに付け足せば、新しい皇帝は私でなくていい。神教の熱心な信徒であれば。具体的にはマヤノリザです。私の叔父にあたり、エウロバの婚約者にして、龍族の血を引く男。しかも一度は先帝から後継指名もされました。資格は十分。そうなれば私の役目はなくなります。この身体がどうなるかの保証はできませんが、『エリス』の意識が蘇る可能性はあります」


 エウロバが頷く。

「問題はこの内容で聖女ミルティアは納得行くか?ですが」

「そうですね。オーディルビス王国は当然のように侵略戦争を行いますね」

 そう。そのあたりが妥協点。


「……以前私は、先代の聖女と結託して、やらせの戦争を行おうとしました」

 龍姫の話。

 ミルティアが神妙な顔をする。


「その結果が『聖龍大戦』です。一年に渡る全世界を巻き込んだ大戦争。あれで何人の命を奪ったのか。私は同じ事はしたくありません。安易な結託は暴走を招く」

 みなが黙る。


 そして

「ですから緊張感をもって行いましょう。役者はシナリオ通り動くとしても、その観客達は勝手に動き劇に乱入してきます。なにしろこれが劇だと知らないのですから」


 そしてため息をつき

「……聖女ミルティア。これが収まれば私も眠りにつきましょう。今ここで余計な野心を抱かないでほしい」

 龍姫。


 それにミルティアは

「分かりました」

 頷いた。

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